MADLAX
第1話「銃舞-dance-」
2004/04/12 記
OPから飛ばしまくっている予想以上の内容に、思わず見返してしまうほどテンションが上がる。梶浦由記の大仰な曲は相変わらずとても良くて、この人の曲が好きなんだなぁ、と改めて自覚させられたり、そのカットさえ格好良ければ良い、動かすことよりも、カットのスタイル、見栄え、状況が全てだ!と言わんばかりのシチュエーションや絵にクラクラしたり。整合性? そんなモンはドブにでも捨てて、見た目と状況の格好良さ、真下耕一的様式美を楽しむのが、真下監督作品の見方だと思っているんだが……間違ってますかね? つか、その辺は色々なところでツッコミを入れられていると思うのでここでは割愛。その一瞬が格好良ければそれで良いんだよ……って、真下耕一監督ってCM作ったりするとすごいことになる、のかもしれない。女性同士の純愛がやれないから、やらないとは思うが。
にしても主人公があからさまに人格破綻者(離人症+パスタ&ドレス偏執狂)、次回出てくる相方も、予告から察するに人格破綻者、そしてその上、桑島法子嬢が声を当てるとなると、いやがおうにも期待は高まる一方、次が待ち遠しくってしょうがない。つか、最初に出てきた金田朋子声の幼女はどう絡むので? また三つ巴なんか?
第2話「紅月-crimson-」
2004/04/13 記
お下げの方はborderline personality disorderってことでOK? そこにdepersonalizationを足しても良いけれど。つか、延々とその性格描写を続けたあげくに何の解決にも至らないまま終了、そんな今話の解説を次回予告でやってのけるというのは、目から鱗落ちまくりな演出デス! と思って前回の次回予告見直してみると、2話の内容そのままでちょっとビックリ。なんだ、いつも通り話が1ミリも進んでいないだけか。となると、次回も予告そのままなンか?
桑島法子嬢のお当番回でこの内容なのは残念だが、と思いつつも『桑島法子のボーダー演技』として見ると見所しかない、という内容にやっぱり
見返す聞き直すほど楽しんでいたりもする。ぽややんでぼけぼけなキャラクタも真下監督と桑島嬢にかかると、どう見てもヤバイ人にしか見えないのが実に素晴らしい。……って、NOIRのイメージを引きずりすぎかもしれないが。
で、やっぱり今回も出てきたパスタは、今後も続くンかね?
第3話「蒼月-moon-」
2004/04/20 記
TV東京のMADLAXサイトを読むと面白いくらいに話の内容が解ります。ので、オススメ……つか、この辺は前提知識として頭に入れておかないとダメ、ってことなんデスカーーッッッ!!!!
ってな具合に本編だけ見ていると、つっこみ所が多かったり、どうも解りにくかったりする本作だが、そんなのは真下監督という時点で解りきっていたことなので、たいして気にも止めていなかった。けれども、設定やシチュエーション、という部分の作り込みは、やはり巧いと思うので、その辺はきっちり押さえた方が面白いんだろうな、と改めて思い知った気分だ。つか、『これまでのお話』を読んでシーンの行為が解るってのもすさまじいけどな。
で、第3話なんだが、ぼちぼちとネタを蒔きつつ、キャラ紹介をやっている、と解釈すればいいのやら、或いは、いつもどおり、話なんぞ進んじゃおらん、と解釈すればいいのやら。ライフルで撃ち合う(?)のは格好良いんだけれど、どうしてそうドレス大好きなんだ? ……もしかして視聴者サービス?
第4話「誘惑-ask-」
2004/04/28 記
やっぱり、マーガレットは何度見てもコワイ存在だ。天然とか、ぽややんとか、そういった範疇ではない、なにか病的なモノを感じずにはいられないのだ。それは勿論、制作者の意図するところ、だと思っているのだが、もし、そうじゃなかったとしたら怖くて夜も眠れない……かも。ソファーの上で膝を抱えながら見上げるその先に、一体、何を見ているのだろうか? つか、マーガレット当番回は病んだ人しか出てこないデスね。
今回は、いつにもまして意味があるんだか無いんだか、なお話。前半、小道具として使われていたパソコンの扱いが割とフツー(suでroot権限取得とか)だったのにもかかわらず、後半にはいると、店頭に並んでいるTVの電源が入った上におなじ画面を出す、等というオカルト現象まで行き着いてしまったり、その直後にイメージ映像すぎて何が起こっているのか全然解らない状態に突入したりと、咀嚼するには難易度が高めだ。いつもの事と言えば、いつもの事だが。で、見所は、ヘリアンサス(ひまわり)が咲き乱れているシーンと、サイバーブレインウォッシュ(?)のシーン。部分だけ取り出すと、やっぱり格好良いんだよなぁ。
第5話「無在-none-」
2004/05/07 記
またマドラックスがふられる話かよ!しかも、やっぱり今回も自分勝手に盛り上がってるよ、この娘!!
あれか? この後、やがて誰かを待つ事に疲れたマドラックスが、だったらずっとそばにいてもらおうと選んだ相手が、ガザッソニカで一人、立ち往生していたマーガレットだった、なんて話になるのか? そして、一緒に暮らすようになった二人だが、しかし、マドラックスの運んでくる硝煙の臭いに、マーガレットの閉ざされていた記憶がよみがえり、みたいな展開に。(妄想)
奇数回なのでマドラックスの当番回なのだが、『nowhere』の垂れ流しが無くてちょっと残念。そしてなんだか普通に話がすすみ、着々とガザッソニカ、ガルザ、アンファン、各組織と、その関係がかかれていく。さらに、クリスの過去を枕にマドラックスの過去、そしてその目的までをもきっちり描いてくる。その分、力を抜かれたのか、3話で出た分さっ引かれたのか、リメルダ少尉の陰が相変わらず薄かったが……。
今回は、あんまりハッとするようなシーンが無かった。ただ、スナイパースコープ越しのシーンでかかっていた曲が格好良かったが。OPで、マドラックスがくるくると回転するシーンなんてのは、本当に見ほれるほどの出来なので、もっとそういったものを見たいと思うんだが……次の、真下監督、絵コンテ当番回はいつになるんだろうか?
第6話「遺言-leave-」
2004/05/15 記
マーガレット当番回。相変わらず話の方は1ミリ進行なんだが、偶数回は心が病気の人しか出てこないので、それはそれで楽しかったり。勿論、その筆頭はマーガレットなんだが。あの、他の追従をゆるさないつきぬけっぷりは本当にヒデェ。
前回、全く出てこなかった聖都から始まりつつ、マーガレットの学校生活、と見せかけて自己境界線が曖昧である事を見せてみたり、他人という現象が本質的に理解できない、という様な態度をとってみたりと相変わらずな描写に思わず苦笑。つか、どうして今日は敬語なんだ、マーガレットさん? はっきり言って不気味でしょうがない。
そして、精神科医に「お嬢様は普通です」と報告するエリノアにツッコミを入れずにはいられない。普通か? あんた、アレが普通に見えるのか? いや、エリノアもおかしい人なのでそう見えるかもしれないが。きっと、マーガレットに感化されたんだろう。
その後の、エリノアとヴァネッサの会話もいつものように嫌悪感を感じる程度には変な会話で、どうして日常描写がここまで歪んでいるのか不思議に思うくらいだ。そしてダメ押しとばかりにBパートで、石田彰声にレイプされそうになったマーガレットを間一髪助け、手首がちょっと痛いと聞いて、思わず石田彰声の手首を踏みつぶすエリノア……相変わらず動かないアクションシーンや、微妙に荒れてきた作画以上に、そりゃヒデェし、えげつないし、容赦もない。石田彰声に同情の余地もないけどな。
そして、最後の最後まで、こんどは時系列が自覚できないかのような発言をするマーガレットと、それに普通に受け答えをするエリノア。このときの会話内容から、どうやらこの二人、同い年のようなんだが……いや、似たもの同士なのは間違いないんだけどな。
第7話「繪本-nature-」
2004/05/20 記
1クール目後半戦。さすがに当番回という感じではなくなってきた。マドラックスとマーガレットの紹介は終わった、ということだろう。そして、その世界についても。今回、はっきりと物語が動き、そして面白くなってきている。6話という話数をかけて構築してきた世界に対し、とうとうその問いかけが始まったのだ。この『絵本』とは、いったい何なのか?
ビブリオ・ディテクティブ(書籍探偵)のエリックを通じて、血の付いた絵本と同じ本を探し始めるマーガレット。当然のようにその話はガザッソニカに通じ、現地に飛んだエリックは、矢張り当然のようにマドラックスと会うことになる。マーガレットとマドラックス、最初の接点だ。さらにはその本を求めるアンファンの動き。その現場で、セカンダリ、さまよえる禁断の書、と呟くカロッスア。
絵本を通じて、絵本の中身であるエリエス文字を通じて、記憶のない者達が集まる場所。ガザッソニカ。エリックですら記憶をなくした男だ。それが(おそらく)次回、明らかになり、そして最後のメインキャスト、クアンジッタが登場する。そして、クアンジッタの語るであろう、エリエス文字で書かれた物語は聖都へとつながっている、のだろう。
ラスト、エリックに「あんた、何人殺した?」と聞かれてとまどうマドラックスが、それでも「数え切れないほど、人を殺してきた。この戦場で」と答えるシーンで、けれども幸せそうに眠っているマーガレットが映し出されていたのは、彼女もまた人を殺してきた、という暗示なのか、彼女が戦場に人を送り、人を殺させている、という暗示なのか。
ってな風に、マーガレット、マドラックスがAパート、Bパートと別れてたくさん出てきたり、色々深読みしたりして楽しんでいるのだが、何となく物足りない感じだ。なんというか……エネルギーが感じられない。その点のみで語れば、未だ1話を超えるものは出てきてないんだが、とはいっても、1話が話としてはもっとも破綻してたしなぁ。
第8話「魂言-soul-」
2004/05/25 記
物語は予定通りに進んでいるのに、けれどもその内実は広がり続けている。その濃度をなお増しながら。
前話から続いていたエリックの行く先は、当たり前のように破滅へとそのコマを進め、その様を見せつけられたマドラックスは、再び、前話ラストと同じようにとまどうばかり。目の前の物事を効率的に処理できるのに、けれども、その内容を理解できていない。有能なマドラックス。幼いマドラックス。彼女は、『ここは普通すぎる』と呟いたエリックの言葉に、逆に疑問を投げかける。普通って何? 何が普通なの? (ここは/これらは)全然普通なんかじゃない。
一方、破滅へと落ちていったエリックからの手紙を受け取ったマーガレットは、その(普通じゃない)感性から、彼の感情を読み取る。それがミスリードなのか、それとも真実なのかは判らないが、境界線にいるマーガレットだからこそ受け取れたメッセージであることには変わりない。それらを含めて、『私らしくて良かった』と呟くマーガレット。相変わらず怖気が走るような台詞を言ってくれる。そこから察するに、自分が自分でない(瞬間がある/あった)、という自覚があるのだろう。なるほど、マーガレットは回復しているのかもしれない。
そして、7話、8話の主役、エリック。7話の冒頭、調査隊の銃撃事件と、8話Bパート、聖都に触れた後の、取り戻した記憶の回想が、両方ともエリックの破滅に結びついているはずなのに、ほとんど関連性を臭わせないあたり、思わず苦笑する位いつもの展開だ。なんてか、さりげなさ過ぎる。それともその二つを結びつけようなんてのは、ただの脳内補完でしかないのか? そんな回想を発端に、エリックがあっさりと、そして静かに破滅していく様は実に良い。久々に琴線に触れる演出だ。その引き金となったレティシアの出現と台詞もまた、良い。
「普通にしてるわ」「そう、ここはとても普通な場所」「でも、あなたが立っている場所は普通のはしっこなの」彼女が普通の端を超えた場所からささやく。「どうしてここに来てしまったの?」
夏夢夜話といい金田朋子嬢のこういった演技しか聞いたことがないが、幼い声で語られる冷たさ、という構図はココロ惹かれるモチーフで、その演技を金田朋子嬢は、はっきりとこなしていると思う。あの舌っ足らずな声で。すばらしい。
そして、EDの後、第9話の予告は、第2話、第3話の予告と並んですばらしい出来だ。そのささやきの一つ一つが、僕の琴線をそっとなでていくほどに。このような叙情的なものをやると本当に巧い。だからこそ、たとえ話が破綻したとしても、シーンやカット、演出にこだわり、より叙情的なものを作り上げようとしていると……思って良いんですかね?
第9話「残香-scent-」
2004/06/02 記
ガザッソニカ、死のにおいがするマーガレット。そして、いよいよおかしくなってきたマドラックス。二人の描写が入れ替わっているように思える。それは二人が聖都に触れたからなのか、それとも、元々そういう性格だからなのか。平和な世界になじめないマーガレット。平和を理解できないマドラックス。どちらにしろ、二人とも平和な世界で心から暮らせそうもない。
再び、当番回の様な構成になっている。ただし、7話を境に、奇数回、偶数回の当番が入れ替わっているが。ので、9話はマーガレットの当番回だ。その、驚くほどに奇異な発言が少なくなったマーガレットが、絵本に向かって答える。私も一緒だ、と。ガザッソニカから来た男の「ここは平和だよ、嫌になるくらいに」、という言葉に対して。彼も彼女も、平和な、殺し合いのない世界とは、なじめないままだ。
だからこそ、なのか、そんなにおいを敏感に感じ取るマーガレット。彼女の目は平和な世界以外のものを見ようとしている。平和以外のものを敏感に感じ取り、まるで植物の根のように、それらに目を、手を、のばそうとしている。それは彼女の持つ絵本、セカンダリの所為なのか、彼女自身の持つ何かの所為なのかは解らないが、マーガレット自身は平和世界に同化する気はないようだ。
相変わらずエリノアは奇妙な言葉を選んで使い、ヴァネッサも、それに楽しそうに対応している。この二人、なんだかんだで仲が良い。端から見れば奇妙極まりないのだが。
次週、とうとうヴァネッサがガザッソニカに渡るようだ。そして、いつもの二分割された予告画面の両方にヴァネッサが同時に写ったのは、境界のどちら側にも居る、という意味なのだろうか?
第10話「侵触-dive-」
2004/06/08 記
昔の、と思われるマーガレットとヴァネッサ。マーガレットのお下げはやや短く、ヴァネッサもまた、髪が短い。その上格好も若い。2年以上前の、ヴァネッサが家庭教師をしていたという頃だろう。その時の、二人の会話だ。
物事の善悪が解らないと無邪気に言うマーガレットに対して、真実は変わらない、と答えるヴァネッサ。物事の善悪、正しいこと、間違っていること、というのは真実の解釈に過ぎない、と。そのことをベンチでふと思い出すマーガレット。彼女は、何を考えてそこに思い至ったのだろうか?
タイトルを挟んで、会社でガザッソニカへの商品ルートを探るヴァネッサ。画面には2011年7月頃のナフレスからガザッソニカへの資材搬入記録とおぼしき情報が表示される。その表示のされ方がいかにもキャラクタベースで、思わず苦笑する。たしかにMADLAX世界ではUNIX系のOSが全盛の様で、だからこそコンソールも力強く生きているのだろうが、視認性が劣るCUIをわざわざ、しかも商品の移動ルート情報の表示、などというものに対して使う必要がどこにあるだろうか?
……矢張り、これはレガシーでアンタッチャブルなシステムが未だ稼働している、と考えた方が説得力あるよな。『この国最大の商社』と言われるブッグワルドの基幹システムがこれだというのは少し頭の痛いことだが。
やがて、正規のルートでは知りたい情報にアクセスできないと判断したヴァネッサは、学生時代の友人バッジスの元を訪ねる。彼の力を借りて正規じゃない方法で会社のホストコンピュータから情報を入手しよう、と言うわけだ。その提案に対してバッジスは"TrueCluster"を使おうと答える。2300台のPCを接続して、262.4TFlopsの性能があるそうだ(ちなみに現在だと、
NECの地球シミュレータが世界トップの性能で、35.86TFlops)。そして個人所有。つまり、TrueClusterはバッジスが趣味で作ってしまった代物なのだ。そのGeekっぷりに尊敬の念を覚えるが、それはまた別のお話。
そんな事態と平行してカロッスアの調査が進む。ファースタリ。セカンダリ。そう呟くカロッスア。少なくとも絵本は2冊現存するようだ。そして彼の手はあっさりとマーガレットにまで届いてしまう。窓辺から、いつものように別の世界を垣間見ているマーガレットを見上げるカロッスア。彼が行動を開始するのをカウントダウンするように、ヴァネッサの、ハッキングの残り時間を告げるカウントが響く。そして……全てはギリギリで止まり、舞台はいやがおうにもガザッソニカへとつながっていく。
MADLAXにおけるコンピュータの描写は、ある程度詳しい人がいるのかそこそこ現実に即していてなかなか楽しい。例えばIPアドレスと思われる表記がIPv6だったり、ギミックが流行のPCクラスタだったり。勿論、変な部分もあって、プログラムの活動状況によってコンソールのテキストカラーが変わったり、Packet Monitorというよりnetstat的な情報等々、演出としては解るが、違和感を感じたり、思わず苦笑したりする描写がいくつかある。つか、アンファンの世間的評価に、そりゃ東方算法騎士団かよ! と画面にツッコミを入れる。アレはアレでアレゲな代物だったが。
次回予告で、ひたすら真実にそのまま触れろと、静かに煽り立てるレティシアの声に、いよいよガザッソニカの真実が垣間見えてくるのかと、ほんの少し期待する。このままヴァネッサを追ってマーガレットもガザッソニカに渡るのだろうか。或いは、まだまだ引っ張るのだろうか。
第11話「異国-object-」
2004/06/15 記
ガザッソニカに渡ったヴァネッサを心配してか、ガザッソニカについて調べるマーガレット。アジアの王立小国、3000万人に満たない人口、12年前から続く内戦。当のヴァネッサは仕事をこなしつつ、この国のどこかにあるというブッグワルドの資材搬入記録を求めて町に繰り出す。バッジスからの情報では、町の西地区にある電気屋で販売されたPCの中にその情報はあり、その地区にはそこしかPC販売を行っている店がない、とのこと。流通情報からシリアルNo照合でルートの絞り込み、までは兎も角、ネットワーク経由で個体識別番号まで取得できるのはコワイね。
バッジスの紹介もあり、現地で非合法エージェントに「自分の命をねらっている相手を探す」事を依頼するヴァネッサ。当然、その仕事を受ける相手はマドラックスだ。それを受けて、実際にヴァネッサを何回殺せるかチャンスをうかがうマドラックス。結果、僅か30秒足らずの間に7回。人はこんなにも無防備になれるのか、とあきれるが、果たして、それでこの仕事が困難だと思ったのかどうか。
やがて(あっさりと)目的のPCの持ち主を捜し当てるヴァネッサ。その相手が子供で男とみるや行けると判断したのか、巧みな話術で相手にそのノートPCを持ってこさせる。ガキなのか、ヴァネッサの魅力にやられたのか、それにあっさり答えるアインス。そのアインスが戻ってきた瞬間、ノートPCを奪い取り問答無用でデータを吸い出すヴァネッサ。データ確認の際にパスワードを打ち込んでいた処を見ると、暗号化等されていたのだろうか。
相変わらず、ファイル一覧がCUIなのに(ls -alっぽい)、ファイルコピーがGUIダイアログになっている等々、どのへんに突っ込んで良いのか困るような描写だが、携帯しやすいPCカードにデータ転送を行うのはそれっぽい。今時ならUSBに挿すような代物だと思うが。そしてきっちりファイルを消していく……つか、最初からmvにしとけよ。それとも、ファイルサルベージ出来ないように処置していたのか?
それだけ終わらせてしまうと、さっさと立ち去ろうとするヴァネッサ。事態を良く飲み込めていないアインスの膝の上にのせられているノートPCの背面にあるロゴが、冒頭、マーガレットが使っていたノートPCと同じロゴだということにこの時点で気が付く。性能が良く、デザインも良いが、値段が高い、というPCを売っているタービック社というのは、IBMかAppleみたいなモンか?
しかし、時遅くアンファンにかぎつけられたヴァネッサ達は、直後、サングラスの男達に囲まれ、銃を突きつけられる。データを渡せ、さもないと子供から死ぬぞ、と。一旦あきらめてデータの入ったPCカードを渡そうとするヴァネッサの脳裏に、兵隊に連行されていく両親の姿がフラッシュバックする。このままでは、真実は闇の中に消えてしまう。これを渡すわけにはいかない。
そう決心したヴァネッサをマドラックスの銃弾が救う。けれど目の前の殺人に惚けるヴァネッサ。それに対して普通に、むしろ仲の良い友達にでも声をかけるように、優しく、親しげに「遅くなってゴメンなさい」というマドラックス。目の前で惚けているヴァネッサを一瞬理解できずに、「どうかした?」と気遣う。それでも惚け続けるヴァネッサにマドラックスは銃を向ける。目をつぶり、薄笑いを浮かべながら。ここはガザッソニカ。命の値段が、一番安い国よ、と。
たまに、ものすごくまともに見えることからついつい勘違いしてしまうのだが、基本的にマドラックスもマーガレットと一緒で思考がおもしろい人だ。あからさまに場にそぐわない、現実を理解できないかのような言動が骨の髄から染みついている。つい忘れてしまうのだけれど、パスタやドレスに対する偏執的な固執や、まるで汚れなど知らない無垢な娘の様な話し方は、矢張り、歪んでいる。
最後に、レティシアが先週の次回予告の様に、真実の捉え方をささやく。偽り、無知、無能、逃避。それぞれに、マドラックス、ヴァネッサ、マーガレット、カロッスアが映し出されていたが、さすがにロングショットからバストアップになったマーガレットが出た瞬間に「無能とは」等と言われると吹き出さずにはいられない。つか、ここで笑わせてどうするよ?
そして、次回予告で延々、マドラックスへの愛を告白し続けるリメルダ……いよいよ女性カップルの誕生デス。
第12話「消意-close-」
2004/06/22 記
会心の出来。面白い。兎も角、面白い。これまでで一番じゃないだろうか? 最初から最後まで、とことん楽しませてくれる。思わず3回ほど見返してしまった。
まずは内容が詰まったAパート。
逃亡中のヴァネッサとマドラックスは安ホテルの一室で回収したデータの確認を行っている(このとき、PCのスクリーン上にコンソールウインドウが表示されていて、そこに、"Welcome to Enhanced BSD Darwin build ..."と読めなくもない表示がある。……つまり、MacOS Xだ)。しかし、データを確認しようにもパスワード要求ダイアログが表示され、その中身を見ることは出来ない(その後の「回線をつなげば~」という台詞から、本社のホストコンピュータ上にあるユーザ権限が必要ではないかと最初予想したが、その後の「パスワードを入手しないと」という台詞から違うと結論づけた。つか、この辺は意味不明だ)。どうするかと悩むヴァネッサに、「自分の心配はしないの?」と声をかけるマドラックス。アンファンに命を狙われるような事をしておいて、それでもなお首を突っ込むなんて、どういう状況なのか本当に解っているのか、と。そしてタイトルコール。この1分半ほどのシーンで流れている曲が、また良い。
次いで、その周りの状況がザッピングされる。ヴァネッサはガザッソニカへの転勤扱いにされたこと、そのヴァネッサを心配するマーガレットとエリノア、妙に青い空の下、古ぼけた建物の中でカロッスアの報告を電話で受けているフライデー、そしてデータ回収をリメルダに頼むカロッスア。マドラックスに借りのあるリメルダはこれ以上ないくらい乗り気だ。最後にマーガレットの元へ向かうとひとりごちるカロッスアの背後にみえる、矢張り妙に青い空。
いつもの濃度ならこの辺でアイキャッチ、Aパート終了でもおかしくないくらいの内容だが、しかしまだAパートの半分も終わっていない。
再びヴァネッサ達の潜伏先、マドラックスがシャワーを浴びているのをいいことに、バッジスに電話をするヴァネッサ。どうやら自力でパスワード解析するのをあきらめたようだ。その電話の線を抜いてしまうマドラックス。今、こちらから動けば死を招く。その態度にいらだつヴァネッサ。アンファンに狙われるなんて、一体何をしたの? と問いかけるマドラックスに、アンファンがガザッソニカに武器を流し内戦の片棒を担いでいる証拠がこれで、これを世界に公表してこの国の内戦を(出来ることなら)どうにかしたい、と答えるヴァネッサ。それを興味なさそうに聞いた後、死にたくないなら道は二つ、公表をあきらめるか、私をずっと雇い続けるか。どっちにする? と冗談めかして言うマドラックスに、あなたを雇ってデータを公表した場合は、と第3の提案を返すヴァネッサ。その答えが、「人が死ぬわ。たくさん。(あなたを守るために)私が殺す」。その重みに耐えきれないヴァネッサの、マドラックスを責める言葉に、ため息混じりに顔を逸らすマドラックス。どっちにしろ誰かが死ぬことになる。そんなことも解らないの?
そんなやりとりの後、夕日に照らされながらソファーで無防備に寝ているマドラックスを見て微笑んでしまうヴァネッサ。寝ている姿はどこにでも良そうな普通の少女なのに。
時を同じくして、飛行機で移動しているカロッスア。セカンダリとの出会いを運命的だとひとりつぶやく。どうやら、あのホテルでの出会いは彼の心の、恐ろしく奥底にまで響いたようだ。
夜になり、闇に紛れて情報収集を開始するマドラックス。そのために夕方、仮眠を取っていたのだ。その結果、アンファンはマドラックス自身を追っているとの情報を得たマドラックスは、一旦ホテルに引き上げる。そこでヴァネッサのやさしさに触れたマドラックスは戦う決意を固め、単身、リメルダの元に向かう。ヴァネッサを守るために危険に身を投じるマドラックス。
そしてBパート。
そんなマドラックスを待ちこがれていたリメルダはカロッスアから頼まれたデータ回収などそっちのけ、マドラックスと殺し合いたくてしょうがない様子だ。そんな戦闘準備万端なリメルダをうまく誘導してヴァネッサに害が及ばないようにし向けるマドラックス。そんな態度にとうとう待ちきれなくなったリメルダが銃を抜き、それにマドラックスも答える。町中で銃を向け合う二人。マドラックスの「相打ちがお好み?」という挑発をきっかけに壮絶な撃ち合いを……するわけもなく(BeeTrainだから)、お互いの思考を読み合う思考戦に。
的確にマドラックスのいる場所に向かって銃弾を撃ち込んでくるリメルダに、けれどマドラックスは逃亡という手で対抗してくる。あくまで勝負にこだわっていたリメルダは、これにあっさりやられ、マドラックスを取り逃がしてしまう。が、そのことでよけいに燃え上がるリメルダ。
潜伏先のホテルに戻ったマドラックスは、今なら前の生活に戻れる、とヴァネッサに告げる。追われているのは私だから、と。ヴァネッサはそれに、決意を持って答える。真実から遠ざかることは出来ない。たとえ死ぬことになったとしても、真実から遠ざかれば不幸になるだけだ。
そんな気持ちが通じたのか、ヴァネッサの命を感じるマーガレット。あの人は力強く、前に進もうとしている。だから……、とヴァネッサへの思いにふけっていたマーガレットの目の前に、とうとう現れるカロッスア。運命との邂逅に喜びを隠しきれないカロッスアの発するただならぬ雰囲気に、マーガレットは、思わず後ずさる。
内容の濃さ、横の広がり、そして伏線と引き。最初に書いたとおり、本当に面白い。スピーディに視点を変えながら、次々にネタが繰り出されてくる。こういう回があるからこそ、真下耕一監督作品を見続けているのだが……これで平均値が上がればなぁ。
という感想とは別に、実はとある妄想を抱きながら、ボクはこの回を見ていた。つか、最初見たとき、そうとしか思えなかったのだ。内容的にアレなんで、別途感想を書き起こしたのだが、しかし、こちらが本来の解釈に思えなくもない。なので、一応ここに載せることにするが、出来れば、この回、第12話「消意-close-」を見た後に読んでほしい。そうでないとバイアスがかかりすぎて素直に楽しめないかもしれないからだ。以下の文章が、ボク個人がこの話を素直に楽しんだ結果だと言うことはさておき。
惚れっぽいマドラックスは、例に漏れず、今回の依頼主であるヴァネッサの事も好きになってしまう。まるで、そうでなければ守る価値もないかのように、ごく自然に相手を好きになるマドラックス。
シャワーを浴びながら気持ちを落ち着けていたマドラックスは、不意に耳に飛び込んできた「バッジス」という男の名前に、あわててバスルームを出る。見るとヴァネッサが電話で話していて、しかも相手は、男。思わず嫉妬にかられて電話線を引き抜くマドラックス。平静を装いつつ会話を続けるが、ヴァネッサのことが気になってしょうがないマドラックスは、さりげなく告白してしまう。
『私を永遠に雇い続けて』
さらに、その答えを求める。
『どっちにする?』
あまりにさりげなさ過ぎて、そして、目の前の事に集中しすぎてそのことにすぐには気が付かないヴァネッサ。けれども、彼女の「あなたを雇ってデータを公表した場合は?」という答えに、胸をときめかせるマドラックス。私を受け入れてくれたあなたの為に、私、人殺しでも何でもするわ。絶対にあなたを守ってみせる。そう、決意のほどを言葉にするマドラックス。イラだった様子で「何でそんなこと言えるの」と、告白をつっぱねるヴァネッサ。勘違いしてもらっては困る、と。
ふられたマドラックスは傷ついた気持ちを隠すように顔を逸らすと、これまでもそうだった、と漏らす。私はふられてばかりだ。
その後、夕日に照らされて無防備に眠るマドラックスを見て、こんな子に告白されたんだ、とほほえむヴァネッサ。さっきは突然のことで動揺してしまったけれど……。
その日の夜遅く、情報収集から戻ってきたマドラックスは、テーブルの上にサンドイッチを見つけて思わず笑みがこぼれる。よかった、嫌われた訳じゃないんだ。そのサンドイッチを口にしていると、寝ていたと思っていたヴァネッサが声をかけてきた。思わず動揺して、微かに声が震えるマドラックス。そして、それをごまかすように冗談を言うと、一気に残りを食べてしまう。ちゃんと相手をしてくれるヴァネッサの態度に思わず感情が高ぶる。
でも、ここまでだ。調子にのってはダメ。
ソファーで寝るわ、とだけ言って装備を外し始めたマドラックスに、けれどヴァネッサは自分のベッドに彼女を誘う。何を言われたのか、瞬時には理解できず、思わず聞き返すマドラックス。そんなマドラックスに真剣なまなざしをむけたまま、一緒に、と優しくささやくヴァネッサ。そして……。
すぐ横にいるマドラックスを思いながら、私を好きだと言ってくれたこの子を利用することになったとしても、果たしてそれで良いのだろうか、と自問するヴァネッサ。そんなヴァネッサの気持ちを敏感に感じ取って、マドラックスは、「どうしてこっちを見ているの?」とヴァネッサに話しかける。
それをきっかけにピロートークで身の上話を始める二人。
あなたと同い年の、別の彼女がいる、と告白するヴァネッサに、「幸せそうね、その人」とうらやむマドラックス。どうせこんなものなのだと、あきらめたような微笑みを浮かべながら、そう呟く。
やがて疲れて眠ってしまったヴァネッサの寝顔を見ながら決意を固めるマドラックス。
お姫様は、あなた。
そして、王子様は、私。
愛するお姫様を守るために、戦いにおもむく王子様。
敵でありながらも、自分に思いを寄せていることを知っているマドラックスは、自らリメルダに声をかける。「私を探してた?」満面の笑みで振り返るリメルダ。本当に嬉しそうに。
そこで敵の狙いがお姫様に向かないよう、自ら罪をかぶるマドラックス。彼女を守るという誓いを身をもって守ってみせる。それでもかまわないと笑うリメルダ。こうして戦い合う事こそ、敵同士である私たちに唯一許された触れあいなのだから。ならば、渾身の力を込めてあなたと戦うことこそ、私の愛。あなたを私の永遠にするために。さぁ、私の本気を受けて止めて。
そうして火ぶたが切って落とされた戦いは、最初リメルダ優勢に進んでいたが、愛故に勝負にこだわるリメルダを逆手にとって、マドラックスはあっさりと逃げてしまう。ご丁寧に、リメルダの車を破壊した上でだ。
燃え上がる車を見ながら、満たされない思いに、益々倒錯した思いを募らせるリメルダ。必ず、自分の永遠にしてあげる、マドラックス。
そうしてヴァネッサの元に戻ったマドラックスは、ヴァネッサはもう狙われることはない、と告げる。それらは私がやったことになっているから、あなたはもう大丈夫だ、と。それを聞いてマドラックスを心配するヴァネッサに、強がってみせるマドラックス。なれてるから、平気。だから、今なら帰れる。あなたの(私と同い年の彼女がいる)国に。平和で幸せな世界に。
自分の気持ちを押さえて、あくまでヴァネッサの幸せを願うマドラックス。けれど、ヴァネッサは帰らない、と宣言する。ここには真実がある、と。そんなお姫様の態度に、王子様は素直に嬉しいとは言えないけれど。けれど、幸せそうに微笑むのだった。例え、仮初めの幸福だとしても……。
奇しくもちょうど、その頃。危険な土地に行った恋人の浮気を予感しながらも、けれどその無事を感じて安心するマーガレットは、そういう存在を寄せ付けてしまうのか、またしても間男におそわれそうになっているのだった。
少々、妄想がすぎるかもしれないが、けれどMADLAXってそういう内容なんだと固く信じているよ、ボクは……ボクは~!!(ダメ人間)
第13話「覚鳴-awake-」
2004/06/29 記
先週の勢いはすっかり消え去り、なんてか、いつもな感じでフツーの展開。矢張り、波が大きい。つか、むしろ揺れ返しなのか、あんまりな部分もちらほら。どっちにしろ妄想脳内補完するけどな。
マーガレットに声をかけたカロッスアは、書籍探偵のエリック(懐かしい名だ)から頼まれた、と嘘をついて一気に核心の絵本に迫る。余裕があるからなのか、それともマーガレットにただならぬ気配を感じたからなのか、「出来れば、それを見せて欲しい」と、あくまで紳士的に事を進めるカロッスア。そのカロッスアを警戒しながらも、絵本を見せる決心をつけるマーガレット。そうして、絵本を手にしたカロッスアは、しかし血でよごれたページを見た瞬間、『別のどこか』に引き込まれてしまう。
再び、カロッスアが気がついたとき、絵本はマーガレットの手に戻っていた。その姿を見て疑問を投げかけるカロッスア。絵本をずっと持っていた。その内容を何度も見ている。なのに平然としている。君は、何者なんだ? それに、迷うことなく答えるマーガレット。私は、マーガレット。マーガレット・バートンだ、と。
やがて落ち着きを取り戻したカロッスアは、マーガレットを家まで送っていく。その道中、マーガレットが子供の頃の記憶を失っていることを聞き、自分もそうだと告白する。記憶のない二人。その事を聞き、うれしそうに「じゃ、お仲間ですね」とマーガレットから笑顔を向けられ、心の奥底から震えを感じるカロッスア。恐怖と幸福。
それに呼応するように、ガザッソニカでは、マドラックスとヴァネッサがお互いの身の上話をしていた。外交官の父をガザッソニカ政府にとらえられたヴァネッサ。ガザッソニカのどこかに父がいるというマドラックス。二人は父親の影を追ってガザッソニカにたどり着いたのだ。そんな共通の思いが、より二人を強く結びつけ、だからお互いの体を抱き合うのだった。安らぎの表情を浮かべて。こうして触れ合うことが、今あるすべてだとばかりに。
そのまま家までたどり着くと、玄関口までマーガレットを送るカロッスア。マーガレットは送ってもらったことにお礼を言いながらも、急に、脈絡無く、この絵本は渡せない、と厳しく言う。とまどいながらも、自分の目的を思い出したカロッスアが懐から銃を抜こうとすると、ちょうどエリノアが玄関に現れた。カロッスアを一別すると、素早くマーガレットをカロッスアから遠ざけ、さっさと帰れと言わんばかりの態度を取るエリノア。そんなエリノアにマーガレットの記憶について聞くカロッスア。エリノアは答える。行方不明になったマーガレットが発見されたとき、記憶どころか言葉まで失っていたと。ただ、一言、マドラックスとだけ、つぶやいていた、と。
そんな自体を、うまく処理できないカロッスアは、人気のない埠頭まで車を走らせると、持っていた銃をこめかみに向け、引き金を引く。けれど、弾は出ない。最初から弾なんて入ってなかったのだ。マーガレットに向けようとした、そのときから。そして、絵本のことを思い出す。絵本についていた、血のことを思い出す。あれは、俺の血だ。俺の、過去につながった何かだ。
そんな、マーガレットにうつつをぬかすカロッスアに業を煮やしたフライデーは、単身、マドラックスに仕掛ける。そして、例のデータに仕込まれた罠が発動し、ちょうど悩んでいたヴァネッサがそれにやられかけた瞬間、マドラックスは身を挺してそれを妨げる。結果、『別のどこか』に引き込まれてしまうマドラックス。それは過去。マドラックスの記憶の中。痛みを感じた、あの頃に。
そして夜。マーガレットの寝室に忍び込む影。その手が絵本に触れた瞬間、寝ていたはずのマーガレットがその手をつかみ、目を閉じたまま「これは渡せない」と言葉を発する。それでも持っていこうとするのなら、あなたを殺す、と。
今回は、ほとんどマーガレットとカロッスアの為の舞台になっている。その伏線として、ヴァネッサとマドラックスが絆を深め合っていたが、その辺は前回たっぷりやったのでさわり程度(とはいえ濃かったが)、マーガレットとカロッスアという、ちょっと頭の面白い人どうしが、いかにして惹かれ合い、絆を深めていくか、という内容になっている。
カロッスアは完璧にマーガレットにやられているし、マーガレットも何か感じるモノがあるようだしで、なかなか楽しいことになりつつある。矢張り、今後が見逃せない。
ただ、今回、マーガレットの言い回しや語彙があまりに変だったのはいただけなかった。兎も角、違和感が強すぎるのだ。それが意図した通り(例えば、マーガレットは狂人だから等々)だったとしても、もうちょっと練って欲しかった部分だ。つか、これまでマーガレットをひたすら感情のぶれが少ない、おとなしい性格として描写しておきながら、ここに来て強烈に激情のこもったセリフを言われても、どちらかというと気持ち悪いのだ。マーガレットは、もうちょっとこう……日本的というか、アジア的というか、湿度の高い闇、陰湿的な存在だと思うのだが。
第14話「忘想-memory-」
2004/07/06 記
2クール目。MADLAXもとうとう後半戦だ。それにしても、マーガレット×カロッスア、ヴァネッサ×マドラックスという考えがどうしても頭から離れない。それどころか、むしろどんどん煽られている様に感じるのは、どうしてなんだろう? その通りだから? それとも……?
前話のラストでかかれたように、アンファンの罠にかかったマドラックスは記憶を失い、幼児退行してしまう。けれども、元々発言が"ピュア"なマドラックス、幼児退行したところで、あまり変わったようには見えない。それはヴァネッサですら一緒で、マドラックスが銃について言及するまで、事態の深刻さには気が付けないままだ。
時を同じくして、マドラックスの処理が終わった、とカロッスアに告げられるリメルダは、そのことに納得できず、マドラックスの姿を求めて町にさまよい出る。そんなの、納得できない。この気持ちに、どう決着を付ければいい?
そのカロッスアは、未だナフレスでマーガレットを追いかけていた。帰りがけのマーガレットに声をかけると、迫っている危険を伝える。その絵本が狙われている、と。しかし、その現場には嫉妬の炎を深く静かに燃やしたエリノアの姿が。そんなエリノアの態度に「まいったな」と呟くカロッスア。その口調は、全然まいっている様には聞こえない。その後、マーガレットに絵本を手放す気が無いことを確認したカロッスアは、彼女のために一仕事することを決意する。それを目の当たりにしてカロッスアを牽制するエリノア。"私の"お嬢様に手をだすんじゃあない。それに貴様、何者だ?
その頃、事態の深刻さに気が付いたヴァネッサは、どうしたものかと思案する。医者に診せるべきか、それとも。そんなヴァネッサに対し、無邪気に「一緒に寝ていい?」と甘えるマドラックス。それに答えて、抱きしめるように腕枕をしてあげるヴァネッサ。けれど、それ以上甘えてこないマドラックスに、「何を考えてるの?」と聞くと、「赤い靴のことを考えてた」との答え。思わずマーガレットの事を思い出すヴァネッサ。そのことをマドラックスに語って聞かせる。
そんな風に、再びマーガレットの名前を聞くマドラックスだが、それが前に聞いた名前だとは(記憶を失った彼女は)思いつけない。ただ、その子と友達になれるだろうかと思っただけだ。同じようにヴァネッサが好きな私は、その子と友達になれるだろうか、と。
その相手、マーガレットは相変わらずソファーの上で膝を抱えていた。ただし、その視線はいつもの空中ではなく床に向かっている。どうもカロッスアの事を気にしている風のマーガレットに、『あなたを守るのは私です』と誓いを立てるエリノア。どんなことになろうとも、"私が"守ってみせる、と決意を口にする。
その頃、本当に一仕事しているカロッスア。けれど相手に逃げられ、結局、解決はしなかったが、しかしいくつかの情報を得ることは出来た。そのことに、満足げに「思うようにはいかないものだな」と呟くカロッスア。けれど、真実に行き着く道を俺は見つけたのだ。
再びガザッソニカ。ヴァネッサが目を覚ますと、横で寝ていたはずのマドラックスが居なくなっていた。部屋を見渡すと彼女の衣服が脱ぎ捨てられている。マドラックスは、赤い靴を求めて町をさまよっていたのだ。白いドレスに着替えて。そして、夜の町中、見つけた赤い靴の前で、それに見とれるマドラックス。
その姿を見て、仮想のライフルで狙いを定め、仮想の引き金を引くリメルダ。全く反応のないマドラックスの姿に、絶望に駆られる。あの子はもう、本当にダメになってしまったんだ。
そこにマドラックスを探していたヴァネッサがやってくる。「こんな所で何をしているの? しかもそんな格好で」、というヴァネッサに、「似合わない?」と逆に質問を返すマドラックス。真っ白なドレス姿で。そんな態度に、あっけにとられつつ、マドラックスの手を引いて帰ろうとするヴァネッサ。その二人の前に立ちはだかるリメルダ。二人に銃を向け、けれどその目はマドラックスしか見えていない。
銃を向けるリメルダにおびえるマドラックス。リメルダは、愛していた相手がダメになってしまったことに「ちょっとかなしいわ」と言い、自らの激情にとどめを刺そうと覚悟を決める。そんなリメルダ相手に、マドラックスを守るために銃を構えるヴァネッサ。
マドラックスを賭けて、女二人で本気の修羅場。
その緊張感に耐えきれなくなったマドラックスは記憶を取り戻し、リメルダに襲いかかる。あっという間にリメルダから銃を奪い取るマドラックス。その銃口をリメルダに向ける。そのことに、一瞬驚いたリメルダだが、元に戻ったマドラックスにとどめを刺されるのなら本望、と言わんばかりに微笑む。
けれどリメルダを見逃すマドラックス。終わりを覚悟していたリメルダは一瞬、固まるが、すぐに笑う。せっかく成就したと思ったのに、この想いは終われなかった。けれど、これでまた彼女と命を触れあうことが出来るのだ。愛おしい、マドラックスと。そしてなお情念を燃え上がらせる。マドラックスもそのことを思い、笑う。
そして、次回予告で、マーガレットと同じ制服を着ているエリノアの姿に、アンタそこまで……、と思わず苦笑。いや、狙われているから、という大義名分は解っているんだけれども、どうも12話を見たときから完全にボクの視点は歪んでしまって、爛れた見方しか出来ないんだよなぁ……。
第15話「偽争-camouflage-」
2004/07/13 記
色々なネタを振ったり伏線を進めたりしているのは解るんだけれど、その全てが小振りでメリハリが無いため、どうも奮わない。とはいえ、いつものように、ヴァネッサとマドラックスが乳繰りあってたり、マーガレットとエリノアが、ところかまわず乳繰りあってたりしてるけどな。
(※注:乳繰る=男女が密会してたわむれる事)
とりあえず、気を取り直して最初から。
再びマドラックスのアジト、前回、ヴァネッサに迎えに来てもらった事を感謝するマドラックス。その、感謝の言葉に驚いたヴァネッサは、ついついマドラックスをからかってしまう。それを嬉しそうに突っぱねるマドラックス。けれど、そんなおしゃべりに夢中で、自分が猫舌だと言うことを、また忘れていたようだ。
それから一夜明けて、マドラックスと再会できたことを、カロッスアに電話して話し聞かすリメルダ(※1)。そのとき、一緒にいた女(ヴァネッサ)のモンタージュを作ったと報告する。その報告にいらだつカロッスア。なんせ、自ら握りつぶした情報だ、都合が悪い。リメルダに待機してくれと言い、電話を切る。そのリメルダは、再びマドラックスとやりあうことが、触れあうことが出来る、その事を心底喜んでいた。そして、マドラックスと一緒にいた女を、排除する手だてが打てたことも。
リメルダからの電話を切った直後、今度はフライデーから電話を受けるカロッスア。久しぶりに会いたいと思うのだが、という言葉に全てがばれたのではないのかと気が気ではないカロッスアだが、なんとか答えを返すことに成功する。
それから半日、学校の庭で一人、お昼ご飯を食べるマーガレット。そこに現れた制服姿のエリノアに、最初は気が付けないマーガレットだが、メガネを取ったその顔にやっと気が付き、そして驚く。そんなマーガレットの前に座ると、変装してマーガレットを守りに来た旨を伝えるエリノア。それに対して素で、「無断で学校に入ったらダメなんだよ」と指摘するマーガレット。でも、お嬢様の本を守るためだから目をつぶって欲しい、というエリノアに本当に目をつぶって答えるマーガレット。そんなマーガレットのチャーミングな態度に、そしてマーガレットの制服を着れたこと(※2)に、満足げに笑うエリノア。今話一番の見せ場だ。本当、
可哀想可愛らしい。
再びガザッソニカ。射撃場で延々銃を撃ち続けるマドラックスの回想として、ヴァネッサとの会話が流れる。子供の頃の記憶が無いこと。そして、唯一覚えていた言葉、マドラックス、を名前にしたこと。14話のラストの演出、マドラックスとマーガレットの声が入れ替わるシーン、そして、13話のエリノアの話、記憶も言葉も失ったマーガレットが唯一覚えていた言葉、マドラックス。この二つから、二人に何らかの共通点がある事がわかるが、けれどそれだけだ。
その夜、フライデーの元に着いたカロッスア。緊張した面持ちで対峙する。すべてが
―― 特にマーガレットの事が
―― ばれたのではないかと気が気ではない。リメルダから送られたモンタージュであっさり身元が割れたヴァネッサの顔がモニターに映し出される。が、「私の興味はこれではない」というフライデーにいよいよ身を固くするカロッスア。けれど、そこで名が上がったのはマドラックスの方だった。しかし、これで全てが繋がっている先、マドラックスへのフライデーの介入を止めることはできなくなった。そのことに、カロッスアは苦悩する。
その頃、再び、アンファンの仕掛けた罠に飛び込もうとするマドラックス。あのときから、何かを思い出した様な気がするのだ。それを再び手にするために。ヴァネッサの制止も時遅く、ファースタリの言葉を受けて、『聖都』に降り立つマドラックス。時を同じくして、マーガレットに異変が現れる。まるで前回のマドラックスの様に、大きく口を開け、眼をいっぱいに見開いて、体をこわばらせるマーガレット。そして倒れ込んでしまう。眼を、血の様に赤くしながら。
『聖都』に降り立ったマドラックスは、見かけた父親の影を追い、その先でレティシアに出会う。レティシアは言う。ここは普通だと。ここに真実があると。けれど、あなたのいる戦場は普通じゃない。そこに、真実はない。
やがて、マドラックスが『聖都』から戻ると、罠が仕掛けられていたあのデータの、その中身が見られるようになっていた。倒れてしまったマドラックスを寝かせると、兎も角そのデータを確認するヴァネッサ。時を同じくして、矢張り目覚めたマーガレット。エリノアの腕に抱かれて。大丈夫ですか? と聞かれて、人形が見えた、と告げる。大事な人形が、と。
再び目が覚めたマドラックスに、データが見れたことを告げるヴァネッサ。そのデータからは、まるで自分の物とも言えるこのガザッソニカで、延々と内戦を続けるアンファンの姿が浮き彫りになっていた。それを聞いて、レティシアの言葉を思い出すマドラックス。偽物の戦場。真実は、未だ隠されたままだ。
最初に書いたとおり、今回の話はあまり面白い物ではない。とはいえ、こうしてまとめてみると、結構ネタが振られているので、そのネタ自身の問題か、演出の問題かもしれない。或いは、受け取る自分自身の問題か。
次回、いよいよ物語の核心、アンファンに触れることになりそうだが、なんてか、微妙。あとまるまる10話あることを考えれば、こんなモンかもしれないが、もうちょっと、こう、12話の時みたいに盛り上がれないかねぇ……。
※1
この辺のシーンの時系列がよく解らない。一番最初の、マドラックスのアジトのシーンではヴァネッサが「この前のこと、本当に覚えていないの?」と、マドラックスに聞いており、そして、外は夜だった。次いで、リメルダがカロッスアに電話をかけているシーンでは明らかに昼間、そしてリメルダは、マドラックスと会ったときのことを聞かれて、ただ単に「真夜中に、ドレスを着て歩いたりしてね」と言う。報告という意味でもさほど時間は空いてないと思われるのだが、果たしてどちらが時系列として先のシーンなのだろうか? つか、このあたりに限らず、全体的に時系列がわかりにくいが……。
※2
マーガレットとエリノアの体型は、実はシーンによって違っている。顕著なのが6話、暴漢からマーガレットを助けた直後、エリノアに抱きつくマーガレットは明らかにエリノアより身長が低いのだが、その6話のラスト、マーガレットを学校まで送るエリノアが、マーガレットと並ぶシーンでは身長がほぼ一緒になっている。
第16話「銃韻-moment-」
2004/07/26 記
明らかになったブッグワルドのデータから解った真実は、アンファンが王国軍にもガルザにも武器弾薬を提供している、という事だった。しかも、その全てを無償で、だ。さらに、王国軍もガルザも、そのおもだった高官はアンファンで構成されている。武器どころか人員まで提供して内戦を続けているアンファンの行為に、どんな意味があるのか? そう疑問に思うヴァネッサに、意味なんて無いと答えるマドラックス。その理由を問う答えに、さらに答える。意味なんて無いの、私のしてきたことに。
夜の町はずれで、砲火がきらめく森林地帯を眺めながらマドラックスは思う。王国軍の高官、グエン・マクニコル。自分を殺す依頼をしてきた、操り人形の様な人生に意味はないと言った男。アンファン総帥の息子、クリス。自分のことを伝えたいと言って消えた少年。書籍探偵、エリック。あんた、何人殺した?
私のやることは、何かにはなっているんだと思っていた私。馬鹿な私。ちょうど電話をかけてきたスリースピードにも聞いてみる。この戦争に関わる全てがアンファンに仕組まれたことだって思う? 何を馬鹿なことを、と答えるスリースピードに、マドラックスは自嘲気味に同意する。そうよね。そう、思うよね。
その頃、マーガレットはカロッスアを呼び出して、町からは遠く離れた海沿いの場所に来ていた。そこで、カロッスアに、変わった夢を見る、と告げるマーガレット。あの絵本を枕元において寝ると、時折、おかしな夢を見る、と。
そこは、夢の場所は、瓦礫だらけで、まるで廃墟の様な場所。私はそこに一人でいて―レティシアの声が重なる―ずっとずっと一人でいて……。すごく、すごく寂しいんです。
そんなマーガレットの言葉に動揺する内心を押さえつつ、もう一つの興味の対象の方に話題をそらすカロッスア。君は記憶を失っている。もしかしたら、それは君の過去の記憶かもしれない。そう言いながらも、その場所が『聖都』であることを確信するカロッスア。だからなのか、思わず口をつく言葉。私も見てみたいな、君の夢を。一緒に。
じゃあ、夢で逢いましょう、と、"お仲間"カロッスアを誘うマーガレット。その言葉にうれしくなるカロッスア。もしかしたら、彼女も俺を求めているのかもしれない。
そんな、良い雰囲気になりつつある二人の元に突如飛来するヘリコプター。中にはもちろんエリノアだ。お嬢様を盗られない為には何でもする女。びっくりして、どうしたの? というマーガレットに、心配で、と微笑みかけるエリノア。そんな風に二人を無意識にもてあそぶ天然系のドス黒さを遺憾なく発揮できて、満足げに微笑み返すマーガレット。そして、飛び去っていくヘリを見ながらマーガレットの事を思うカロッスア。聖都にしろ、彼女自身にしろ、いつだって彼女は俺の求める先にいる。
一方、ガザッソニカではマドラックスがデータ公開のための手筈を整えつつあった。ナフレスを通じてそれを行おうというのだ。その準備をヴァネッサに頼むマドラックス。
再びナフレス。マーガレットを取り戻して、カロッスアの鼻をあかしてやって、最高潮に機嫌が良いエリノア。上機嫌で歌なんて歌いながら掃除をしている。その最中、ふと、いつもの様にソファーの上に膝を抱えて座るマーガレットの横にある、カバンの中身が目に入った。狙われているという、あの絵本。そのことでエリノアがマーガレットに声をかけた瞬間、素早くソファーの上に立ち上がってエリノアを威嚇するマーガレット。怯えて、声を震わせるエリノアに、けれど優しく笑いかけるマーガレット。ごめんなさい。
再びガザッソニカ。無理矢理ついてきたヴァネッサとともに、ナフレス諜報員に接触するマドラックス。しかし、現場で待ち受けていたのは諜報員だけではなかった。そこにいたのはアンファン、しかもフライデーの直属部隊だったのだ。
罠にかかった二人はそのまま森林地帯方面に連れ去られてしまう。その途中、マドラックスの銃を取り上げて話しかける諜報員役の男。良い銃だが、相当使い込まれている。これで一体、何人殺した? いちいち数えてないわ。答えるマドラックス。あなたもその中に加えてあげる。そう威嚇するマドラックスに向けられたのは麻酔銃だった。
マドラックスが目を覚ますと、一人、聖都の中に居た。白いドレスを着て。アンファンの罠で見た光景を思い出すマドラックス。ふと、目の前に赤い靴があることに気がつく。そして、見渡した先にある、絵本。ファースタリ、エルダ・タルータという絵本。絵本を見て動揺するマドラックス。そこに現れるフライデー。そのフライデーに、ここはどこなのかを聞くマドラックス。以前、君がいた場所だ、と答えるフライデー。その答えに再び動揺し始めるマドラックス。フライデーの言葉は止まらない。君はここで本質に触れた。人の本質だ。だから教えてくれ、セカンダリの場所を!
興奮を隠しもしないフライデーの攻めに、マドラックスは事態をうまく処理できない。私、普通でいたかった。普通でいたかっただけなのに、あなたが奪った。私の存在を。どうして意味のない戦争を続けるの? そんなマドラックスの態度に、怒りをあらわにするフライデー。失望したよ、マドラックス。私の理想にはほど遠い。故に君は違った。君は、違う!!
その様子を影から見守っていたヴァネッサは、フライデーが居なくなったのを確認すると、マドラックスの元に。そして、そんな二人を取り囲む戦闘員達。どうやら、ここは聖都を模したセットの様だ。けれど銃口を向けられ、元気を取り戻すマドラックス。この状態。死が目の前にある戦場。ここが私の普通。だから、私はいま、とても普通なの。
逃げる二人を追う戦闘員。丸腰のマドラックスは、戦闘員の目をくらますため、自らのドレスを相手に投げつけ、そのスキをついて真っ裸のまま、あっという間に3人倒してしまう。その戦闘員の銃を奪うと、再びドレスをまとって戦場を駆けるマドラックス。白いドレスをひるがえしながら、ハイヒールをはいた足で、次々に戦闘員を倒していくマドラックス。けれど、建物に潜んでいた諜報員役の男に銃をはじき飛ばされてしまう。相手をにらみつけるマドラックス。そのマドラックスに向けて引き金を引こうとしたそのとき、ヴァネッサの放った銃弾が、先に男を貫いた。
その薬莢が地面をたたいた瞬間、マーガレットは泣きながら目を覚ましていた……。
ってな感じで、益々ブッ飛んできたマーガレットとマドラックスだが、矢張り今回の見所は、カロッスアと密会するマーガレットと、ドレス姿で戦うマドラックスだろう。『すごく、すごく寂しいんです』とあからさまにカロッスアを(けれど無意識に)誘っているマーガレットはアレだし、そこにヘリで迎えに来るエリノアもイカれてやがるし。そして、相変わらずドレス姿で戦うマドラックスが、まさか真っ裸になるとは予想だにしていなかった。思わず吹き出したぐらいだ。
次回予告も、延々サイレンサーをいじって気を高めているリメルダ、満面の笑みを浮かべているマーガレット、マドラックスとともに戦場をかけるヴァネッサ、カロッスアの横で不満顔なエリノア、と、なかなか期待を煽ってくれる。果たして、マーガレット、カロッスア、エリノアと、マドラックス、ヴァネッサ、リメルダの、二つの三角関係はどこに行き着くのだろうか?
第17話「刹那-reunion-」
2004/07/27 記
アンファンの基地(?)から二人が脱出すると、そこは森林地帯だった。戦闘区域だ。山の中を歩く二人。けれども、前回、マドラックスを助けるためとはいえ、人を撃ってしまったヴァネッサは、そのことで深く落ち込んでおり、その足取りは重かった。マドラックスは「あなたの撃った男は死んでいない」と慰めるが、人を撃った、という行為そのものが許されないのだ、とヴァネッサは自らの行為に怯え、落ち込んだままだ。そのとき、不意に近くで始まった戦闘、聞こえてくる銃撃音、爆発音にヴァネッサは益々怯える。頭を抱え、目に涙さえ浮かべて、やめて、と叫ぶ。
戦闘を避けるため、岩陰に身を潜めていた二人。偵察から帰ってきたマドラックスは、酷い顔をして膝を抱えているヴァネッサに語りかける。「あなたが撃ってくれなければ、私は死んでた」。そのときのことを思い出したのか、身を固くするヴァネッサ。かまわずにマドラックスは話す。「人が死ぬのは、生きるのに失敗したから」。その言葉に、顔を上げるヴァネッサ。「生きることに失敗すると、人は死ぬのよ」。そう続けるマドラックスと目を合わせ、二人は見つめ合う。
やがて山を下りた二人は、その途中、王国軍に見つかってしまう。なにをしている、と銃を向けてくる兵士に、民間人だと主張するマドラックス。しかし兵士はその顔を見るや、上官を呼ぶ。呼ばれた上官は二人を見るや、「王族殺しめ!」と銃を向けてくる。それに素早く反応し、ヴァネッサを押し倒すマドラックス。あっという間に二人を始末すると、ひとりごちる。「こうして踊らされるのね。あなたも。わたしも」
その頃、リメルダからカロッスアに連絡が入っていた。マドラックス達の顔が知れ渡ったことを告げると、「あの子を殺す理由がまた一つできた」と感想を漏らすリメルダ。その連絡を受け、ヴァネッサからのつながりでマーガレットに(アンファンが)行き着くのは時間の問題……覚悟を決める時かもしれない、と決意するカロッスア。そのマーガレットは、居間でエリノアと二人、立ったままテレビを見ていた。そして流れるニュース。ガザッソニカで王族が殺されたという内容だ。犯人は二人組の女性、とキャスターが告げる中、映し出された犯人の顔は、ヴァネッサと、そして、マドラックスだった。
そこに訪ねてきた「ナフレス国際保安局」を名乗る男。ヴァネッサ・レネについて聞きたいとのこと。エリノアがその相手をする一方、テレビの前ではマーガレットがショックを受けていた。そんなの、信じない。
別の場所、その同じニュースをみて、やはりショックを受けているヴァネッサの同僚。
王族殺し。国王軍の敵。マドラックスと対決する大義名分を手に入れたリメルダは自分のライフルをなでながら、その感触と、マドラックスとの対決を想像して、悩ましげな吐息をはいていた。
そしてまた一人、そのニュースをみて行動を起こした男、バッジス。気になってヴァネッサの家まで様子を見に来たものの、入れる訳もなく、かといってヴァネッサと連絡が取れる訳でもなく、ヴァネッサの家の前でやきもきしていた。そのバッジスに声をかけるマーガレット。
家に上げてもらったバッジスは、マーガレット、エリノアに対してあのニュースは誤報だろうと告げる。意図的に情報操作がなされていると。前に、ヴァネッサは、自分の勤めるブッグワルドの不正行為を暴くため、会社のサーバに進入したことがあり、自分もその手伝いをした事がある。その結果、会社とアンファンが繋がっていることが解った。だから、アンファンは情報操作をし、ヴァネッサは殺人犯にされたのだろう、と。けれど、彼女はまだ生きているはずだ。なぜなら指名手配されたから、と続けるバッジス。それに、共犯者とされている人の協力があれば、まだ逃げられるはずだ、と言うバッジスの言葉に、その共犯者の名を告げるマーガレット。その名はマドラックス。行方不明になったマーガレットが、記憶も言葉も失ったマーガレットが、唯一口にした言葉。とうとう我慢できなくなったマーガレットは、ガザッソニカにいくと言い出した。会いたいの、ヴァネッサに。そう、ヴァネッサへの気持ちを吐露した。
そのころヴァネッサは、車を手に入れ、非武装地域に向かって移動中だった。ヴァネッサはつぶやく。「生きることに失敗すると、人は死ぬ」。その表情は未だ暗い。えぇ、だから死なないで。と声をかけるマドラックス。私のヴァネッサ・レネ。お願い。死なないで。
次の日の朝、マーガレットが起きてくると、エリノアが既に旅行の準備を整えていた。そして私もお供させて頂きます、というエリノアに、感謝の言葉をのべるマーガレット。満面の笑みを浮かべながら。ありがとう、エリノア。大好きだよ。
再び逃走中の二人。何とかマドラックスのアジトまで戻ってくると、タイミング良くスリースピードから電話、情報を売ったと告げる。おそらくその情報によるのだろう、潜んでいた人影に、ためらいなく銃弾を撃ち込むマドラックス。スリースピードとの会話は続く。「死にたくないものでな」。私もよ、と答えるマドラックスに、死ぬなよ、言うスリースピード。そこで電話を切ると、荷物をまとめてアジトを引き払う二人。外にはもう男達が武器を構えて潜んでいる。それに対して「私、死ねない」とつぶやくと、銃を撃ちながら突撃するマドラックス。ヴァネッサを守るために、私、死ねない。
ナフレス、空港で「ナフレス国際保安局」の男に声をかけられるマーガレットとエリノア。マーガレットはいつもの調子で、聞かれるままに全てを答えていく。ガザッソニカに行くこと。ヴァネッサに会いに行くこと。さすがのエリノアもその態度に頭を抱えている。ここで止められたら、お嬢様が悲しむ。
そうあからさまに言われると、行かせるわけにはいかない、と言う男だったが、そこにカロッスアが現れる。あからさまにイヤそうな顔をするエリノア。少し後、去っていく「ナフレス国際保安局」の男をみて、「一体、何を言われたんですか?」と硬い表情で言うエリノア。臆せず、「私は願いが叶う呪文を知っているのです」と答えるカロッスア。当然、マーガレットは驚きと尊敬のまなざしだ。「すごいですね」
やがて会話は、「どの飛行機に?」マーガレットが答えると、「すてきな偶然だ」。私も同じ飛行機に乗るのだ、と言うカロッスア。そして、並んで座席に着く三人。疑いを隠そうともしないエリノアを軽くあしらうカロッスア。そんな二人をよそにマーガレットは窓の外に夢中だ。そして飛行機は一路ガザッソニカへ。
そのガザッソニカで逃走中の二人、ヴァネッサとマドラックスも、自分たちが狙われる表面的な理由、王族殺害のニュースを目にする。そのニュースを見てヴァネッサに、知り合いが大変なことになっているんじゃないか? と言うマドラックス。それに親戚は居ないからと答えるヴァネッサ。ただ、マーガレットは心配するでしょうね。そう続けるヴァネッサに興味津々のマドラックス。マーガレットってどんな人なんだろう?
再びガザッソニカに向かう機上、横で毛布にくるまり眠っているマーガレットを見てひとりごちる。俺も彼女も、引き寄せられている。あの絵本に。
逃走中、その本のことを話し始めるマドラックス。アンファンは本を探している。それは、見たこともない本。聖都セットでの出来事を思い出すマドラックス。そんな二人の目の前に王国軍の検問が現れた。銃撃を避けるため道を大きく外れる車、どんどん道を外れていく。その車を捨てて外に飛び出す二人。しかし、そのために王国軍に捕まってしまう。地面にねじ伏せられたヴァネッサをみて抵抗をあきらめるマドラックス。ゴメンね、ヴァネッサ。私、失敗しちゃった。でも、あなたと一緒に逝けるなら……。
そこに投げ込まれる拳銃。それをつかむと、あっという間に敵兵を全滅させるマドラックス。その視線の先には、銃を投げてよこした相手、リメルダの姿があった。
「なぜ、こんなことを?」マドラックスの質問に、「あなたを殺すのは、私だから」と(彼女なりの)愛をささやくリメルダ。そして、その銃口をヴァネッサに向ける。「こういう足かせ、あなたには似合わないのよ」。そして、私とマドラックスの邪魔をする存在も、必要ない。が、その銃口の前に立ちふさがるマドラックス。その態度に苛つくリメルダ。そんなリメルダにこの戦争は、全てアンファンによって仕組まれたモノだと告げるマドラックス。その言葉に驚くリメルダ。あなたも真実を見ることが出来る、とヴァネッサの胸ポケットから、データカード(※1)を取り出すマドラックス。
夜が明け、ガザッソニカについたマーガレット、エリノア、カロッスアの三人は、なぜか同じタクシーに乗って移動している。矢張りイヤそうなエリノアをよそに、今度は宿泊先を聞くカロッスア。そして再び、「すてきな偶然だ」。その態度に半ギレ状態のエリノア、それを軽くいなすカロッスア。そんな二人の横で、マーガレットはうれしそうだ。もしかしたら、マーガレットは自分を取り合って人がやり合うのを見るのが好きなのだろうか? 矢張り、ドス黒い。
逃走中の二人、車上でヴァネッサはマドラックスに銃を教えて欲しいと言い出す。心配するマドラックスに、逃げてばかりいられない、と自嘲気味に答える。それに、あなたに頼まれたから。もう死ねないわ。
その言葉に満足げにうなずくマドラックス。良かった、この人は立ち直れたんだ。それに私との約束を守ろうとしてくれる。
更にヴァネッサは続ける。だから、あなたも死なないで。
今度は満面の笑みで返事を返すマドラックス。私はこの人が居れば失敗しない。これからも生きていける。
そんな二人の横を、ナフレスからの三人を乗せたタクシーがすれ違っていったのだった。
今回、やけに乙女度が高いな~スゲーたのしいな~と見ていたのだが、スタッフロールに「絵コンテ:真下耕一」という名を見つけて納得。いや、いつもの澤井幸次さんと併記ではあったが。
そして次回、とうとうマーガレット、マドラックスが出会いそうだ。三角関係どころか、より複雑になっていくカップリング、行き着く先は果たして……?
※1
データカード表面に書かれている『1T』というのは、もしかして1TByteの意なんだろうか?
第18話「双離-duo-」
2004/08/04 記
話は進むんだけれど、なんかこう、盛り上がらないというか、求めているものからはずれているというか、歪んだ見方しかできなくなった弊害というか……。いや、普通におもしろいアニメだとは思うけど、なんだか中途半端な印象がぬぐえない。なんてか、惜しいというか、(前に指摘したとおり)ムラがあるのだ。つか、ここまで楽しんでいるヤツがそんなことを言うのもどうかと思うが。
前回渡されたデータカードの中身、ガザッソニカの真実を知って深いため息をはき出すリメルダ。手にした拳銃をガザッソニカ国旗にむけ、引き金を引く。私の信じていたものは、私のしてきたことは、私の、私自身にした誓いは……なんて儚い幻だったのだろう?
そう、静かに絶望するリメルダ。
逃亡中のヴァネッサとマドラックス。町を離れ、その昔、クリスをガルザに送ったときに使ったホテルに身を隠している。その一室で銃を手にするヴァネッサ。マドラックスは声をかける。「本当に良いの?」「えぇ」。ヴァネッサの覚悟は揺るがない。なぜなら、それは、マドラックスの為だから。
ブッグワルド、ガザッソニカ支社で聞き込みをしているチャーリー・ウィンストン(ヴァネッサの元同僚)。彼もまた、ヴァネッサを心配する友人の一人だ。しかし、ガザッソニカ支社の人間から、あの女には関わりたくないと手ひどくあしらわれ、追い出されてしまう。ちょうどそこに現れたマーガレットとエリノア。彼女たちもヴァネッサの足取りを追ってガザッソニカ支社に来たようだ。チャーリーはマーガレットを見て、君は、と声をかけるが、初めてあったときの様に、マーガレットはエリノアの背中に隠れてしまう。矢張り、マーガレットは普通の男が嫌いらしい。平和な世界の男は。
水辺で銃の練習をするヴァネッサ。だが、ズブのド素人。標的(空き缶)には全く当たらない。二発ずつ撃つこと。それに、肩に力が入りすぎ。そうマドラックスはアドバイスするが、矢張り、まったく当たらない。どうしたら良い? と聞いてくるヴァネッサに、マドラックスは数をこなすしかない、と山積みの弾薬を振り返る。数をこなせば、体が勝手に覚えてくる。だから、そこの弾をすべて撃ちつくすこと。それがヴァネッサに与えられた課題だった。その間に、あの文字について調べる、というマドラックス。「さぼらないでね?」「はい、先生」。そんなさりげないやりとりに込められている二人の気持ち。ほほえみ返すヴァネッサ。けれどその手に握られているのは、拳銃だ。
港で話をしているマーガレット、エリノア、チャーリー。相変わらずマーガレットはエリノアの背中に隠れている。手がかり一つ見つけられないと悲嘆するチャーリーの意見に、ヴァネッサを追いかけている人達、つまりアンファンに聞けば解るのではと提案するマーガレット。何を言っているんですか、とエリノアはたしなめるが、その確実性にマーガレットは不満げだ。そんな三人を車の中から、バックミラー越しに見ているアンファンの男、カロッスア。部下の「ほおっておいて良いのですか?」という意見に、大丈夫だと答える。海に沈む夕日に気をとられているマーガレットを眺めながら。ほおっておいても害はない、と。
そして、夜。それぞれが自らの思惑を胸に、ガザッソニカをさまよう。
図書館に忍び込んだマドラックス。ガザッソニカ文明史に手を伸ばす。
風が吹く、というクアンジッタ。心地よい風が、もうすぐ。
ひたすら銃を撃ち続けるヴァネッサ。その表情は鋭い。
月明かりの中、本を開くマドラックス。
そのマドラックスを思い、銃を撃ち続けるヴァネッサ。
いまだ立ち直れないリメルダ。丸裸の彼女。
捜索を続けるマーガレットとエリノア。新聞にはヴァネッサとマドラックスの顔写真が載っている。
酒場で飲んだくれるチャーリー。無力な自分を酒にひたす。
ヴァネッサは銃に新しい弾を込める。
車で移動中のカロッスア。
そしてヴァネッサは再び銃を撃ち始める。
ガザッソニカ王国軍、軍施設。その中で、腕を吊った男がマドラックス一味捜索の指示を出している。どうやら、前回、ヴァネッサに撃たれたアンファンのメンバーのようだ。そこに現れたリメルダ。男を隊長、と呼ぶと、見てもらいたいものがある、と例のデータを机の上に広げる。それを見ても、冷めた態度の隊長に確信するリメルダ。「矢張り、ご存じだったのですね?」
ならどうする? と聞き返す隊長に、撃ちます、と答えるリメルダ。無駄だ。撃ったところで何も変わらない。そうたしなめる隊長に同意するリメルダ。確かに、無駄だ。今までの私は。そんな風に絶望しているリメルダに、隊長は言葉を続ける。そんなことはない。命令するのが王国軍から、アンファンに変わっただけだ。そのことを自覚できただけだ。君の仕事は何も変わりはしない。けれど、リメルダは銃を構える。「馬鹿な女だ」「知ってるわ」。何一つ本当のことを知らなかった私。本当に馬鹿だわ。
隊長を始末すると、軍本部を脱けるために銃を構えるリメルダ。これでもう軍には戻れない。でも、私には最初から何もなかったんだ。何一つ。何も。まるで空っぽだ。だからなのか、もう私には、あの子の顔しか思い浮かばない。マドラックス。愛するあの子の顔しか、もう思い浮かばない。
図書館、ガザッソニカ文明史の中に、あの本の模様を見つけるマドラックス。そこに聞こえてくるナハルの声。なぜその本を手にするのか。マドラックスは相手の気配を探るが、いつの間にかナハルに背中をとられていた。突きつけられるナイフ。ナハルに、あなたはアンファン? と聞くマドラックス。そうじゃないなら、ほおっておいてくれない? 勘でわかるの。あなたとやりあうと、どちらかが死ぬわ。
たぶん、それは貴女だろうと返すナハルに、私は死なないと切り返すマドラックス。約束したから、とヴァネッサへの愛を口にする。
それに興味を示したのか、では確かめさせてもらう、とナハルはマドラックスの正面に回り込む。そしてマドラックスの目をのぞき込むが、あなたは違う、と判断を下す。あなたでは本質にはたどり着けない。その言葉に、フライデーの事を思い出すマドラックス。君は、ちがう。そのまま連鎖的に過去のことを思い出すマドラックスに、追い打ちをかける様に再びあなたは違うと宣言するナハル。事態を処理できないマドラックスは取り乱し始める。拒絶。無くした過去。何もない私。
否定しないで! 私の存在を否定しないで! 取り乱すあまり、ナハルを撃つマドラックス。それを神業的によけるナハル。隠れているナハルを撃ち抜こうと銃を撃ち続けるが、しかし当たらない。
その頃、部屋に戻ってきたカロッスアは、部屋の中にある他人の気配に銃を抜き、慎重に部屋に入っていく。そこに居たのはリメルダだった。彼女もまた、銃を手に立っている。いつもの帽子も脱げ、凛々しく結い上げていた髪もおろしたままで。相手の方も見ずに話し始めるリメルダ。カロッスア。私はこの国の真実を知ったわ。マドラックスのおかげで。あの子の言葉は、私にとって限りなく真実に近い。
この国の内戦を続けさせる目的は? 銃を向け、カロッスアに問いかけるリメルダ。知ったところで、どうにかなるものでもない。自嘲気味に答えるカロッスア。
嘘は暴かれた。夢は覚めてしまった。もう元には戻れない。銃口ごしに別れ話をする二人。君の肌にもっと触れていたかった。私もよ。でも、もう踊らされたくないの。この国にも。あなたにも。
そんな修羅場をよそに、水辺ではヴァネッサの弾が、初めて標的に当たっていた。
そして夜の町、いまだヴァネッサ捜索を続けているマーガレットとエリノア。夜も遅いからホテルに戻ろうというエリノアに、まだアンファンに出会えていないと答えるマーガレット。それをたしなめるエリノア。
傷心のリメルダも一人、町をさまよう。何もかもが幻に見える。町も人も。本物は、あの子だけ。私に残っている本物は、あの子への、この気持ちだけ。だから、私が、あの子を、殺す。月を見上げながら、マドラックスへの愛を深く誓うリメルダ。
図書館では、まだ戦闘が続いていた。相手の気配が読めず、いつもの余裕がないマドラックス。そんな図書館の中に、0時の鐘が鳴り響く。
命に関わる問題だからです、というエリノアに、でも、そうしないとヴァネッサに逢えないのなら、私、とマーガレットが、ヴァネッサへの愛と決意を口にしようとしたその時、鐘の音が聞こえてきた。その音に、記憶を揺り起こされるマーガレット。絵本に繋がる記憶。聖都の壊れた時計。
鐘の音に気を取られたマドラックスに襲いかかってくるナハル。そのナハルに手も足も出ないマドラックス。全ての武器を奪い去られ、でもあきらめはしない。そんな緊張感漂う図書館の中に現れるマーガレットとエリノア。顔見知りの登場に驚くナハルのスキをついて銃を取るマドラックス。迷わず引かれた引き金は、ナハルのナイフを折り飛ばす。
そのまま姿を消すナハル。それにとりあえず安心するが、まだ緊張感が抜けないのか、声を震わせるマドラックス。そのマドラックスに声をかけるマーガレット。お互い向き合った二人は、一瞬沈黙が訪れる。そして、マーガレットの口をついた言葉。マドラックス。怯えが消えないマドラックスはマーガレットに銃を向ける。
あなたは、誰?
私、マーガレット。マーガレット・バートンです。
その名前を、ヴァネッサが口にしていたことを思い出すマドラックス。彼女はマーガレットの事を、友達だと言っていた。私のことを心配してくれる友達だと。その記憶を確かめる様にその名を口にするマドラックス。マーガレット・バートン。そのつぶやきに、はい、と答えるマーガレット。
そんな二人の名は、思惑を秘めた多くの人達の口からはき出される。
「マドラックス」と呼ぶヴァネッサ。
「マーガレット・バートン」とつぶやくクアンジッタ。
「マドラックス」と決意するリメルダ。
「マーガレット・バートン」と遠くを見つめるカロッスア。
そして、落ち着きを取り戻した彼女は名乗る。ほほえみながら。私、マドラックス。
そして聖都では、レティシアが空を見上げていた。その見上げた先に向かって語りかける。
あなたは真実を知らぬ者。マーガレット。あなたは偽りの真実しか知らぬ者。マドラックス。真実は、私。レティシア。だから、おねがい。はやくきてね。
聖都の空に見える二つの月。赤い月。青い月。二つの月は重なって、ブーペの影も青く、赤く、重なっている。二つの月、マーガレットとマドラックスは今、まさに重なろうとしていたのだ。
レティシアはさらに続ける。はやく。この、偽りの大地で、真実に触れるために……。
ってな感じの18話。一番最後、レティシアの台詞に、黒田洋介脚本らしさを感じる。さすがにあれば説明しすぎだ。つか、思いっきり1部完、のような雰囲気の終わり方に一抹の不安を覚える。本当に、来週もあるんだろうか? と、そんな気分に。もちろん、来週もある訳だが。
で、実際に部構成と考えてみると、1話~8話、9話~18話、という風に分けられる様に思える。
第一部(1話~8話)は世界状況の紹介。
- マドラックス(1話)
- マーガレット(2話)
- ガザッソニカ王国軍(3話)
- アンファン(4話)
- ガルザ(5話)
- 絵本(6話~8話)
第二部(9話~18話)はガザッソニカ(愛憎)編。
- ガザッソニカのにおい(9話)
- ブックワルドとアンファン(10話、11話)
- ヴァネッサとマドラックス(12話)
- マーガレットとカロッスア(13話)
- リメルダとマドラックス(14話)
- 二つの三角関係(15話)
- それぞれの決意、重なり合う二つの月(16話~18話)
となると、第三部は完結編、ということになるのだろうが、マーガレット、エリノア、カロッスア、マドラックス、ヴァネッサ、リメルダ、この六人の、割と入り乱れた関係をどのように収集づけるのだろうか? カロッスアとリメルダは、お亡くなりになっても違和感があまりないし、エリノア、ヴァネッサ、マドラックスはいつ発狂してもおかしくないし……矢張り、最後に残るのはマーガレット・バートンだけか。そうなると、マーガレットのハーレムエンド、というのが良いかもしれない。特に"ピュア"なお友達マドラックスとの会話なんてのは、実に楽しそうじゃないだろうか?
※注:妄想デス。しかも、かなりヒデェ感じの。
第19話「獲本-holy-」
2004/08/10 記
2004/08/17 修正
流れまくるアレンジ、そして新曲。NOIR、.hack、アクエリアンエイジと来て、益々パワーアップしている梶浦由記の楽曲と、それらを使った過剰なまでの演出に、ココロ鷲づかみ状態だ。O.S.T.2はいつ出るんだ? その上、今話はキャストの演技が高レベルで、その演技だけでも聞く価値が十二分にある内容だ。ってな感じの第19話。
夜、潜伏先のホテルで一人、銃のメンテナンスをするヴァネッサ。どうやらあの山積みだった銃弾を、すべて撃ち尽くしたらしい。その最中、聞こえてきたドアの開く音に声だけで反応を返す。「お帰りなさい」。そしてドアの方を振り返りながら「何か進展は……」と、そこで言葉が止まる。視線の先にいたのはマドラックスではなく、マーガレット。私のことを心配してくれる人。とても大切な人。その姿に、思わず大きな笑みがこぼれるヴァネッサ。「ヴァネッサ」マーガレットが呼びかける。逢えたことがとてもうれしいのに、でもまだ事態を飲み込めないヴァネッサ。マーガレットの声に、ためらいがちに答える。「マーガ……レット?」その言葉に。やっと逢えたことに。はじかれたようにヴァネッサの胸に飛び込んでいくマーガレット。ヴァネッサは、そんなマーガレットをそっと抱き返すけれど、まだ、気持ちは落ち着かない。「どうして……?」声がうわずっている。
そんなヴァネッサに声をかけ、微笑みを向けるエリノア。彼女の無事を喜んでいる。その声にやっと落ち着きを取り戻したのか、マーガレットに、逢いに来てくれた感謝と、そこまで行動させるほどにかけてしまった心配の事をわびるヴァネッサ。言葉もなく、ただ抱きついてくるマーガレット。そんな彼女の髪に顔を埋め、目を閉じてそっと、その香りを吸い込むヴァネッサ。そんな二人を優しく見守るエリノア。けれど、そこからほんのすこし離れて、マドラックスは一人、立ちつくしていた。自分はあそこには入っていけない。そのことを、嫌でも強く感じてしまう。そのストレスからか、意識が混濁し始めるマドラックス。ポケットから出した
右手左手(2004/08/17修正 ※1)をじっと凝視する。名のりあったあの時、あの子、私に触れてきた。ヴァネッサの友達の、あの子。あの子は一体誰なんだろう? そして、私は誰なんだろう?
疎外感からか、自分を見失いつつあるマドラックス。目の前の問題はすぐにでも処理できるのに、でも、その内容は矢張り、理解できていない。
テーブルにつき話を始める4人。相変わらずマドラックスは少し離れた場所に立っている。それとは対照的に、ヴァネッサの腕にしがみつき、身をすり寄せているマーガレット。エリノアはその向かい側に座っている。そんな中、さっそく話を切り出すヴァネッサ。知っての通り私はアンファンに命を狙われている。だから、もう逢わない方が良い。でないと、あなた達にまで危険が及ぶかもしれない。そう、表面的には二人を気遣うヴァネッサ。でも、それはマーガレットへの、"さりげない別れ話"を装った試しだ。マーガレットの気持ちがどこまでのものなのか、それが知りたくて仕掛けた罠。そして、マドラックスへの気遣い。二人で過ごした蜜月は、決して無意味なものなんかじゃなかった、という彼女へのメッセージだ。そう、マドラックスはもう命を懸けると言ってくれた。私のために生きると。マーガレット、あなたはどう思っているの……?
だから、ヴァネッサは宣誓する。銃に手を置いて。私は戦う。真実をつかむために。そして生きるために。その言葉に答えるように、「私、ここにいる」と、益々身をすり寄せてくるマーガレット。そんな彼女に厳しく切り返すヴァネッサ。「ナフレスに戻りなさい」。見つめ合う二人。「戻って、お願い」。そこで初めて口を開くマドラックス。「私も、ヴァネッサの意見に賛成よ」そう、二人の別れ話に入ってくると、「帰るのなら、明るくなる前にして」とさらに追い打ちをかける。とっとと帰れと言わんばかりに。「でないと、あなたの友達が危うくなる」そういう場所なのだ、ここは。
「解って、マーガレット。あなたか危険になるの」、そう追い打ちをかけるヴァネッサに、まるでなんでもないかのように答えるマーガレット。「私、もう危険だよ?」「だって、狙われてるもの」。驚くヴァネッサ。怖々と聞いてみる。「狙われているって、誰に?」強ばった声のヴァネッサに、エリノアが答える。図書館で戦った相手、ナハルがお嬢様の本を狙っているらしい、と。そんな風に会話が絵本に及び、そして書籍探偵エリックの名が出る。エリックをマーガレットに紹介したのは、ヴァネッサなのだ。そして、その名前に記憶を揺さぶられるマドラックス。アンファンに命を狙われていたエリック。「僕はこの世界では生きられない」「ここは、普通すぎる」そういって、世界を閉じてしまったエリック。再び混濁しはじめた意識は、そしてフライデーの事に及ぶ。フライデーの求めているもの。フライデーの手にしていたもの。絵本。目覚めの言葉。さらなる言葉。もう一冊の在処。セカンダリ。
そんなとりとめのない記憶の奔流に、でもマドラックスは一つの結論にたどり着く。アンファンは本を探している。セカンダリと呼ばれる本を。この場にいる全員の興味がマーガレットの持っている本に向く。けれど、エリノアですらそのものを見たことがない、という。ヴァネッサはマーガレットを促すが、彼女はあくまで見せることを拒絶する。「これはダメ」「何かが消えそうで、怖い……から」
アンファンが本を狙っているのなら、とるべき行動は一つしかない。マドラックスは、ヴァネッサの手に自分の手を重ねながら、ヴァネッサに語りかける。その本の手がかり。以前エリックとともに行ったドアイホ村。あそこなら何か情報があるはず。その意見にすぐに賛同するヴァネッサ。そんな二人を見て「私も行く」と言い出すマーガレット。けれども、ドアホイ村は戦闘地域にあり、さすがに危険すぎる。銃弾の中をかいくぐることになる、と諭すマドラックスに決意を誇示するマーガレット。「それでも、行きたい」「ううん、行かなきゃいけないの」。マドラックスは言う。「死んじゃうよ?」この台詞を、一体、何人に言ってきただろうか? そして、一体、何人が死んでいっただろうか。そして今回もまた、相手の決意は揺るがない。「それでも、真実が知りたい」そして、その決意の後に、さらに言葉は続く。「あなたは、違うんですか?」ピュアに聞いてくるマーガレット。「さあ。どうかな」軽くいなすマドラックス。
その頃、そのドアホイ村では、クアンジッタとナハルが夜風にふかれていた。やがてここにやってくるであろうマーガレット・バートン。資質持つ者。扉が開かれて13年。時は近い。それが感じられる、とクアンジッタは言う。けれど、ナハルはマドラックスが気になると、クアンジッタに報告する。資質は感じられないが、でも、まだ解らない存在だと。ナハルでも解らない存在か、と気にするクアンジッタ。しかし、達観したようにその表情は崩れない。
まだ暗い、明け方近くの森林地帯。戦闘地域。車でドアイホ村に向かっている四人。その車内で、砲撃を受けて光る山を、不思議そうに見ているマーガレット。そんなマーガレットに、ヴァネッサは絵本のことを聞く。その本を、どこで手に入れたのか。マーガレットは、ヴァネッサから赤い靴をもらった(※第2話)ときに、絵本のことを思い出した、と答える。その、『赤い靴』という言葉に反応するマドラックス。続けるマーガレット。ずっとしまってあったこの本は、お父様がくれた物だと、そのとき思い出したと。今度は『お父さん』に反応するマドラックス。さらに続けるマーガレット。この本のことが解れば、お父様の事が解るかもしれない。そして、私の記憶も。今度は『記憶』だ。マーガレットというこの子の事情は、まるで自分のことのように聞こえてくる。目を閉じ(※運転中です)、自分の考えに沈み込むマドラックス。雰囲気を察したのか、そのマドラックスに声をかけるマーガレット。「何か?」「記憶がないって、いつ頃から?」「12年以上前のことを、すべて」「12年……」今度は口に出してつぶやく。その態度に、そういえばあなたも、とマドラックスを見るヴァネッサ。二人の事情は、あまりに似すぎている。
そこに飛んでくる砲弾。一瞬早く気がついたマドラックスは、間一髪、車をよけさせる。急激なハンドル操作に、思わず悲鳴を上げるヴァネッサとエリノア。マーガレットはいつも通りすまし顔だ。完全にこちらを狙ってくる砲撃に、目立つ車を捨てた方が良いと判断するマドラックス。車を止めると、全員素早く車を離れる。そこに放たれた砲撃。車に命中し、吹き飛ばされるヴァネッサ、エリノア、マーガレット。
その瞬間、マーガレットは記憶の中に聖都を見る。廃墟の町。壊れた大きな時計。一瞬早く立ち直ったヴァネッサがマーガレットを抱き起こす。そして、未だ記憶のフラッシュバックに漂うマーガレットの口から漏れる、「懐かしい」という言葉。再度、呼びかけるヴァネッサの声に、マーガレットはやっと我を取り戻す。そこにエリノアの声。エリノアもやっと我に帰れたようだ。そんな三人の元に、銃を手にして駆け寄ってくるマドラックス。奥へ、と皆を誘導する。
そのマドラックス一行を狙っていた部隊。どうやら傭兵部隊らしい。装甲車の中に控えている、武装した傭兵達。顔にはスターライトゴーグルをつけている。その部隊の無線を傍受していたのか、無線機を片手に車を走らせるリメルダ。
その頃、ガザッソニカ非武装地域、町の方では、カロッスアが一仕事を終えていた。火をつけたライターにむかって、そっと、ささやくように、うっとりとした表情で、そして祈るようにマーガレットの名を呼ぶカロッスア。死体が二つ転がっている部屋に、その火を放つと、燃え上がった炎を見て、心底愉快そうに笑う。
森に逃げ込んだマドラックス一行は、相手の出方をうかがっていた。警戒するマドラックス。背後に感じた気配に、素早く振り返り、銃を向ける。けれどそこにいたのはマーガレット。銃を向けられても、不思議そうに、可愛らしく首をかしげるだけだ。このままでは不利だと判断したマドラックスは、マーガレットとエリノアをヴァネッサに任せると、一人撃って出る。あっという間に姿が見えなくなるマドラックス。マーガレットは問いかける。「あの人、人を殺すの?」ヴァネッサが答える。「いいえ、生きるため戦いをするの」人を殺すのが目的じゃない。いつか彼女が言っていた言葉を思い出す。そうしなければ生きていけなかったから。「生きるため」。表情を険しくしながら、ヴァネッサはつぶやく。
森を、戦場をかけるマドラックス。青い月を見上げ、「また、死ねない理由が出来そう」と、マーガレットへの思いを一人、口にする。「また、一つ」失敗したくない理由が。「でも、あなたは違う」不意に浮かび上がってくるレティシアの言葉。こうして今、戦っている私の戦場は、偽りのもの。そういったあの少女の記憶。それでも、次々に敵を撃ち倒していくマドラックス。しかし、敵の数の少なさに、疑問を覚える。何かがおかしい。
敵部隊は、リメルダのライフルによって全滅させられていた。リメルダの頭上に輝く、赤い月。「邪魔なんかさせない。あの子は、私のもの」心底うっとりした声で、つぶやくリメルダ。自分に残された、たった一つの真実を。この思いを。誰にも邪魔なんてさせない。そんなの、絶対に許さないわ。
全滅間近の傭兵部隊、その残りに襲われているヴァネッサ達。所詮、素人のヴァネッサ、反撃もままならない。でも、「わたし、守ってみせる」と決意を固める。その銃声を耳にして、現場にかけていくマドラックス。しかし、既に敵兵は三人の後ろに忍び寄っていた。かけつけたマドラックスはその敵の姿を見て、思わず叫ぶ。反応しきれないヴァネッサ。マーガレットを抱きかかえ、身を固くするエリノア。けれど、マーガレットは勢いよく立ち上がる。敵兵の目に映るマーガレットの姿。自分に向けられている禍々しい視線。その迫力に、一瞬、動きを止める敵兵。と、その背中にナハルのナイフが突き刺さる。それで最後。傭兵部隊は全滅してしまった。
姿をあらわしたナハルを見つめるマーガレット。そこに朝日が差し込んでくる。夜が明けたのだ。マーガレットの無事を確認すると、ナハルは(まるでブッティストの様に)マーガレットに向かって手を合わせる。ナハルに、事情を説明して、と迫るマドラックス。それは主の役目だと答えるナハル。時代を見据えるお方、わが主、クアンジッタ。
フライデーのアジトをおそっていたカロッスア。実は相当な手練れなのか、特にケガもなく制圧を完了している。一人、残っているフライデーに、ファースタリを拝借したいと申し出る。君を呼んだ覚えはない。なぜここへ来た? と返すフライデーに、その本は私が持つにふさわしいらです、と答えるカロッスア。その表情にも語気にも、自信に満ちあふれている。
クアンジッタ邸、相まみえる6人。あいさつもそこそこ、絵本を胸に、クアンジッタの元に近寄るマーガレット。本のことを教えて欲しいとクアンジッタに話しかける。それに答えるように、マーガレットの顔に手をかざすクアンジッタ。そして答える。その本の名はセカンダリ。三冊ある中の、二冊目の本。
離れた場所、けれど同じ時。彼らは運命的に三冊の本の、その意味を語り出す。
フライデーはカロッスアを憐れんで言う。君にファースタリは扱えない。それに、この本は三冊そろわないと意味をなさない。
クアンジッタ。本はいつの時代、誰によって書かれたのか、それは私にも解らない。けれど…
カロッスアが台詞を引き継ぐ。本が三冊そろえば、扉を開くことが出来る。フライデーも答える。そう、あの場所へと続く扉へ。
少女、レティシア。外からの声に、答える様に。ここへ来ることが出来る。
マドラックスは疑問を口にする。その扉というのを開けたら、どうなるの?
クアンジッタ。時代を見据える女。本当の優しさ、本当の暖かさを知ることになるでしょう。そう、本来あるべき自分を知ることが出来るのです。
それをカロッスアは、人間の本質、と表現する。同意するフライデー。その場所には、人間の奥底に眠る衝動という名の旋律が流れている。崇高なもの。原初的なもの。何にも束縛されない、美しき調べ。私は、それが聞きたいのだよ!
本来あるべき自分。自分らしくあること。つまり、本がそろえば記憶が戻るということなの? お父様の事も? マーガレットはクアンジッタに聞く。『お父様』にハッとするマドラックス。彼女もまた、父親を捜す一人だ。そしてまた、彼女の意識は混濁しはじめる。クアンジッタは、それはあなた次第だと答える。マーガレット・バートン次第だと。
続く会話。ならば、私もその旋律とやらを聞いてみることにします。そう言って銃を構えるカロッスア。君は、あの場所には行けない。落ち着き払ったフライデーの声。それでも揺るがないカロッスア。彼はその自信の源を口にする。もし、そうだとしても、私を導いてくれる者がいます。私のことを"お仲間"と言ったマーガレットが。
マーガレットは聞く。他の本は? 一冊目のファースタリはアンファンに。三冊目のサースタリは、私が。本を、マーガレットにうやうやしく差し出すクアンジッタ。マーガレットに、ファースタリを手に入れるように言う。もし、本を手に入れたのなら扉へと、私が案内すると。
カロッスアは続ける。心底うれしそうな声で。あなたの持つファースタリを手に入れる。そしてセカンダリの所有者と共にあの場所へ。聖都へ、共に。
マーガレットは使命感に駆られている。私、行きたい。扉の向こう側に。そこの行かなくちゃ。でも、その後でマドラックスは混濁した意識を抱え、怯えている。いや。私は行きたくない。カロッスアもまた、決意に満ちている。俺は行く。あの場所に。そして、俺は……俺に戻る! 銃声。倒れるフライデー。また、心底うれしそうに笑うカロッスア。ファースタリを手に、笑い続ける。これで俺達の邪魔をするやつはいなくなったよ、マーガレット。だから私を導いてくれ。私のかわいい天使。
振り返るマーガレット。私、私を知りたい。私らしくありたい。だから、行くわ。けれど、その視線の先、マドラックス一人だけが、子供のように怯えていた。
絵本の謎を解説しながら、ひたすら粘度の高い感情を、画面からにじみ出させているリメルダとカロッスアが本当に良い。そして、とうとう戦場に降り立って、どことなく生き生きしはじめた、平和な世界になじめない少女、マーガレットと、マーガレットとの出会い以来、益々ダメになっていく少女、マドラックスも。残り7話にして、かなりの盛り上がりッぷりだ。
※1: 第20話のタイトルコール前、マドラックスが手を見るシーンに強い違和感を覚えたので確認してみると、見事に逆の手だった。つまり、第19話では左手、第20話では右手を見ているのだ。
第20話「真争-wish-」
2004/08/17 記
もはや、感想と言うより解説といった内容に変遷している上に、自分でもどうかと思うような文章量、しかも、それは回を重ねるごとに増える一方で、如何にこのMADLAXに自分がハマっているのか、よくわかる。そして、そんな気持ちを、益々煽るように盛り上がる内容。妄想、脳内補完をするまでもなく展開される愛憎劇。いや~、マジで今回は捏造度が下がってます。つか、ほとんどそのままデス。スゲーぜ、真下監督!
そういや、このあいだまで"ました"だと思ってたんですが、"ましも"だ、とマルトさんに教えてもらいました。だからマッシーモなのね。得心、得心……ってファンとしては恥ずかしいことこの上ないですが。ってなことで第20話。
聖都。レティシアの声が告げる。三冊の本を集めて開かれるのは、扉。そこにあるものは、人間の本質。
森の中、開けた場所で一人、立っているヴァネッサ。憂いた瞳でつぶやく。本を集めたことによって、この国の内戦は始まった。
風が吹き、目を閉じる。
クアンジッタがその言葉を引き継ぐ。
そう、12年前に、扉は一度開かれている。三冊の本を手にし、扉を開けし者。それは、アンファンの長、フライデー・マンデー。
再びヴァネッサ。
その男が扉を開き、何かを求めた。それは一体、何なのか。こんな、延々と続く内戦を、こんな悲しみを求めたというのだろうか。
風が吹く。よりいっそう、その瞳に憂いをたたえるヴァネッサ。
「私の両親もそれに巻き込まれた。マドラックスも。そして……」
エリック(書籍探偵)が投身自殺した大きな木、大樹のある崖のそば。マーガレットとエリノアが二人、たたずんでいる。そこにかぶるヴァネッサの声。「マーガレットも…」。そう、ここにいる全員が、何らかの形で関わっている。この内戦に。ガザッソニカという国に。
エリノア。マーガレットに少し近づいて、声をかける。「本を集めましょうお嬢様。そうすることでお嬢様の記憶が…」けれど、マーガレットはその言葉を遮るように言う。「本は、もうすぐ集まる」「…え?」驚くするエリノア。マーガレットは目を閉じながら思いをはせる。「解るの。来てる。すぐそばまで」
そんな二人を離れた場所から見ているマドラックス。「あの子……」そうつぶやいて右手を見る。が、強い気配を感じ振り返るマドラックス。聞こえてくるリメルダの声。「素敵よ、マドラックス」怪訝そうに目を細める。
そこから遙かに離れた泉のほとり、ライフルを胸に抱えたリメルダは、マドラックスに向かってささやく。「それでこそあなた。だからこそ、私」そういって、笑う。
夕暮れも終わり、いよいよ夜になろうかというドアホイ村。とある小屋の中で話し合っているヴァネッサとエリノア。人間の本質。本当の自分。それが、実際には何のことかは、まるで解らない。だけど、アンファンはそのことを知っている。扉の向こうに何があるのか。そして、いや、だからこそ本を狙っている。どんな手を使ってでも、アンファンはこの本を手に入れようとするだろう。
でも。ヴァネッサは言う。「そうだとしても、私、真実を知りたい」。両親のことを思い出すヴァネッサ。そうする理由。真実を追い求める理由。それが私にはあるから。そんなヴァネッサを手伝うというエリノア。お嬢様の記憶を取り戻すためにも、真実を知らなければならない。だから、私も、と。
強いわね。そう気持ちを漏らすヴァネッサに、エリノアは「お嬢様のためなら、私は無敵にだってなれます」と、微笑む。微笑み返すヴァネッサ。この子は本当に強い。
月明かりの中、泉に入って身を清めているリメルダ。その決意を口にする。「あぁ……この月が消えたら、そう、あなたを……」
その月を見つめているマドラックス。私は、私のことが知りたい。でも……。そこに聞こえてきた足音。素早く反応する。「なに?」厳しい声。そこにやってきたのはマーガレット。近寄ってきたものの、けれど顔を上げないマーガレットに今度は優しく言い直す。「なに?」
「あの、ヴァネッサを助けてくれて、ありがとうございました」顔を上げるマーガレット。逆にマドラックスは顔を伏せてしまう。それが、私の仕事だもの。ぶっきらぼうに答える。それだけ……ですか? ヴァネッサとマドラックスの、これまでの態度に何かを感じ取っていたマーガレットは聞き返してしまう。マドラックスはマーガレットと目を合わせず、月を見上げる。少し、違っちゃったかも。マーガレットの疑問に答える、でもね。ヴァネッサを助けるために、私は人の命を奪ったの。すこし、沈んだ声で言うマドラックス。
それはいけないことです。マーガレットも沈んだ声で言う。だからか、また、顔を伏せるマドラックス。解ってる。でも、撃たなければ私が死ぬ。だから撃つの。ここが戦場だから。ここで生き残るために。私は人の死の上に生きているの。マーガレットはそんなマドラックスを、かわいそう、という。目に涙を浮かべて。かわいそうな、人、と。マドラックスは、そんなマーガレットを否定しない。それは、おそらくそうなのだろう。私は、おそらくかわいそうなのだ。でも。もう、なれたわ。なれたのよ。
そんなマドラックスの言葉に、マーガレットは、首を振って答える。マドラックスは目を閉じる。見透かさないでよ。
マーガレットは言う。私、あなたが好きです。あなたは優しい人だから。立ち上がるマドラックス。優しい人は、人なんか殺さないわ。立ち去るマドラックス。その後ろ姿を見つめているマーガレット。優しい人。あなたは優しい人殺し。平和な世界になじめないマーガレットは、モラルという地平からは離れすぎている。
そして、そんなマーガレットに、かつて友人がいた。優しい人。ヘリアンサスが好きだった彼女。そして、彼女も人殺しだった。今はもう死んでしまったけれど。ただ、その彼女も優しかったのだ。優しすぎるほどに。
そのままクアンジッタの館にやってきたマドラックス。祭壇の前で決意を固めると、三冊目の絵本、サースタリに近づく。そんなマドラックスの背後に現れたナハル。素早くナイフを抜き、マドラックスを威嚇する。何をしている、と問うナハルに、マドラックスはクアンジッタ・マリスと話がしたいという。先ほど感じた気配。怖い人の声。あの人が来る前にクアンジッタの本がみたい、と。しかし、サースタリは資質ある者しか手には出来ない。そうナハルは答える。
私にその資格はない……私、違うの? 誰に聞かせるわけでもなく、つぶやくマドラックス。
そこの現れるクアンジッタ。ナハルを下がらせると、マドラックスと向き合う。「私も、あなたとゆっくりお話ししたいと思っていました」。けれどマドラックスは「ごめんなさい、時間がないの」。かまわずマドラックスに手をかざし、目を閉じるクアンジッタ。「それでも、あなたに会いたかった」そして、目を開ける。マドラックス。あなたは資質ある者ではありません。ですが、12年前の事件に巻き込まれている。だから、あの場所を見ているはずです。その言葉に、思い出したようにつぶやくマドラックス。「エルダ・タルータ」。驚くナハル。マドラックスは続ける。そのとき、私、見知らぬ戦場の中にいた。廃墟の町。聖都。そこでみた少女。レティシア。その子は言った。ここには真実があると。感情が高ぶったのか、涙を浮かべているマドラックス。マーガレットと同じ、左目に。偽りでないものが、ここにはあると。こぼれ落ちる涙。私、真実を知って、いいの?
クアンジッタは手を下ろすと、マドラックスの横を抜けて、祭壇へ歩いていく。マドラックスは言う。教えて。クアンジッタはサースタリを手に取ると、それをマドラックスに手渡す。それを、あなたが望むなら。真実を知ることが出来る。自らの手で。
戦火に光る山間を眺めながらつぶやくカロッスア。これが、フライデー・マンデーが望んだ世界。その片鱗。内戦で疲弊しきった世界。人々が死んでいく世界。世界で一番、命の値段が安い国。ガザッソニカ。そして、俺自身の存在も、また。
小屋の中で寝ているヴァネッサとエリノア。ベッドもないのか、二人とも椅子に座って寝ている。その三つ並んだ椅子の、真ん中の使用者、マーガレットは一人、セカンダリを手に、隣の部屋の窓辺に座っていた。月を見上げながら。赤い月を。
マドラックスもまた、サースタリを手に、祭壇の前で月を見上げていた。青い月を。
本に手をかけ、マーガレットがつぶやく。この本の中に、私の過去がある。
本に手をかけ、マドラックスがつぶやく。この本の中に、私の真実がある。
本を開く二人。この本に。この中に。
流れ出す記憶。
戦場。廃墟のような町。二人の少女の声。
「おとうさま~」甘えた声が呼びかける。
「おとうさん」緊張した声が呼びかける。
銃を構えて振り返る一人の男。
「あいたかった、おとうさま~」再び甘えた声。駆け寄る少女の足。向けられる銃口。
「やめて! どうしてこんなことするの!」強く訴える少女の声。
開かれている、絵本。風でページがめくれる。古い本なのか、やがてその風でページが破れ、空中に舞い上がる。
その中で銃を構えている男。
「だっこして~」甘えた声。
「近づかないで」叫び。
構えられたもう一つの銃口。男の背中に向けられている。
「おとうさま~」すこしすねたように。
「おとうさん!」絶叫。
銃声。落ちる薬莢。落ちるドッグタグ。落ちる、人形。
倒れた男の背中には銃を構えた、幼いマドラックス。そして、倒れた先には、幼いマーガレット。赤い靴が片方、脱げている。時が止まったように動かない二人。
絵本の影響から覚め、つぶやくマーガレット。「マド……ラックス」。そしてマドラックスも。「マーガレット・バートン」。二人のかいま見た廃墟の中、幼いマーガレットの落とした人形を抱きかかえながら、レティシアがささやく。「私は刹那。残された、想念」「それは、真実」
クアンジッタは本を閉じたマドラックスに声をかける。真実は見えましたか? けれど、マドラックスはまだ信じられないようだ。あれが真実だと、誰が証明してくれるの? その言葉に、ナハルが答える。決まっている。自分自身だ。自分の中にある確信が、真実の是非を決める。サースタリをクアンジッタに返すマドラックス。そのまま立ち去ろうとするマドラックスに、ナハルは声をかける。「教えてほしい。おまえは何者だ?」目を閉じるマドラックス。「それを一番知りたいのは、私よ」目を開け、「だって…」
そんなやりとりが行われている祭壇を狙う、一つのスナイパースコープ。マドラックスにぴったりとつけられていた照準が不意にぶれると、ロウソクへと向けられる。銃声。素早く伏せるマドラックス。癖なのか、右手は脇の銃をつかんでいる。つぶやくマドラックス。「殺しに来たのね」。森の中のリメルダ。ライフルを構えている。マドラックスのつぶやきは続く。「罪深い」、リメルダは、薄く笑う。「私を」
無造作に立ち上がり、祭壇を出て行くマドラックス。そのあまりの無造作っぷりにナハルが驚く。なにをしている?
森の小道を歩くマドラックス。そのマドラックスをスナイパースコープで狙い、ささやくリメルダ。気づいて、私を。うっとりとした声で、マドラックスにささやきかける。近寄ってくるマドラックス。その目には涙が浮かんでいた。そのことに気がつき、驚くリメルダ。「私…」惚けたような声のマドラックス。その声に答えるリメルダ。「そうね、好きよ」怖いくらいに甘えた声で、好きな相手の名を、口にする。「マドラックス」。引き金を絞るリメルダ。
間一髪、ナハルが飛びついて、弾ははずれる。倒れ込む二人。まだ惚けたままのマドラックスを見ながら、ナハルは自分の行動の意味を、自分自身に問いかける。なぜだ、なぜ私はこの女を助けた? 資質ある者でもないし、クアンジッタ様から命を受けているわけでもない。なのに……。
例の大樹のある崖のそば。セカンダリを胸に、一人立っているマーガレット。私、思った。あのとき思ったの。死んじゃえって。そのことを悩むマーガレット。どうして……私……。そのマーガレットに背後から懸けられる声。ここは危険だ。離れた方がいい。「あなたは」。驚くマーガレット。
木の影から様子をうかがうナハル。その真横に撃ち込まれる弾丸。正確な射撃だ。顔を引っ込めたナハルにマドラックスは話しかける。なぜ、助けたの? 答えるナハル。「わからん」「嘘」。即、返される。その即答に一瞬驚くが、「そうだな。嘘だ」認めるナハル。「私は、私の中にある確信に従った」。顔を上げるマドラックス。教えて。確信って何? マドラックスの頬をなでながら、ナハルは語りかける。おまえは既に自分を知っている。だから、おまえがここに存在する理由はある。そう私は確信した。目を閉じ、頬の感触だけに集中するマドラックス。存在する理由。目を開ける。私が、存在する……理由。
脳裏に浮かぶヴァネッサとの約束。あなたに頼まれたから、もう死ねないわ。そう言ったヴァネッサ。だから、あなたも死なないで。そう言ってくれた、ヴァネッサ。左目からこぼれる涙。そう、死ねない。約束したから。今は、その約束だけで、それだけで、私、生きていける。私を私だと確信できる。銃を抜くマドラックス。
スナイパースコープの先に見えた動く物陰。リメルダは素早く反応する。が、すぐにおとりだと見破る。反対側にライフルを向けるリメルダ。スナイパースコープに一瞬とらえたマドラックスの影に発砲する。弾は当たらず、走り続けるマドラックス。リメルダに向かって銃を撃つ。一瞬飛び退くも、すぐにライフルを構えるリメルダ。マドラックスの銃弾が飛び交う中、それを物ともせずに銃口はマドラックスを追っている。その銃声を聞きながら、木の影からナハルは心配そうにマドラックスの名をつぶやく。
走っている足。エリノアだ。ヴァネッサと一緒に、いなくなったマーガレットを探しているようだ。そこに聞こえてくる銃声。マドラックスとリメルダの一騎打ち。驚く二人。ヴァネッサは、自分の銃に手をかける。
再び大樹のそば。マーガレットの背後に立っているカロッスア。けれど、マーガレットは振り返らない。どうして、私がここにいるのが、解ったんですか? 目を閉じて、懺悔するように告白するカロッスア。それは、私がアンファンだからです。その言葉に反応するマーガレット。アンファン。犯罪組織。ヴァネッサを狙っていた人達。ですが、私にはアンファンと違う目的があった。決意に満ちた目を開けるカロッスア。そう、取り戻したいのです。その語気にカロッスアの事が気になり始めるマーガレット。瞳だけ後ろを気にし始める。ファースタリを取り出すカロッスア。その本に語りかけるように言葉を続ける。「12年前に失った、記憶と真実を」それを、取り戻したいのです。
カロッスアの持つ本に驚いて振り返るマーガレット。カロッスアがマーガレットの驚きに答える。一冊目の本、ファースタリ。そして、君が持っているのが二冊目の本、セカンダリ。顔を上げるカロッスア。これで扉が開く。あの場所へ、行くことが出来る。穏やかな目をしているカロッスア。マーガレット。この本を君に託す。そして私を導いてほしい。その目が、遠くを見るように少し、細くなる。たった一つしかない、真実へ。そんな、初めて見るカロッスアの表情に驚くマーガレット。カロッスアの目は益々遠くをみているように、焦点が合っていない。私には君が、必要だ。そんなカロッスアにマーガレットは恐怖を感じ、後ずさる。怖い。「だが、君は真実を知りたがっている」マーガレットの心をとらえにかかるカロッスア。「それは、私と君の運命だ」
その二人の様子をうかがっていた村人の連絡により、ナハルを呼びに来るクアンジッタ。どうやら時が満ちたようだと。扉が、開かれようとしている。
ライフルを起き、拳銃を構えるリメルダ。近寄ってくる相手にライフルは不利だ。その上、マドラックスの気配は消えてしまっている。あのとき(※第12話Bパート)と同じように。だからこそ、あのときと同じように近くにいることを確信するリメルダ。真剣な表情で気配を探る。すぐそばにいるはず。すぐそばに。そのリメルダの背後から近寄るマドラックス。手が届きそうなくらい近くに。その気配に気がついたリメルダは振り返りざま足払いを繰り出す。飛んで避けるマドラックス。さらに襲いかかるリメルダのハイ-ミドルキック。それすらもバックステップで避けるマドラックス。リメルダに向かって引き金を引く。その銃口を自らの銃でそらすリメルダ。引かれた引き金は、けれど今度はマドラックスの銃でそらされる(※ガン=カタです)。
銃口を向け合っている二人。
マドラックス。やっと逢えた姿に、その名を呼びかけるリメルダ。データは見た? マドラックスの問いかけに答えるリメルダ。見たわ。私の今までの人生は偽りだった。アンファンに作られた虚構の中で生きていた。
それを知ってて、なぜ私を狙うの? 聞くマドラックス。そうする理由があるから。答えるリメルダ。さらに疑問を重ねる。あなたこそなぜ戦うの? こんな偽りの世界で。今度はマドラックスが答える。約束のため。ヴァネッサとの。私の中にある、唯一の確信。
風が吹く。舞い上がったマドラックスの髪に、一瞬見とれるリメルダ。その隙を見逃さず襲いかかるマドラックス。けれど、素早く反応したリメルダに押さえられ、二人は腕を合わせながら、お互いを牽制している。「そして、私が存在するため」。言葉をつづけるマドラックス。腕に相当の力を込めているのか、苦しそうな声で。同じね。私も、私という人間を存在させたいのよ。リメルダが言う。あなたを殺すことによって、私は私の存在を許す。それしかもう、私には残っていないのだから。たった、それだけしか。あなたしか。
腕に込められる力、けれどこちらを見る視線にリメルダは気がつく。「友達になれたかもしれない」マドラックスの言葉に、少し、悲しい表情をするリメルダ。「抱き合えたのかも、しれない」けれど、それはもう、可能性ですらない。終わってしまったもの。ダメになってしまったもの。もう、そんな風には、なれない。「だったら、私を殺して」。リメルダは目の前の彼女に救いを求める。愛する彼女に。一瞬離れ、再び銃口を向け合う二人。銃口越しに見つめ合い、マドラックスの瞳に、揺れるリメルダの表情。
そこに現れたヴァネッサとエリノア。銃を撃つヴァネッサに一瞬、二人とも気をとられるが、その隙をついてリメルダが銃を撃つ。倒れるマドラックス。リメルダを撃つヴァネッサ。その弾が腕をかすり、リメルダは森の中に逃げていく。心配して声をかけるヴァネッサ。大丈夫というマドラックスに、マーガレットの行方を聞くエリノア。けれど、マドラックスの腹部から流れ出る血に気がつき、ショックを受ける。平気。この痛みが、私を、私だって教えてくれるから。そう言って、うなだれてしまったマドラックスを励ますヴァネッサ。「マーガレットを、探して」その言葉に躊躇するエリノア。性根は優しい子なのだ。「そうしてあげて。お願い」ヴァネッサからも促され、マーガレットを探しに走っていくエリノア。探して、あの子を。だって、あの子は……。気絶するマドラックス。
腕を押さえて歩いているリメルダ。ヴァネッサ・レネ。なんていう邪魔な女。あの女さえいなければ、私は、あの子と踊り続けられたのに。その声は、怨みに満ちている。
祭壇部屋。マーガレットの持ってきたファースタリを確認するクアンジッタ。そのまま手をかざしてくるクアンジッタの態度に、おびえて後ずさるマーガレット。が、何とかこらえて目を閉じる。そして、マーガレットに手渡されるサースタリ。三冊目の本。その逐一を、真剣な目で見守るカロッスア。すぐ扉に向かうか? そう聞いてくるクアンジッタに、マーガレットはみんなに知らせてから、と答えようとする。その言葉を遮る声。カロッスア。急ごう。君がセカンダリを持っていることを、アンファンは知っている。「カロッスアさん」「マーガレット」。名を呼び合い、目で会話する二人。
うなずくマーガレット。扉への案内をクアンジッタに頼む。クアンジッタは、ナハルに後を頼むとマーガレットとカロッスアをつれて祭壇を出て行く。その三人を見送りながら、ナハルは胸騒ぎを感じていた。だが、クアンジッタ様がそれに気づかぬわけがない。けれど、何かある。まだ、何かが。そう確信するナハル。まだ、気は抜けない。
気絶したマドラックスを抱え、歩いていくヴァネッサ。そこにレティシアの声がかぶる。
「真実に近づいていく。でも、まだたどり着けない」
大樹のそば、マーガレットの名を呼ぶエリノア。
「まだ、見つけられない」
聖都。その中で語りかけるレティシアの声。「早く来て」「ここへ。この場所へ」
フライデーのアジト。古びた教会の中。画面に表示されるマーガレットの情報。それをみて陶酔しきった声のフライデー。「あぁ……美しい旋律が聞こえる……」そして、高笑いするフライデー。両手をあげ、心底楽しそうに……。
来週の放送はなく、再来週、8/30に1時間放送するとの予告が入っていたのだが……2話分一気に書くの、僕? つか、次回予告で、伏せっているマドラックスは兎も角、マーガレットとカロッスア、手に手を取り合ってたんですが。つか、ガン=カタ……ガン=カタだよな、これ。矢張り、リベリオンも購入しておくべきなのだろうか。
第21話「告薄-guilty-」
2004/08/31 記
二週間ぶりのMADLAX。久しぶりだからか、なんだか調子が出ない。ネタは良い感じなんだが……。ま、兎も角、第21話。
自分が誰なのか解らない様子の少年。その少年の前に立っている男。少年はカロッスア。男はフライデー。どうやら、二人の出会いのようだ。それから、アンファンとして生きてきたカロッスアの半生がいくつか垣間見える。偽りの名前。偽りの人生。
そして現在。洞窟の中、台座らしきところに本を並べているマーガレットに、熱い視線を送っているカロッスア。マーガレットの様子を見ながら、彼は思う。教えてくれ、マーガレット・バートン。本当の俺を。真実を。
夜の明けたドアホイ村。ヴァネッサは銃弾に倒れたマドラックスを看病している。ベッドに寝かされ、意識もないマドラックス。その呼吸の荒さが、傷の深刻さを物語っている。マドラックスを看病しながら、ヴァネッサ、視線を窓の外に向け、マーガレットの名をつぶやく。
そのマーガレットを探していたエリノア、ナハルからマーガレットが扉を開きに向かったと教えられる。三冊の本を手に入れ、クアンジッタ様の導きによって、扉を開こうとしている。
その言葉を聞き、ショックを受けるエリノア。おぼつかない足取りで振り返ると、祭壇の間を出て行こうとする。不審がるナハルにエリノア、凛とした態度で宣言する。お嬢様に使え、お嬢様を守る。それが私、エリノア・ベイカーのつとめだ、と。
しかし、それをあっさりと否定するナハル。その権利も資質もエリノアには無いと言い放つ。それに、マーガレット・バートンには、彼女を導く者がいる。カロッスア・ドーンが。
そのナハルの言葉にショックを隠しきれないエリノア。うつむきながら震える声で、しかし健気にも言葉だけは反論する。
「そんなこと、断じて認めません。お嬢様は私が、私の……!」
今にも泣きそうな声で。でも、気持ちをちゃんと言葉には出来なくて。置いて行かれたこと。選ばれなかったこと。今、私が横に立っていないこと。目の前の現実、渦巻く感情。それらに激しく動揺するエリノア。
ナハルは、そんなエリノアにほほえみかける。ならば、自分で確かめるといい。そういって、エリノアを洞窟へと導く。迷うことなく洞窟の階段を下っていくくエリノア。
その洞窟の奥底、祭壇の前。目を閉じているマーガレットに手をかざしているクアンジッタ。クアンジッタはマーガレットを扉へと誘う。
「マーガレット・バートン。あなたのその瞳は、時代を見据えるもの」
「さあ、扉を開く言霊を」
マーガレットの元へと、洞窟の中を走るエリノア。なかなか見えてこないお嬢様の姿に、不安感が募る。
クアンジッタは続ける。
「目覚めの言霊を」
目を開くマーガレット。
「エルダ・タルータ」
マーガレットの口から、静かに本の名前が告げられる。光り出すファースタリ、"エルダ・タルータ"。
クアンジッタは続ける。
「本質の言霊を」
その様子をじっと見つめているカロッスア。
「サークス・サーク」
光り出すセカンダリ、"サークス・サーク"。
「真実の言霊を」
マーガレットは目を閉じ、そして再び開く。
「アーク・アルクス」
反応するマドラックス。何かが来たことに気がつくレティシアとブーペ。光り出すサースタリ、"アーク・アルクス"。
その様子に歓喜の表情を浮かべるカロッスア。浮き上がるマーガレットの体。祭壇には光が満ち、その光がエリノアの元まで届く。
エリノアは、その光を見て一瞬足を止めるが、しかし目的地がすぐそこであることを確信し、安堵の笑みを浮かべると、すぐにまた走り出す。そして駆け込んだ洞窟の祭壇で、クアンジッタに問いかける。お嬢様はどこに、と。クアンジッタは答える。真実の扉の向こうに。彼女"達"はもう行ってしまった。見渡すエリノア。そこにはクアンジッタの姿しか見えない。先ほどまで光を放っていた三冊の本も、祭壇の上から消えてしまっている。
エリノアは疑問をそのまま口にする。それはどこにあるのでしょうか。扉なんて、どこにも見あたらないのに。
資質なき者には、見えません。クアンジッタは冷徹に答える。
"資質"という言葉に一瞬、目を見開くエリノア。先ほどナハルに言われた言葉。お嬢様の横に立っていられない理由。
エリノアはもう、次の言葉を口にすることも出来ない。
日食によって真っ暗な野外、崖の上でナハルはマドラックスのことを思う。マーガレットは旅だった。カロッスアと共に。資質ある者達。けれど、どうして気になるのだろうか。私の心にトゲを刺す……マドラックス。
小屋の中。戻ってきたエリノアはヴァネッサに聞かれて事情を説明する。お嬢様が三冊の本を手に入れたこと。真実の扉を開けたこと。けれど、その態度に力はなく、声も表情も暗い。なら、私たちも行こう、というヴァネッサに、弱々しく説明を続けるエリノア。
「行けないんです」
「お嬢様は行ってしまいました。私たちの知らない……どこかへ」
驚くヴァネッサを全く気にする様子もなく、ただ、気持ちをはき出すように続けるエリノア。
「私は、お嬢様に何もしてあげられません」
「もう、何も……」
肩を落としたその表情はさらに暗くなり、目には生気が感じられない。そんなエリノアにヴァネッサは声をかける。マーガレットは戻ってくる。記憶を取り戻しに行っただけだから。12年前と同じように、また、一人でも戻ってくる、と。
でも、私には何もしてあげられない、と悲観するエリノアに、そんなことないよ、とヴァネッサは言い始める。出来ることならあるでしょう?
その言葉に、顔を上げるエリノア。けれど、その表情はまだ暗い。だからヴァネッサは、おなかが空いた、と言う。冗談めかして。調子が出てきたのか、何かお作りしましょうか、とぎこちなく微笑むエリノア。調子に乗ってヴァネッサは「パスタが食べたい」と言い出す。ここでは無理です、と笑って答えるエリノア。なんとか元気を取り戻した様子に、気遣って励ましてくれる様子に、微笑み合うヴァネッサとエリノア。そんな二人の元に、隣の部屋で寝ていたマドラックスのうめき声が聞こえてくる。駄目……いけない!(※1)
その頃、マーガレットとカロッスアは不思議な空間の中を歩いていた。果てがないような、けれど狭いような、光の空間。ここはどこですか? と問いかけるマーガレット。当然、カロッスアもその答えをしるよしもない。けれど、求めるものはこの先にある。12年前の真実。無くしてしまった過去。その記憶。
カロッスアはマーガレットに語りかける。君と私とは12年前に出会っている。だから、私は扉を開ける資質を得ることが出来た。
目を閉じ、その記憶を反芻するカロッスア。小さな手にのせられた、三つのキャンディー。
そう、君の求める過去は、私の求めている場所にある。だから導いてくれ。マーガレット・バートン。過去と真実の扉へ。
見つめてくるカロッスアに微笑み返すマーガレット。その微笑みを肯定と受け取ったのか、手を差し出すカロッスア。その手に、自分の手を重ねるマーガレット。手を握り合い、マーガレットは決意を口にする。私も、真実が知りたい。だから……。
目を閉じたマーガレットが念じると、胸に抱かれた三冊の本が光を放ち始めた。すぐに光は渦を巻くと一瞬消え去り、直後、光が二人の前に降りてきた。光は降りてきながら、その姿を扉に変える。手をつないだ二人の目の前に、ゆっくりと、音もなく降り立つ扉。
マドラックスは再びうなされる。駄目……いけない!
降りてきた扉をみて、マーガレットの中に記憶が流れ込んでくる。廃墟。死に絶えた兵士。赤い靴。打ち抜かれたドッグダグ。男の背中。開かれた絵本。人形と缶詰。空を舞う、絵本のページ。そして……レティシアの声。「ここに来てはダメ」「あなたはまだ、真実にたどり着けないから」
その声に気を取られて、立ちつくしていたマーガレットを置いて、一人、先に進むカロッスア。つながれていた手は、離れてしまった。扉に手をかけるカロッスア。マーガレットはカロッスアを止める。いけない、その扉を開けてはダメ。その理由を聞き返すカロッスア。当然の疑問だ。マーガレットは「誰かの引き留める声が聞こえたから」と答える。一瞬、考えるがカロッスアはその言葉を一蹴する。ここまで来て、今更何を言っているんだ?
マーガレットは尚も引き留める。行かないで(※2)。けれど、カロッスアの決意は固い。マーガレットの制止もむなしく、扉を開いてしまう。その反動か、はじかれたように倒れてしまうマーガレット。けれど、倒れた先は緑あふれる世界だった。
広い空。柔らかな太陽の光。森の中、開けた一角に広がる草原。ささやかに咲いている小さな花。小さなせせらぎ。倒れたまま、カロッスアに語りかけるマーガレット。風景が見えます。これは夢なのでしょうか? その声に答えるマドラックス。意識を失ったままで、けれど答える。夢じゃない。これは、夢なんかじゃない。
そしてカロッスアは扉の前で歓喜していた。俺が求めているのは真実、不変なる事実だ。それが、すぐ目の前に。俺の目の前にある! けれど、レティシアは呟く。でも、それは……。
灰色の雲の中を飛んでいる中型の旅客機。機内では、気流の乱れにより機体が揺れることがあるため、シートベルトを締め、座席から立ち上がらないように、というアナウンスが流れている。そんな中、クリスという少年が母親と話している。不意に音がしたかと思うと、床に落ちる一体の人形。レティシアの抱えていた人形だ。それに気がついて、人形を拾い上げるブーペ。人形を手に不思議に思っていると、前の座席から幼いマーガレットが、そっと顔を出してきた。微笑みかけるブーペ。微笑み返すマーガレット。ブーペは、マーガレットに人形をそっと差し出す。人形を受け取って「ありがとう」とにっこり笑うマーガレット。その笑顔にブーペが見とれていると、そこにマーガレットの母親(※3)がやってきた。
幼いマーガレットは母親に聞く。お父様とはいつ会えるの? 母親は優しい声で答える。もうすぐよ。じきに会えるわ。
そうして母親に連れられて歩いていくマーガレットを、少しの間、見つめているブーペ。その視線は、やがて触れあった指先に移る。人形を渡したときに触れあった、その指先に。
けれど旅客機は雷を浴び、そして笑い声を上げる巨大な人影に吸い込まれるように向かっていく。その笑い声は、フライデー・マンデーのものだ。彼が扉を開いたときの事なのだろうか?
すぐに強烈な光に包まれた旅客機の中、ブーペと幼いマーガレットには音楽が聞こえていた。衝動という名の旋律、美しき調べ。
結局、飛行機は墜落してしまった。ジャングルの中、切り取られたかのようにキレイに無くなっている左の主翼と、矢張りキレイに輪切り状に切れている胴体。ケガらしいケガも無かったのか、ブーペはその横を平然と歩いている。一瞬、険しい顔になるが、けれど聞こえてきた声に顔を上げる。
母親の体をしきりに揺すり、泣きそうな声で延々と呼びかける幼いマーガレット。母親はピクリともしない。お母様、お母様! 起きて! 目を開けて! お母様、お母様……。そんなマーガレットの横に落ちていた人形を拾うとまた、マーガレットに手渡すブーペ。そして、マーガレットを促す。行こう。そして二人は戦場を逃げまどう。フライデー・マンデーの作った戦場、ガザッソニカのジャングルを。夜のジャングルを、夜の廃墟を駆け抜ける二人。
そうしてたどり着いた廃屋に二人は隠れている。昼間の移動は危険なのだ。外は晴れ、穴の開いた天井から太陽光が差し込んできていた。座り込んでいるマーガレットはブーペに聞く。お母様は死んじゃったの? 答える事も出来ないブーペ。けれど、泣き出してしまったマーガレットに優しく声をかける。泣いちゃダメだ。泣かないで。お母さんの分まで生きるんだ。マーガレットは泣くのをやめようと精一杯頑張って、顔をしかめる。そんなマーガレットに、ブーペは更に優しい口調で続ける。僕がいるから。君のそばに。そう言って、ポケットからキャンディーを取り出す。手にのせられた、三つのキャンディー。
やがて降り出した雨は、戦場を区別無くぬらしていく。死に絶えた兵士達の死体、戦闘車両、大きな銃。そんな廃屋の中で、幼いマーガレットの肩を抱いて座っているブーペ。マーガレットは泣き疲れたのか、悲しげな顔のまま眠ってしまい、ブーペに寄りかかってくる。マーガレットの体温をより身近に感じ、生きてやる、と決意するブーペ。生き抜いてやる、絶対。絶対に!
開かれた扉から、虚ろな目でその様を見ていたカロッスアは少年の言葉を繰り返す。生き抜く。絶対に。あれが俺だ。あの少年が俺だ。俺だからこそ、俺だと解る。……しかし、なぜこうも姿形が違う?
金髪金目のブーペとは、カロッスアの姿は確かに似てすらいない。
夜。飛行中の、軍用と思われるヘリのハッチから男が顔を出して外の様子を伺っている。その格好のまま部下をどやしつける。まだ見つからんのか! その彼が着ているジャケットのマークは、マドラックスが着ているそれそのものだ。やがて、三機編隊のヘリが廃墟に降り立つと、すぐさま兵士達が廃墟に展開する。そんな兵士達のスキをついて移動するブーペとマーガレット。彼らが走る背後では爆発の音と閃光が響いている。
しかし二人は歩みを止めてしまう。不安がるマーガレットを抱き寄せるブーペ。廃墟の二人の目の前で、やはり二人の男がにらみ合っていた。その更に後ろでは、紅い月が空に禍々しく浮かんでいる。男のうち一人は、ヘリに乗っていた男のようだ。軍人風の装備を身につけている。その男に、もう一人の男が話し始めた。
「貴様になら解るはずだ、バートン大佐。いや、マドラックス!」
マドラックス・バートンと呼ばれた男は、ただ、相手の名前を呼び、答える。フライデー・マンデー、と。
「これが……これこそが、人間だと」
フライデーは手にした三冊の絵本を目立つようにバートン大佐に見せる。これが人間。その本質。衝動という名の旋律の美しさ。バートン大佐はそんなフライデーにためらわず引き金を引く。撃たれたのか、本を手放し、顔の右側を押さえるフライデー。憎々しげに相手の名前を口にする。マドラックス……!
その名前に、マーガレットが反応する。マド…ラックス? マーガレットはブーペの元から駆け出すと、バートン大佐に向かって走っていく。甘えた声で、お父様、と呼びながら。それを止めようと手を伸ばすブーペ。行っちゃダメだ! どんどん走っていくマーガレット。そのマーガレットに向けられる銃口。ブーペは叫びながら飛びつくように手を伸ばす。
銃声。絵本に落ちる血液。脱げた赤い靴。そして、倒れているマーガレット。けれどすぐに起きあがる。そして目を向けた先、ブーペの胸には大きく血痕がついていた。銃弾を受けたのはブーペだったのだ。倒れ込むブーペ。その様子を見てふらつくカロッスア。彼の胸にも血痕が大きく広がっている。そして、扉は勢いよく閉まってしまう。
傷口を押さえるカロッスア。血痕はどんどん広がっていく。その痛みにうめくカロッスア。これが真実。これが、俺に起きた事実。胸を押さえ、倒れそうになるカロッスア。そんな彼の耳にマーガレットの声が聞こえてくる。少女の甘えた声。お父様~、だっこして~。
その声に、気力を振り絞って、再び扉に手をかけようとするカロッスア。けれど、そのカロッスアをレティシアは制止する。開けてはダメ。開けてはダメ。その扉を開いたら、あなたの存在は消える。
痛みに苦しみながらもレティシアを振り返るカロッスアだが、迷うことなく扉に手をかける。その様に苦悶のあえぎを漏らすレティシア。たとえそうだとしても、俺は!
そして、銃声が聞こえ、カロッスアは呟く。そうか、それが……マドラックス。
夕暮れの聖都で泣いているレティシア。その涙をそっとぬぐうブーペ。しかし、たったそれだけ。ブーペはすぐに、あっという間に消えていってしまった。そのことにまた、涙を落とすレティシア。けれどもう、涙をぬぐってくれる人はいない。
そして、夕日さす中、倒れたまま草原で眠り込んでいたマーガレットの元に、ふらつく足取りでたどり着くカロッスア。
その静かな寝顔に語りかける。
「ありがとう。マーガレット・バートン。真実を知ることで、僕は自分の気持ちに気づくことが出来た」
「たとえ命を落としても、僕は君を守りたかった」
両膝をつくカロッスア。しかしその表情に苦しみはない。顔には決意が満ち、そして目にはすこし悲しみを浮かべている。
「そして。僕は僕である前から、君を……」
一瞬、強い悲しみうかべ、けれど、すぐに優しげに目が細められ、
「君のことを……」
好きだった、とマドラックスの声が告げる。まだ泣き続けているレティシア。そして迎えた夜。星空の下、マーガレットの横に寄り添うように倒れているカロッスアの手は、そっと、マーガレットの手に添えられていた。
そのすぐそば、地面に投げ出されていた絵本を拾うフライデーの手。心底愉快そうに含み笑うと、カロッスアを見てひとりごちる。カロッスア・ドーン。いきたいという意志が、あの場所の力を借りて具現化した、だけの存在。君のおかげで再び本が我が手に戻った。そして、扉を開く少女も。
眠ったまま、マーガレットは思う。
-これは、私の夢なの?
マドラックスが答える。
-いいえ、あれは、真実。
-真実なら、私、あの場所でお父様に会えた。
-お父さんがいた。
安心したような、うれしそうな声。
-でも、お父様はあなたが……。
未だ煙をあげる銃を構えている幼いマドラックス。銃口の先にいる男が倒れ、その向こう側に幼いマーガレットの姿が見えるようになる。
-私が……?
-あなたが……
-私が……
それを告げる、レティシアの声。
-そう、それが、真実。
お亡くなりになってもあまり違和感がない、と言っていたカロッスアさんが今回、見事にお亡くなりに。あまりに見事なまでの詩的なその散り様に、スタッフ様に愛されてたんだなぁ、と思うことしきりだが、その横でグースカ寝ているマーガレット嬢って一体……天然とか真っ黒とか、そういうこと以前の問題デス。いや、眠り姫に愛の告白を、というシチュエーション自体は良いと思うけどね。
つか、ブーペくんの正体も驚きだが、そうなるとレティシアちゃんの方は誰の本体になるのだろうか? 素直に受け取ればマーガレット、ということになるのだけれど、そこを直球でこられても微妙……。いや待てよ。もしかしてこれは、全ての元凶であるマーガレットが実は幻の存在で、彼女が消えることによって悲しいけれど全ての問題が一気に解決! なんて言う設定なのか? そうなのか? (違いマス)
ッてな風に、カロッスアさんの退場劇も楽しかったんだが、それと並ぶように、恋のライバルであるエリノアさんが自信を喪失して落ち込んでいる様も、もう楽しくて。「お嬢様のためなら、私は無敵にだってなれます」なんて言っていた、あのエリノアさんが落ち込んでふさぎ込んでいる。その理由がマーガレットに置いて行かれた&マーガレットと一緒にいるのはカロッスアさんだから。という状況に、怖いくらいツボを押されまくりデスよ! スゲェ!!
で、一時間スペシャルだからか、第22話の予告がいつもの15秒からすさまじく増えて45秒になっており、びっくり。
※1
一瞬、エリノアを励ますヴァネッサの態度に嫉妬したのか? という考えが頭をよぎって、ちょっと吹き出しそうになった。全然、そんな声質じゃないはずなのに。
※2
別れたくないの、"行かないで"、という風に聞こえて、ちょっとドキッとした。
※3
キャストは、特別出演の三石琴乃さん。クレジット自体が本当に特別出演だったのだ。とはいえ、どの辺が特別なのかは知るよしもないが……。
第22話「撃情-rage-」
2004/08/31 記
フライデーのアジト、古びた教会。三冊の本を前にひとりごちるフライデー。ファースタリ、セカンダリ、サースタリ。それは人間の本質。本能の奥底に眠る衝動すら呼び起こす。人が人であることを示すもの。
そこに現れるレティシア。影の中から歩いて出てくる。「また繰り返すつもり?」
フライデーはレティシアの姿をみとめると、残り香、とつぶやく。どうやらその正体を知っているようだ。レティシアはいつもの感情のこもっていない声ではなく、悲しみに濡れた声でフライデーに話しかける。
「そんなに殺し合いが好き?」
「またいなくなるわ。……だれも」
人形を強く抱きしめるレティシア。ブーペの喪失からまた、さほど時間は経っていない。フライデーは自信たっぷりに答える。
「全ての人間がそれを求めている」
「ただ、気づいていないだけなのだ」
「私は、意識などというものに支配されない場所へ、人々を導こうとしているのだよ」
レティシアは問う。その場所は? 一体どこに、誰を導こうとしているの?
楽園、と答えるフライデー。私は人類を救う。この本を使って。そう言って、セカンダリを手に取る。しかし、レティシアの指摘により、そのページが一つ、失われていることに気がつく。レティシアは続けて言う。あなたには見つけられない。一歩ずつ後ろに歩くレティシア。再び影に入っていく。真実は向こう側にあるのだから。やがてレティシアの姿はかき消すように見えなくなってしまう。
やがて笑い出すフライデー。ならば、と三冊の本を開く。そして、視線を向けた先には、マーガレット。光が漏れる台座の上に寝かされたマーガレットは、目覚める。
ドアホイ村、小屋の中で目を覚ますマドラックス。その足下では、椅子に座ったヴァネッサとエリノアが寄り添うように眠っている。包帯の巻かれた腹部に違和感を感じたマドラックスは、起きあがると鏡の前で包帯をほどいていく。一気にほどかれて足下に落ちる包帯。鏡に映ったマドラックスの腹部には傷一つ無かった。銃で撃たれたはずなのに、その後すら見つからない。
マドラックスは振り返ると、ヴァネッサの寝顔を見つめる。そして、何かに気がついたように微笑み、けれどそれはすぐに自嘲の笑みに変わる。
「普通になりたくても、無理」
「そう、本当はずっと、解ってたはずなのに」
大樹のそばに立っているクアンジッタ。そこにナハルが声をかける。クアンジッタは、ナハルにマーガレットが扉を開けなかったことを伝える。扉を開けるのを拒絶したのだ、それが私には解る、と。ナハルはその理由を聞くが、さすがにクアンジッタもその理由までは解らない。
話を聞いてナハルはマーガレットのにある"しこり"、扉を開けることを拒絶したその理由を考える。おそらくそれは、マドラックス。彼女だ。
ナハルが視線を向けた先では、マドラックスが一人、膝を抱えて座っていた。昇ってくる朝日の方をボンヤリとながめている。ここ数日の日課のように、左手を眺めるマドラックス。マーガレットと出会ったときのことを思い出している。そのときに触れられた、その左手を眺めながら。
フライデーのアジトを出て行こうとしているマーガレット。しかしその瞳は焦点が合っていない。笑うフライデーの手の動きに操られるように、フラフラと歩き出るマーガレット。
そしてマドラックスの後ろに歩み寄るのは、ヴァネッサ。その横にはエリノアが立っている。傷に障るから戻りましょう、と言うヴァネッサの言葉を無視するように、振り返りもせず、ただ「感じる」と告げるマドラックス。彼女、マーガレット・バートンの気配を感じるのだ、と。その言葉に大きく反応するエリノア。本当ですか、と不安そうに聞いてくる。マドラックスは視線を左の山に向けると、あの山の向こうに、と告げた。あの山の向こうから気配を感じている様だ。そんなマドラックスの態度にヴァネッサはどうしてマーガレットの気配が解るのか、と不思議がる。マドラックスは、「私、あの子と同じだから」とだけ答える。その言葉の意味を取りあぐねているヴァネッサ。けれどエリノアの案内してください、という言葉に、それ以上追求する機会を失ってしまう。立ち上がるマドラックス。そんなマドラックスを、ナハルは物陰からうかがっていた。
その頃、リメルダも行動を始めようとしていた。傷ついた腕はまだ治っていないが、でも、これで良い。これであの子を……。
霧の中から揺らめくようにその姿を表すマーガレット。虚ろな目で呟きながら歩いている。
人形。絵本。赤い靴。お父様。
砲弾が近くに着弾し、爆風がマーガレットをなぶるが、まるで意に介した様子がない。
そして……。
マーガレットの脳裏に浮かぶ廃墟のイメージ。そこで人々は殺し合い、その中央でフライデーが笑っている。両手を広げ、禍々しい笑い声で。
気持ち悪い。
マーガレットは吐き捨てる。
ジャングルの中を歩いている三人、廃墟にさしかかる。そこかしこから聞こえてくる銃声に、迂回しましょう、とヴァネッサが言うが、マドラックスは少女のような口ぶりで微笑む。きっと、平気。そのまま廃墟の中に歩いていってしまう。廃墟の中では激しい戦闘が繰り広げられていた。銃弾が飛び交い、ロケット砲、手榴弾も飛び交う。巻き起こる爆風に煽られ、土砂が視界を遮る。その中に一人立つ、マドラックス。
双方の兵士がその影を見て不審がる。誰だ、あいつは?
砂煙が晴れて、双方から撃ってきた銃弾を数歩、後ろに下がってやり過ごすとマドラックスは両手を左右に広げて銃を撃つ。その銃弾に、持っている銃をはじき飛ばされる兵士達。投げた手榴弾も空中で打ち抜かれ、ロケット砲を構えれば、防弾ヘルメットを撃たれて後ろに倒れ込むはめに。誰一人殺すことなく、その戦場で踊りきってしまうマドラックス。
その様子に、ただただ驚くエリノア。けれど人を殺さないマドラックスにヴァネッサは心の変化を感じ取る。その様子を矢張り見続けているナハル。無線を傍受してマドラックスの位置を知るリメルダ。
未だジャングルの中を歩き続けているているマーガレット。12年前のことを思い返している。お父様は私のことを迎えに着てくれた。優しく包んでくれた。なのに……どうして……。あなたが、どうして? マドラックス……なぜ? なぜなの? 呟きながら歩くマーガレットの背中に銃口が押しつけられる。歩みを止め、振り返るマーガレット。厳しい表情で「何をしている」と尋問する兵士を見て、笑う。
尋問を続ける兵士。ここで何をしている? 何が目的だ? けれど、マーガレットは虚ろな目で答える。あなた、誰? 私、死んじゃうの? 苛立った兵士はマーガレットを銃で押し倒す。うめき声を上げて倒れ込んだマーガレットを見て気が晴れたのか、はたまた、倒れ込んだときに見えたマーガレットの下着に気をよくしたのか、薄笑いを浮かべる兵士。鼻で笑う。けれど、マーガレットは無表情のままだ。そして、「痛い」と口にする。「痛い」、と。
ジャングルに響き渡る男の悲鳴に目を丸くして驚くエリノア。それがどう結びついたのか、マーガレットの身に何かが起こったことを感じて、悲鳴がした方に走っていく。エリノアを追おうとするヴァネッサだが、マドラックスが動かないことに気がつき足を止める。すると、マドラックスは先に行ってと言い出した。追っ手が来る、ここで食い止めるから、と。
でも、とマドラックスの身を案じるヴァネッサだが微笑んでいるマドラックスにこの場を任せることにする。
-死なないでね、マドラックス。
-約束したでしょ?
-そうね……信じる。今のあなたなら信じられる。
ずっと微笑んでいるマドラックスにヴァネッサも微笑み返すと、エリノアを追ってジャングルの中に消えていった。
一人、残ったマドラックスの足下に打ち込まれる銃弾。素早く反応して銃を構える。その銃口の先には……リメルダ。初めて彼女の名を口にするマドラックス。それに気分を良くしたのか、上機嫌で話しかけるリメルダ。マドラックス、あなたを、殺す。撃ってきたリメルダの銃弾を、飛んで避けるマドラックス。リメルダも素早く移動し、お互いの弾は近くを通っても当たることはない。その銃声に耳を澄ましているナハル。目をつぶり、銃声のみに集中している。
ジャングルの中を駆け抜けるエリノア。立ち止まってはマーガレットのことを呼び、そして再び走り出す。そのエリノアをおってジャングルに入ったヴァネッサだが、すぐには見つけられない。辺りの様子をうかがいながら進んでいく。と、そこの現れたフライデー。ヴァネッサの名前を呼び、資質なき者がここにいても何の意味もないのに、なぜここにいる? そう質問を投げかける。さらに、その答えを聞くまでもなく、フライデーは質問を重ねる。もしかして、12年前のご両親の件を、今でも引きずっているのか? 自分の過去を知っている相手をいぶかしむヴァネッサ。もしかして、アンファン? フライデーは続ける。私は今、欲しいものがある。そのことについて教えてくれるなら、君の質問に答えてもいい。マーガレット・バートンの持っていたセカンダリ、その抜け落ちた1ページの行方が知りたい。
その質問に思い出すヴァネッサ。マドラックスが持っていたあの紙。あれが絵本の抜け落ちた1ページ……?
どうやらその行方を知っている、という素振りのヴァネッサに、フライデーは自分の理想を語り始める。私の望むもの、それは純粋なる人間の構築だ。そう、この国の内戦も、人間達の純粋さがもたらしたもの。宗教上の対立でもなく、国の利益のためでもなく。この国に生きる者達の本質、その純粋なる衝動が内戦を求めたのだ。それはとても自然な行為だ。
演説に苛立つヴァネッサ。だったら、私の両親は!
フライデーは答える。彼らはその衝動にあらがおうとした。愚かなことだ。所詮、邪なモラルは、曇り無き純粋さ勝てない。
だから、内戦を誘発させた罪をかぶせて殺したというの!?
激高したヴァネッサは銃を抜き、フライデーに向ける。そのことを喜ぶフライデー。おぉ! 美しいまでの殺意! 君もまた純粋だ。芸術的ですらある。
未だ続いているマドラックスとリメルダの銃撃戦。物陰に身を潜めながら銃撃しているリメルダとは対照的に、マドラックスは身をさらし、踊るように銃弾を避けていく。なぜそんなことが出来るの? リメルダの疑問に声でなく答えるマドラックス。それは私が、私という存在を知覚したから。穏やかな笑みを絶やさないマドラックス。私、自分が誰だか解ったの。そんなマドラックスをリメルダは否定する。そんなの認めない。あなたは私と同じ、何もない人間よ! 穏やかな笑みのマドラックス。何もない人間? 笑っているような、泣いているようなリメルダ。置いていかないでよ、マドラックス!
マーガレットを探し続けているエリノア。悲鳴が聞こえた辺りまでやってきた。何かを踏んだ感触に下を見ると血まみれの銃が落ちていた。その先には兵士の死体。エリノアは思わず息をのむ。そしてマーガレットは未だ歩き続けている。
銃を向けたものの、発砲しないヴァネッサに、フライデーは"しこり"が残っているな、と言う。ならば、目覚めさせてやろう。ファースタリを手にすると、フライデーはそのタイトルを口にする。"エルダ・タルータ"。
本質に触れ、銃を落とすヴァネッサ。意識を保つことすら危うい様子で、座り込んでしまう。そのヴァネッサに優しく語りかけるフライデー。自分の中にある本質に従うのだ。なぜなら、君が求めているものを、私は与えることが出来るからだ……。
マドラックスとリメルダの対決はその終局を迎えていた。マドラックスの銃弾が、リメルダの銃をはじき飛ばす。唖然としたまま、自分に向けられた銃を、マドラックスを見るリメルダ。そして微笑むと、目をつぶる。この楽しかったダンスも、もう終わり。これでやっと終われる。この気持ちも。偽りの人生も。私の中に残された、たった一つの真実から最後をもらえるなんて、そんなに悪い人生じゃなかったのかもね。さあ、マドラックス……私の愛おしい人。
森の中にマドラックスの声が響く『殺さないよ』
目を開け、辺りを見渡すリメルダ。彼女の名をそっと、口にする。マドラックス。
血のように真っ赤な夕焼けの中、まだマーガレットを見つけられないエリノア。歩き続けているマーガレット。本質に触れ、未だ意識を取り戻せないヴァネッサ。力ないあえぎを漏らす。フライデーは諭すように語りかける。自分の真実の姿を見ろ。本当の自分の姿から目をそらすな。そこに差す一つの影。マドラックス。彼女の作り出す影が、フライデーに差しかかっている。息も絶え絶えにマドラックスの名を呼ぶヴァネッサ。一方、フライデーの態度は対照的だ。マドラックス、か。それが自分の名前だとでも? むしろ憐れみすら感じさせるフライデーの口調。
どうだろう、おまえの持っているセカンダリを渡してくれないか? マドラックスに話しかけるフライデー。そうやって、人を惑わし続けるの? 質問を返すマドラックス。
人々がそれを求めている。あのときもそうだった。
私、あなたを殺す。
人々が、求めている。
殺すわ。
銃を構えたマドラックスを見て、その背後にリメルダの姿を見つけるヴァネッサ。マドラックスへの想いの強さか、すぐに自分を取り戻すと落ちていた銃を拾い、リメルダに銃口を向ける。そんなヴァネッサの態度を理解して、マドラックスも素早く反応し、リメルダの方へ銃を向ける。
一瞬早く引き金を引くリメルダ。けれど即応したヴァネッサの銃弾が、またしても銃に当たり、崖にしがみついていたリメルダはそのまま崖下に落ちていってしまう。宙を舞うリメルダの体。
そして、振り返ったマドラックスの目に映ったのは、腹部から血を流して倒れるヴァネッサの姿だった。
一面の花畑の中を、こざっぱりしたおそろいの服で歩いているヴァネッサとマドラックス。空には舞い散った花びらが無数に舞っている。その中で、マドラックスは、ヴァネッサを攻める。
-嘘つき。
-……ゴメン。
-無茶しすぎよ?
-そうね……。わたし、お父様とお母様の無実をはらしたかった。それしか見えてなかった。でもね、それと同じくらい、友達を守りたかったの。
-……友達。
-マーガレット。エリノア。そして、あなた。
顔を伏せるヴァネッサ。立ち止まるマドラックス。もう、マドラックスはこれ以上先に進めない。そこから先に進めるのは、死者、だけだ。ヴァネッサは早足で数歩すすみ、振り返る。死なないでね。マーガレットのこと、お願い。
無責任よ。泣きそうな顔で言うマドラックス。
友達じゃない。イタズラっぽく言うヴァネッサ。
マドラックスが顔を上げると、幼いヴァネッサはどんどん先に走っていく。その先にはヴァネッサの両親の姿が。笑いながら飛び込んでくる娘を抱き上げる父親。そして、それを眺めている母親。その姿を見て、もう、名前を呼ぶことしかできないマドラックス。ヴァネッサ……。
一面の花畑の中、舞い散る花びらと一緒に戯れているヴァネッサ家族。手の届かないところで、けれど、その笑い声は本当に楽しそうで、そして不意に消えた。よろめくマドラックス。
血のような夕日が差す中、崩れ落ちたヴァネッサの姿を見て時が止まるマドラックス。あふれてくる涙。けれどそれはすぐに、マーガレットの悪夢のような悲鳴にかき消される。わななきながらも、ふらつく足取りでヴァネッサの元に歩み来るマーガレット。膝をつき、ヴァネッサの姿に涙する。そんなマーガレットを見て悲しみの吐息を漏らすマドラックス。けれど、マーガレットの目はもう、ヴァネッサ以外をとらえていない。
「殺したんだ。あなたが」
涙を湛えたまま、険しい目をするマーガレット。
「そう、お父様も!」
ヴァネッサの銃を取り、流れるような動作でマドラックスに銃口を向ける。驚くマドラックス。
「サークス・サーク」
ためらうことなく引き金を引くマーガレット。撃ち抜かれ、マドラックスもまた、崖下に落ちていく。それを見届けて、銃をおろすマーガレット。
「アーク・アルクス」
涙が、落ちる。そして、夕日もまた。
ここに来て一気に死亡が2、生死不明が2。あまりに鮮やかすぎるマーガレットの銃器の扱いと、傷を受けても消えてしまうマドラックスに、妄想が駆り立てられる。カロッスアのような存在が許されるのなら、マドラックスもまた、影であって良いし、だとすれば本体はマーガレットということになる。そこに更にレティシアを加えても良いし、最後に三人が一人に戻るという終わり方なのかもしれない。
或いは、マーガレットとマドラックスは別人で、二人の影が重なって生まれたのがレティシア、という解釈も出来る。どっちにしろ残りは4話。後一ヶ月で全て明らかになる。
それにしてもマドラックスに追いすがろうとするリメルダの態度と、死後の世界に見送りにまで行ったヴァネッサとの、マドラックスの二人に対する態度の違い、扱いの違いに、もう、身もだえするような心境だ。つか、リメルダの「置いていかないでよ」は、かなりのツボ、そしてヴァネッサの方、二人してお花畑を歩き出したシーンは凄すぎて唖然。脳内で会話し出すマドラックスとリメルダもアレだが、死してなおその姿を追いかけているヴァネッサへの態度、そしてその表現はあまりにブッ飛びすぎている。楽しくってしょうがねぇや、コンチクショウ。
次回予告で普通に起きあがっていたマドラックスは兎も角(主人公だしな)、フライデーに抱きしめられたり、別の服を着せられたりしているマーガレットはまだ、フライデーの支配下にある、という事なのだろうか。それとも、フライデーのかしずく態度が示すとおり、フライデーですら、マーガレットの支配を受けている、ということなのだろうか。いやはや、エリノア嬢には是非ともがんばって欲しいモンだ。
第23話「迷心-doubt-」
2004/09/07 記
帰りがけ、一緒に帰っていた人が、「今、深夜に色々アニメやってるんだね」と話し始めた。その人は日頃アニメを見るような人ではないのだけれど、昨日はたまたまテレビを見ていたらしい。最初は、ガンダムSEEDやってた、等と話していたのだが、ふと「あれって何なの? 半分仮面を付けた男が出てるやつ」と言い出した。「なんか、『お父様のために殺す』とか言ってたけど……」
一瞬、何のことか解らなかったが、すぐに僕の頭の中に声が響いてきた。
「お父様のために、殺すわ」
周囲の騒音は遠く消え去さった。そして完璧なトーン、よどみなく聞こえてくる桑島法子嬢の声。マーガレット・バートンの、声。
半仮面の男、フライデー・マンデーを足下にかしづかせ、遙かなる高み、豪華絢爛たる悪しき栄光の座から下界を見下し、いつもの"正体不明の狂気のようなもの"を込めた声で、静かに。そっと。ささやくように。未だいかなる文明においても試みられた事の無いほどに、歴史的で威風に満ちた、けれどなおそれ以上に霊感と深き闇にも似たなにかを秘めた宣誓を、そのわずかの瞬間に、彼女は僕の頭に焼き付けていったのだ!
と、かなり良い感じに毒電波を受けてますが、まだまだ行けマス。つか、あれこれ妄想が広がりすぎて、それだけで胸一杯になり、なんだか見るのが怖くすらなってきている。ここまで何かを期待している自分にすら、微妙に恐怖を感じる始末だ。本当に僕は大丈夫か?
って思ってたのがこの第23話を見る前。でも、結局、上記のようなシーンは(当然)なく、しかも、どうも喰い足りない話濃度に、先週の一時間スペシャルの影響か、と何となく思う。先週に比べれば1/2時間だし、そもそも第21話、第22話、それぞれで主要キャラが一人ずつ死んでるし。盛り上がり方が負けるのは、矢張りしょうがない。いつもの揺り返し、凪の回だ。ここでもっとドラマを繰り広げてくれると楽しいのに……。つか、もっとマーガレット嬢を出してくれ。怖気が走るほどの、あの存在を。月ですらその姿を変えてしまうほどの、猛毒にも等しい彼女の美しい旋律を。もっと。もっと!
金色の月が照らし出す聖都の記憶。廃墟の中、風でめくれる絵本。父を呼ぶ、二人の少女の声。お父様。お父さん。父は動かない。滑り落ちる撃ち抜かれたドッグタグ。脱げ落ちた片方の赤い靴。瓦礫の上に横たわる人形。瓦礫の上に横たわるレティシア。
それが、私。
マーガレットは、背中からフライデーに抱きすくめられる。抵抗する素振りどころか、その表情には生気すら感じられない。
崖下に落ちたマドラックス。意識を失ったまま、微動だにしない。
早く気づいて。早く。
レティシアが、呟く。
戦闘の続くガザッソニカ。夜を迎えた森林地帯を、砲撃の炎が照らし出し、その爆音が響き渡る。そんなジャングルの中を、マグライトを手に一人、さまようエリノア。マーガレットお嬢様を捜してその歩みを止めることはない。けれど、その眼前にヴァネッサの姿が見えたとき、その足は止まってしまった。倒れている彼女の腹部には赤い血が、けれどもうそれが広がることもない。
ヴァネッサはもう、死んでしまったのだから。
エリノアの持っていたライトがヴァネッサの顔を白く、白く照らし出す。微かにも動かないヴァネッサの体。エリノアは震える手を伸ばすと、ヴァネッサの体にすがりついて泣き出してしまう。どうしてこんな事に……。
アジトに引き上げたフライデーは、三冊の本を前に再びひとりごちる。可哀想なくらい独り言の多い男、フライデー・マンデー。彼は自らの孤独を良しとし、誰一人として、その横に求めることは無かったのだ。
ページの欠けたセカンダリを見ながら、その持ち主がここにやってくることを確信するフライデー。彼女は必ずここに来る。彼女が、マドラックスである限り。マーガレット・バートンが、ここにいる限り。
フライデーの視線の先で、マーガレットはまた、台座の上に眠らされていた。赤い靴、黒い、胸元の白いノースリーブのドレスにネックレス、白いショール、そして腕に同じく真っ白なロンググローブをつけた姿で。台座の光を受けて、神々しさすら感じさせるマーガレット。けれどその眼はまだ、閉じられたままだ。彼女はそのまま、夢を見ていた。
夕日に照らされ、何もかもが真っ赤に染まった中、腹部をなお紅く染め、倒れているヴァネッサ。その姿を見て泣き崩れるマーガレット。けれど、そのヴァネッサの横に落ちていた銃を拾いあげると、迷うことなくマドラックスに銃口を向ける。「殺したんだ、あなたが……そう、お父様も!」 驚くマドラックス。「サークス・サーク」 ためらうことなく引き金を引くマーガレット。(※1)
その銃声に目を覚ますマドラックス。跳ね起きると、撃たれた胸を手で押さえる。けれど、そこに傷はない。夢、だったの? ささやかに期待を込めたつぶやきは、けれどナハルの声に否定される。いいや、現実だ。声の方向を見るマドラックス。ナハルが岩の上に座っている。沈黙の一瞬、そしてナハルは微笑んだままマドラックスに話しかける。どうしてそうなったか、解っているはずだ。マドラックスは答える。そうね。そして、再びの沈黙。
静かに微笑むナハルに、マドラックスは聞く。顔を強ばらせながら。ヴァネッサは……ヴァネッサ・レネは……? 静かに微笑んでいるナハル。マドラックスは、力なく息を吸い、そしてわずかにはき出す。目を閉じれば、思い浮かぶヴァネッサと過ごした日々。彼女と交わした約束。もう二度と戻らない、"想い出"になってしまった日々を、そしてもう逢うこともないヴァネッサを想い、マドラックスは涙を流す。その姿を見て、微かに表情を曇らせるナハル。
蒼い月の光に満ちたジャングルの中、戦闘は益々激化している。次々と上がる砲撃の炎、飛び交う銃弾、砲撃を受け死んでいく男達。
マーガレットは、ただ静かに眠り続けている。欠けた絵本の1ページを待つように。
そのマーガレットを見つめるフライデー。彼の眼に込められた強い意志は、揺らぐことがない。
泣きやんだエリノアは、まだ震える手に力を込めると、ヴァネッサの手を胸元に重ねる。そっと、顔にかかった髪を手できれいにそろえる。そして、耐えるように眼を強くつぶる。
川面で目を覚ますリメルダ。まだ、終われないでいる。
ナハルはマドラックスに聞く。
「マーガレット・バートンはおまえを殺そうとした。なぜだ?」
「私が、罪を犯したから。当然の報いよ」
ただ、淡々と答えるマドラックス。その態度にナハルは質問を重ねる。
「死を求めているのか?」
感情を揺らすことなく答え続けるマドラックス。
「生きるのが下手なだけよ」
「だから、たった一人の友達まで失う」
愛した人ですら。そんなマドラックスに静かに微笑み続けるナハル。 ふと、マドラックスの表情が曇る。「もう、消えていいかな? 私……」 泣きそうな声で、呟く。ナハルはそれを否定はしない。けれど、成さねばならぬ事がある、とマドラックスに語りかける。生きているものには、成さねばならぬ事がある。マドラックスは顔を上げ、ナハルを見る。うなずくナハル。そして、記憶をたぐるマドラックス。私の成すべき事
―― 『マーガレットのこと、頼むわね』
―― 頭をよぎるヴァネッサとの約束。
マドラックスは、マーガレットのことをナハルに聞く。マーガレットは連れ去られてしまった。仮面の男、フライデー・マンデーに。おそらく、彼女を使って扉を開くつもりだろう。或いは、もう扉は開いているのかもしれない。そう言うナハルにマドラックスは自信に満ちた顔を向ける。それはないわ。ポケットから紙を取り出す。絵本の欠片。失われたセカンダリの1ページ。それをみて驚くナハル。マドラックスは立ち上がると、蒼い月を背に悟る。今なら解る。これはマーガレットの持っていた、本の1ページ。12年前の真実。そして、私自身。
いつもの調子に戻ったマドラックスは、いつもの笑顔でナハルに礼を言う。ありがと。ナハルは思いがけない笑みに頭が真っ白になる。その隙に、私の成すべき事のために、と立ち去っていくマドラックス。取り残されたナハルはひとりごちる。彼女もまた、可哀想なくらい独り言の多い女だ。クアンジッタ様に仕える者として、見据える者として、誰かを横に置く余裕は彼女には無かったのだ。けれど、出会ってしまった。マドラックス。どうしようもなく、私の心を乱す存在。私を引きつける人。その笑顔。私は……。
積み上げられた石の上、墓標、というには寂しいその前に膝をつき、祈るエリノア。足音に振り返ると、マドラックスが立っていた。悲しみにぬれた声で告げる。ヴァネッサさんが……。表情も無いまま、答えるマドラックス。私をかばったの。激しく驚くエリノア。それで撃たれたの。マドラックスはエリノアに並んで膝をつくと、そっと墓標に手を添える。
ヴァネッサ。
あなたとの約束、守るから。必ず、守るから。
別れの言葉は、その後で。
震える声で誓いを立てるマドラックス。エリノアにそのまま話しかける。マーガレット・バートンは、アンファンに捕らわれている。助けるわ、絶対。でも、お嬢様はどこに。振り返るマドラックス。教えてくれるわよ。そう、彼女の後ろにはナハルが座っている。きっと。二人の視線を受け、ナハルは静かに微笑んでいた。
聖都では、一人、レティシアがベンチに腰掛けていた。いつも手にしていた人形をその横に座らせて。レティシアは想いを告げる。真実に近づいていく。もうすぐ、私は私に戻る。聖都の空は曇り、紅い月も、蒼い月も、もう見えない。
夜が明けて。
青空の下、一面に黄色い花が咲いている。そのうちの一輪をつみ取る手。マーガレット。ふと気配に気がつき、顔を上げる。視線の先には仮面の男、フライデー・マンデー。「お父様」、そう呼びかけると、マーガレットは立ち上がりフライデーの元に駆け寄っていく。
マーガレットの呼びかけに優しく答えるフライデー。どうしたんだい? と、優しい父親のようにマーガレットに話しかける。マーガレットは先ほどの花を差し出す。ほら、黄色い花。フライデーは受け取ると、呟く。ヘリアンサスか。
そう言う名前なんだ? すこし甘えたような口調のマーガレット。威厳のこもった声で、マーガレットにヘリアンサスの花言葉を知っているかを聞くフライデー。ううん。分かんない。やはり、甘えたようなマーガレットの声。フライデーはマーガレットに言って聞かせる。
花言葉は、誘惑。
そうなんだ。マーガレットはフライデーの胸に寄りかかって甘えている。フライデーの持つヘリアンサスの花に手を伸ばしながら。フライデーもマーガレットの肩を抱き寄せる。この花、誰かを誘っているんだね。マーガレットの言葉にフライデーは嗤う。そう、誘惑しているのだよ、マドラックス。君がここに来ることによって、12年という喪失した時間が埋まる。その表情に、フライデーの胸元からマーガレットも微笑む。フライデーに向かって。その笑顔を見て、フライデーは、なお嗤う。私の望みがもうすぐ叶う。(※2)
崖の上からジャングルの一角を見下ろす三人。ナハル、マドラックス、エリノア。見下ろした先のジャングルには川が流れている。ここは、カリステール。ガザッソニカの中でも、もっとも戦いが激しい地域。その最前線にアンファンがいる、と告げるナハル。この内戦を意図的に続けているアンファン。その発端は三冊の絵本。その力の結果が、この内戦だ。そして、資質あるもの、マーガレット・バートンがいる以上、本を使えばそれ以上のことが起きる。
話を聞き、マーガレット救出への決意を新たにするエリノア。私に任せてというマドラックスの言葉に、すかさず反発する。いいえ、私も。けれど、マドラックスはいつになく穏やかな顔で言い返す。ダメよ、死んじゃうもの。もう誰も死なせたくない。そう思うマドラックスは自分の言葉を変えてしまった。いつものように、死んじゃうよ? ではなく。死んじゃうから、ダメ。もうこれ以上、死に触れたくはない。罪を犯し続けたくはない。
猛威をふるい続ける戦闘。爆発、銃声、うめき、断末魔。再び夕暮れを迎えたカリステールに止むことなくそれは響き続けている。マドラックスは停泊している小型戦闘ボートに近づくと、あっと言う間に6人いた兵士を、6発の銃弾で無力化してしまう。傷つき、うめく兵士にけれど謝るマドラックス。そのマドラックスに7人目の兵士が銃を構えるが、背後からのエリノアの一撃に、あえなく気を失ってしまう。すまし顔で「私も参ります」と宣言するエリノア。マドラックスはそんなエリノアを促すと、二人でボートに乗り込んだ。
川を行くボートの船上で、目を瞑ってマーガレットの事を思うエリノア。いつも一緒にとっていた食事。笑いかけてくれるお嬢様の笑顔。お風呂に入っているお嬢様の髪を、洗って差し上げた時(※3)のリラックスした顔。私の膝枕で眠るお嬢様の気持ちよさそうな寝顔。柔らかい髪の感触。
そうして、お嬢様への想いに浸る間もなくおそってくる敵兵達。マドラックスの巧みな操舵でRPGはさけることが出来たが、すぐに激しい銃撃がボートに襲いかかる。ただマーガレットの元に行きたい、その一心でボートについている機関砲で、出鱈目に反撃するエリノア(※4)。それでも弾は敵兵の方角に飛んでいき、威嚇するには十分な効果を上げたようだ。やがて我に返り、つぶやきを漏らすエリノア。もう大丈夫だから、中に入って。そうエリノアを促すマドラックス。そして礼を言うマドラックス。岸辺ではナハルが敵兵を全滅させていた。
近くの軍ベース。無線機でこの様子を聞いている二人の兵士。けれどそこにリメルダが現れ、二人に銃口を向ける。
走るボートに次々に発射されるRPG。まっすぐつっこんでいくボートはけれど無人だった。離れた場所でその爆発を確認し、お互いの顔を見るマドラックスとエリノア。二人はカリステールの難関を突破できたようだ。
その頃、フライデーのアジト、古びた教会では荒れた部屋の中で、マーガレットがソファーに座っていた。大きな時計が床に転がっている。マーガレットは窓際に立つフライデーに話しかける。お父様、行かなくていいの? 私、お父様と行きたいのに。そんなマーガレットに謝ってみせるフライデー。もう少し時間をくれという。待っているのだ。マドラックスを。
マーガレットは静かに続ける。
「お父様。私、その子の事、嫌いなの。だから、殺しちゃっても良いよね?」
「いいとも。マーガレットの好きにするがいい」
表情一つ変えずに答えるフライデー。一方、マーガレットは心持ち嬉しそうだ。微かな笑みが口の端に現れている。
「あの子が死んだら、お父様"も"嬉しい?」
「もちろんだとも」
その答えに、嬉しそうに、けれどあくまで落ち着いて続けるマーガレット。
「だったら殺すね。あの子の存在を。私が消すの」
フライデーはマーガレットの前にしゃがむと、その手を取って語りかける。すばらしいよ、マーガレット。君は扉を開けずとも、人間の本質に限りなく近い。あの場所の旋律すら聞こえてくるようだ。
よくわかんない。マーガレットはそう言うが、フライデーはそれで良いという。そして、マーガレットはその一言で納得してしまう。そっか。それでいいんだ。夕日に照らされながら、ほんの僅かに微笑みながら、マーガレットは言う。
早く殺したいな、マドラックス。(※5)
夜。休憩しているマドラックスとエリノア。食欲がないと食事を断るエリノアだったが、マドラックスの「マーガレットを助けたいなら」という言葉に即答で解りましたと返す。お嬢様のためなら、私は無敵にだってなれる。
食事を取りながら、エリノアはマドラックスに質問をぶつける。マドラックスという名前について。それは本名なのか? その理由を話すマドラックス。記憶を失っていること。マドラックスという言葉だけ覚えていたこと。だからその言葉を使っているということ。それはお嬢様と同じだとエリノアは告げ、そしてマドラックスに迫る。あなたは一体、お嬢様とどういう関係が?
マドラックスは、『つながっている』と答える。確証はないけれど、私とあの子はつながっている。だから、私はあの子の元に行く。本当の私を知るために。真実を確かめるために。一呼吸の間。友達との約束を守るために。たとえ……。
そこで言葉はとぎれる。エリノアがその先を促すが、マドラックスは、何でもない、とごまかす。
そして、おもむろに銃を構えると、潜んでいた敵兵にその一撃を浴びせた。続けて二人。打ち上げられた照明弾の光の下、エリノアを岩の影に寄せると、マドラックスは撃って出る。まるで型の様に二丁拳銃を構え、次々に敵兵を倒していくマドラックス。照明弾が消える頃には、敵兵達は殆ど戦闘不能におちいっていた。そのあまりの鮮やかさに見とれているエリノア。その一瞬の出来事に心を奪われている。
そこに生き残った兵士が銃を構える。エリノアに向かって。すぐにマドラックスは兵士に銃口を向け、銃を捨てるように言うが、相手は引き下がる様子もない。逆にエリノアを撃つと脅しかけてきた。その言葉に銃を下ろしかけたマドラックスだが、とっさにエリノアは「撃ってください」と制止する。そして、マドラックスの目を見ると、決意の表情で告げる。「お嬢様のことを、お願いします」。
うらやましい。呟くマドラックス。なれるかな。私も。しびれを切らした敵兵士が引き金を引く。発射される銃弾。マドラックスもまた引き金を引く。弾は吸い込まれるようにエリノアの頭に向かっていき、その真横でマドラックスの放った銃弾とぶつかった。エリノアの髪を揺らすと、出鱈目な方向に飛んでいく二つの銃弾。ゆるやかな風がマドラックスの長い髪をすこしだけ揺らす。聞こえてくるレティシアの声。あなたは狂気の中にある慈愛。優しい人殺し。マドラックスがレティシアに答える。そう、それが、マドラックス。
再び放たれたマドラックスの銃弾が敵兵士の銃をはじき飛ばす。あまりの出来事に呆然とする敵兵士。呆然とマドラックスを見るエリノア。けれど、微笑んでいるその顔に、エリノアもまた微笑み返す。マドラックスは空に浮かぶ蒼い月に告げる。
私には成すべき事がある。それは、私の意志で選んだ、私だけの……真実。
最初見たときは物足りなかったんだけれど、何回か見返すうちに楽しくなってきた。書き出してみると、結構見せ場が多い。マーガレットとフライデーというプッツン同士の組み合わせはかなり面白く、何よりマーガレットの独壇場であるところがとても楽しい。また、エリノアがエリノア足り続けているところも、なんとなくホッとできる部分だ。そして、益々超人になっていくマドラックス。銃弾を銃弾ではじく、なんてのはスゲェとしか言いようがない。かなりエキサイティングなシーンだ。
ただ、益々台詞が鼻につくようになってきたのは、ちょっと頂けない。叙情詩的だと思って見ているので、あまり生々しい台詞だと、どうしても違和感を覚えてしまう。とは言っても、今更、どうにも変わらないとも思うが。
で、
次回予告。内容的にはエリノアの扱い位しか予想とかぶってなかったんだが、爆風の中から白いドレス姿で飛びだしてくるマドラックスやら、リメルダの再登場やら見せ場はそれなりにありそうだ。つか、予告のナレーションがエリノアって事は、次週でエリノアお亡くなり? マーガレットお嬢様、御自らの手で? いや、まぁ、リメルダ嬢もお亡くなりそうだけどな。
※1
この第23話でもっともゾクゾクしたシーン。怖気が走る、というヤツだ。
※2
この花畑のシーンでは、普通に甘えているマーガレット、という今までありそうでなかった光景を目の当たりにすることが出来る。微妙に足りない感じが残ってはいるが、それでも普通っぽい。
※3
当然といえば当然なのかもしれないが、髪洗っている最中にアホ毛が立っているのはさすがにどうかと。しかし、三つ編みがほどけている姿は初めてだ。矢張り、髪を乾かした後に、エリノアが結っているのだろうねぇ……。
※4
第23話のあらすじで、
機関砲で反撃するエリノアのひたむきな姿に心を打たれるマドラックス
となっているシーンがこれなのだが、どう見てもマドラックスが心を打たれているようには見えないんだが……。
※5
マーガレット、というか桑島法子嬢の本領発揮。こういう演技は本当にうまい。惜しむらくはストレートすぎる台詞内容。違和感を強く感じてしまう。でも、「あの子を撃っていいよね?」なんて言われても魅力半減……なのか?
第24話「献心-hearts-」
2004/09/14 記
第24話。言葉もない。
ナフレス。その平和な町中で、エリノアが両手いっぱいの荷物を抱えて歩いている。そこに車で通りかかるヴァネッサ。送っていこうか? という提案に笑顔で答えるエリノア。荷物を後部座席に、自分は助手席に乗り込む。そして、その車中での他愛もない世間話。両手いっぱいの荷物の理由。期末試験の勉強をするお嬢様のお夜食の材料。
ヴァネッサは問う。世間話をする友達の口調で。そればかりじゃつまらないでしょう? たまには気晴らしも必要じゃない?
エリノアは答える。つまらなくなどありません。 なぜなら、マーガレットお嬢様は。
そこで一旦区切ると、エリノア、考え込むようにつぶやく。お嬢様は私の……。
私の、なぁに?
何でもありません。
ヴァネッサが続きを促すが、エリノアは答えない。車窓の外に向けられた視線。そして、顔には幸せな笑み。
けれどマーガレットは一人、窓の外の紅い月を見上げている。ガザッソニカ、フライデーのアジトの中から。何一つ表情を浮かべないまま、ただ紅い月を見上げている。その月の光で一面、血のように真っ赤な部屋の中、矢張り血のように紅いマーガレットの姿に、エリノアの声がかぶる。
お嬢様は私の。私の……。
この70秒ちょっとのシーンだけで、僕はもう胸がいっぱいだ。それはあまりに切なげで、何もかも失われすぎている。平和も、何気ない日常も、ヴァネッサも、そして、マーガレットも。
だから僕は確信してしまう。あぁ、エリノアは、もう居なくなってしまうんだ……。
話を戻して、ガザッソニカ。夜明け時、クアンジッタは一人、洞窟の祭壇の前でマドラックスの事を考える。失われたセカンダリの欠片をもつ者。12年前、フライデー・マンデーの望みを阻止した男と同じ名を持つ少女。ならばこの体を捧げましょう。うつりゆく者のために。クアンジッタは、凝った意匠のナイフを手に、自らの運命を悟る。
ジャングルの中、廃屋の中で話し合っているマドラックスとエリノア。マドラックスは3時間敵を引きつける、とエリノア言う。それを過ぎたら先に行けと。彼女の、マーガレットの元に。憂い顔のエリノアは頷くけれど、でも口をついて出たのはマドラックスへの疑問。どうしてそこまで……?
友達との約束だから。こともなげに答えるマドラックス。そして彼女は戦場に降り立つ。朝日を背に。真っ白で大胆なドレス姿で(※1)。
そのマドラックスの姿に驚く敵兵士。すぐに銃口と砲塔が向けられ、戦車からの砲撃、けれどマドラックスは避けようとすらしない。巻き上がる土煙、それが晴れると、マドラックスは銃を構える。銃声は二回。正確に仕掛けられた爆薬を撃ち抜き、戦車が破壊される。その爆発にひるんだ兵士が見上げると、破壊された戦車の上にマドラックスの姿が。そこから広く掘られた塹壕に向かって飛び降りるマドラックス。その姿を撃ち抜く銃弾。けれどマドラックスは塹壕に降り立ち、両手に持った銃で、次々に兵士達を撃ち倒していく。反撃の銃弾がマドラックスの顔に当たるが、まるで意に介さない。
連絡を受け押し寄せる兵士達を撃ち倒しながら、廃墟に駆け込むマドラックス。空になった弾倉を捨てると、あらかじめ置いておいた弾倉を銃に込める(※1)。そこに撃ち込まれるRPG。吹き飛ぶマドラックス。けれど次の瞬間、マドラックスは爆煙のなかから飛び出し、あっと言う間に兵士達を倒してしまう。爆煙から飛び出した、その足が地面につくまでの間に。
死ねない女。それもマドラックス。彼女は両手を、空に向かって広げる。だからね、おいで。みんな。朝焼けの残滓が赤く残る空、広げた両手に誘われるように飛来する戦闘ヘリの群れ。いい子ね。彼女は、優しく微笑む。
その戦闘の様子を遠く、あの廃屋から伺っているエリノア。立ち上る黒煙に不安を感じ、彼女の名をつぶやく。マドラックス、と。
そのエリノアをライフルで狙っている兵士。引き金に指がかけられるが、一瞬早く、ナハルのナイフによって命を絶たれてしまう。
同じく、その戦闘の報告を受けているフライデー。2分隊が全滅したとの報告に、嬉しそうにそうか、と答える。マドラックスの名を冠する者であれば、それくらいはたやすいとも。その事実を認めがたいという報告者に、フライデーは苛立ちを隠せない。くだらない存在。純粋さの欠片もない。本質からほど遠い男。結局、フライデーは彼を射殺してしまう。耳障りなノイズだと。
そのノイズが消え、フライデーはうっとりとひとりごちる。「私は少女の歌声に酔いしれて、あの場所へと向かう」 一面に咲き誇るヘリアンサス、その一輪を楽しそうに摘むマーガレット。「マーガレット・バートンの歌声と共に」
残骸の向こう側に立っているマドラックス。2時間35分。行かなくちゃ、私。けれど背中に感じた気配に、その目を険しく細める。でも。遅れるから、先に行ってて。聞こえるはずもない言葉を、告げるマドラックス。その背後、残骸の間からその姿を現すリメルダ。マドラックスの横に並び立つと、二人は静かに見つめ合う。一瞬の静寂、そして二人は互いの銃を交換する。まるで、あらかじめ決められた儀式のように。静かに、銃を交換する。
黒煙すら立ち消えてしまった様子をじっと見ていたエリノア。マドラックスはどうしてしまったのだろうか。エリノアは一人、彼女に渡された銃を見る。全然手になじまないその感触。けれど、マーガレットお嬢様のために、これを手にしたのだ。エリノアの思考は、次第にマーガレットとの思い出に流れていく。
マーガレットお嬢様に膝枕をして耳かきをしていたとき、私の膝に頭を乗せたまま夕ご飯の話を始めたお嬢様を動かないようにたしなめた事があった。鞄を忘れて学校に行こうとするお嬢様を呼び止めたことも何度あったことか。お風呂に入ったまま寝入っているお嬢様の、気持ちよさそうな寝顔を眺めたこともあった。マーガレットお嬢様はどこでも寝てしまう、ちょっと困った人だ。夜に、窓をあけて外を眺めてらしたこともあった。そのとき、マーガレットお嬢様はおっしゃった。「ずっと、一緒にいてくれる?」 私は答えた。「もちろんです。それが私の…」「仕事だから?」お嬢様に遮られる。いいえ。そうではありません、そうじゃないんです、マーガレットお嬢様。
「それが私の……」
そっと、口に出して言う。そして、手にした銃をすぐ使えるようにして。
「願いですから」
3時間。約束の時間は過ぎた。エリノアは行動を開始する。マーガレットの元に行くために。マーガレットを取り戻すために。たとえ一人でも、お嬢様のためなら、私は……。ジャングルの中に歩いて行くエリノア。その後に付いて歩くナハルが、ふと足を止め視線を向ける。マドラックス……。
マドラックスはリメルダとの儀式を続けていた、お互い、歩み寄りながら相手に向かって銃を撃つ。お互いの銃弾によって弾き飛ぶ彼女たちの髪。けれど致命傷を与えることない。近づいてなおそれは変わらず、二人とも弾倉を空にしてしまう。ポケットから二発の銃弾を取り出し、差し出すリメルダ。その顔には自嘲気味の笑顔が薄く張り付いている。マドラックスも答えるように微笑む。慈愛に満ちた眼で。
無造作にジャングルを歩いていたエリノアは二人の兵士にその歩みを止められる。銃を向けられ、しかしすぐに反撃に出る。あっと言う間に相手の突撃銃を蹴り飛ばすと、その片方に銃口を突きつけるエリノア。無表情のまま相手を威嚇している。エリノアは思う。たとえ引き金を引くことになったとしても、私はお嬢様に会いたい。でも、こんな事をする私を、お嬢様は……。
揺れる銃口、一転、エリノアは走り出す。彼女に向かって発砲される敵兵達の銃。うち一発が彼女の腕を傷つけるがかまわず走り続ける。けれどその先は崖で、そして、一発の銃声と共に、彼女の体は崖下に落ちていく。
撃ち合いを続けているマドラックスとリメルダ。いや、銃を撃っているのはマドラックスだけだ。でも、その弾はリメルダにかするだけ。なぜ? ねぇマドラックス。私を殺して……殺してよ! 激情をはき出すリメルダに、マドラックスは静かに語りかける。
「お願いが、あるの」
微笑んでいたその顔つきが真剣なものにかわる。
「私を、見届けて」
驚くリメルダ。いま、とても信じられないような事を言われた。そんな風に、表情が強ばっている。
「私という存在を覚えていて欲しいの」
「あなたに」
マドラックスは、また優しげな微笑みを浮かる。
「私を、忘れないで」
「お願い……リメルダ・ユルグ」
「あなたのなかに、私を居させて」
そこまで言ってしまうと、マドラックスはジャングルの方を向く。ありがとう。リメルダへの言葉。それが何に対しての感謝なのかは解らないけれど。マドラックスの儚げな態度に、ただ名前を呼ぶことしかできないリメルダ。さようなら。マドラックスは行ってしまう。それを見送ると、手元に残ったマドラックスの銃を撫でるリメルダ。顔は笑っているのに、眉は哀しげにひそめられている。「あの子ったら、まいるわ」「まるで告白じゃない」 リメルダは一人、立ちつくす。
ジャングルの中に一人、画面の中に一人、立ちつくすリメルダに僕は思わず声をかける。"まるで"じゃあない。まんま、告白だよ、リメルダさん。あなたの恋い焦がれた相手からの。しかも一方的な、告白。
満身創痍のエリノアは花畑にたどり着く。一面に咲くヘリアンサスの黄色い花。倒れてしまったエリノアの耳に届くマーガレットの歌声。その幻聴に気がゆるんだのか気を失ってしまいそうになるエリノア。けれど、その声は幻聴などではなかった。すぐそばに、マーガレットの姿が、ある。完成した花輪を見て、本当に嬉しそうに笑うマーガレット(※3)。そのことに気がつき、立ち上がるエリノア。足を引きずる様にしてマーガレットの元に歩いていく。
人の気配に振り返るマーガレット。「お嬢様……!」そんなエリノアにマーガレットは冷たく言い放つ。「誰?」表情を曇らせるエリノア。「あなたは、誰?」膝をつくエリノア。不安の入り交じった声でマーガレットに説明する。エリノア・ベイカーです。ずっとお嬢様にお仕えしてきた、メイドのエリノアです。「エリノア?」そうです、エリノアです。「なんだ、エリノアか」マーガレットは興味なさげに、つぶやく。
「でも、どうしてここにいるの?」立ち上がり、振り返って聞くマーガレット。エリノアは微笑みさえ浮かべながら答える。お嬢様を迎えに来たんです。「迎えに?」 はい、お嬢様。ナフレスに戻りましょう。「どうして?」 私たちの家があるからです。「ううん。私の家はここだよ?」 違います。 私たちの家はナフレスにあります。
お嬢様、私は間違っていました。以前からずっとお嬢様の記憶を取り戻したいと思っていました。でも、記憶など戻らなくてもかまわないんです。お嬢様が、お嬢様であることが一番なんです。
朝、お嬢様を起こし、髪をとかし、朝食の準備をして、学校に行くお嬢様をお見送りする。掃除をして、洗濯をして、買い物をして、夕食の準備をする。……わたしは、それ"だけ"で十分なんです。
「そんなことして、何になるの?」「ただ、生きてるだけだよ」「死んでるのと同じだよ?」「そんなのイヤだな、私」
エリノアから視線をそらすマーガレット。
そこに現れるフライデー。「そう、邪険に扱わなくても良いじゃないか、マーガレット」「お父様」マーガレットの声は甘えた声で呼びかける。
誰ですか、あなたは。お嬢様をどうするおつもりですか。冷たく言い放つエリノア。フライデーは臆する様子もない。「この子の望みを叶える。それが私の願いだ」当たり前のように答える。お嬢様を返してください。厳しく眼を細めるエリノア。返してください。なお繰り返す。矢張りフライデーは意に介さない。「彼女の本質が決めることだ」
どうしても出来ないというのなら。銃を構えるエリノア。マーガレットは両手を広げてそれを遮る。「お父様に何をするの」その人は旦那様ではありません。「酷い人」 エリノアを見るマーガレットの眼には、ただ冷たさしか宿っていない。
「かまわないよ? マーガレット」フライデーは嬉しそうに言う。「そうだ、マーガレット。ここまで来た彼女の信念に敬意を表して、プレゼントを贈ってあげなさい」「目覚めの言葉?」甘えた口調で聞き返すマーガレット。「そう、目覚めの言葉を」エリノアにむき直すと、マーガレットはそれを口にする。「エルダ・タルータ」「本質の言葉を」「サークス・サーク」「真実の言葉を」「アーク・アルクス」 エリノアの体から力が抜け、目の前が赤く染まっていく。聞こえてくる声。
フライデーはその様子を見て嗤う。「彼女の中に眠る衝動は何か? 抑圧された生活からの解放か? それとも、君への憎しみか」 忘我のまま、マーガレットに銃を向けるエリノア。その様子を見て心底楽しそうなフライデー。「ほう、彼女は君のことを嫌っていたようだ」「これは理性ではない。衝動的な行為だ」震える銃口、定まっていない眼の焦点、その先にいる……マーガレットお嬢様。
「殺したい? 私を」「それが望み?」「撃ってもいいよ」微笑みすら浮かべるマーガレット。けれど、エリノアの眼には涙が、そして理性の光が戻ってきた。マーガレットに微笑み返すと、震える銃口をフライデーに向け直す。お嬢様を離しなさい。お嬢様から、その薄汚れた手を離しなさい! 「本質が、愛を示すか」フライデーが呟く。「エリ……ノア」 何かを思い出したように呟くマーガレット。お嬢様。「エリ……ノア……?」確認するように呟くと、マーガレットはエリノアに向かって歩いていく。近寄るマーガレットに銃をおろすエリノア。見つめ合う二人。マーガレットお嬢様。「エリノア……」エリノアは立ち上がる。マーガレット。そう、愛情のこもった声で呼びかける。「エリノア」微笑むエリノア。微笑むマーガレット。エリノアの手から銃が滑り落ち、その手がマーガレットにのばされる。答えるようにマーガレットもその手をのばす。
あなたは。そう呼びかけるエリノアの背中は血で真っ赤に染まっていた。私の、私の……。潤んだ瞳で呼びかける。そしてのばした手は、けれど触れあう直前に離れてしまう。眼を見開くマーガレット。倒れていくエリノア。離れていく二人の手。でも。"家族"です。倒れる直前、エリノアの声が告げる。舞い上がるヘリアンサスの黄色い花びら。
「エリノア、ずっと、一緒に居てくれる?」
もちろんです。それが私の……願い、ですから。
一面に咲き乱れる花畑の中にエリノアが立っている。少し離れたところにはレティシアが。レティシアは泣いている。「ごめんなさい」エリノアに謝っている。エリノアはしゃがんでレティシアと視線を合わせると、泣きじゃくっているその身を、そっと抱き寄せた。色とりどりの花びらが舞い散るなか、エリノアに抱かれて、レティシアは泣き続ける。いつ果てることなく。
夕暮れの中、ヘリアンサスの花に囲まれるように横たわるエリノア。その横に放心したように座っているマーガレット。エリノアの顔は微笑んでいる。そこにやってきたマドラックス。エリノアを見てつぶやく。どうして、そこまで。エリノア答えない。静かに微笑んでいるだけだ。
死んじゃった。空虚につぶやくマーガレット(※4)。見上げて、マドラックスと見つめ合う。なにも、動くものがない。静かに。ただ、静かにマーガレットは空虚な視線をマドラックスに向け、マドラックスはただ、それを受け入れる。それだけだ。夕日が照らす中、言葉もなく見つめ合っている、それだけ。
エリノア、死んじゃった。風が吹く。舞い上がるヘリアンサスの花びら。紫色の空に高く、高く……。
どんどん収束に向かって行く物語。夕方を迎えるたびに"整理"され、消えていく人々。カロッスア。ヴァネッサ。そして、三人目。マーガレットに捧げられたエリノア。けれどボクのココロは疼く。これが……これで……終わりだなんて、そんなの! そんなのッ!!
"家族"だと? お互いにとって、唯一の、最後の、たった二人の、"家族"だと言うのか? ただそれだけで、エリノアの行為の全てを正当化しろ、とそう言うことなのか? 自分の人生の意味そのものだ、とでも言わんばかりに、そして時にはマーガレットの交友関係に嫉妬しながら、でも、ひたすらにマーガレットに尽くすその態度は、家族だからそうなのだ、と?
家族だから献身的に尽くせる?
家族だから命を賭けても良い?
家族だから一緒に家に帰ろう?
家族だからずっと一緒にいたい?
そりゃダメだ。肩すかしだ。僕の経験則、価値観から出てくる家族像からは、あまりにかけ離れすぎている。そもそも、僕にとって家族なんてのは組織名でしかない。集団以上の意味なんて有りもしない。つまり、それは関係性を差す言葉じゃないんだ。つながりを表す言葉じゃないんだ。誰かと誰かを結びつける言葉じゃないんだ。
そう、家族では、まだ足りない。
関連性は、その先にある。両親。兄弟。父、母。娘、息子。兄、姉、妹、弟。家族だから仲が良いなどというのは幻想でしかない。子を愛さない親はいない、親のことを思わない子はない、もまた同様だ。愛情などというオブラートに包まれてはいるが、その思いに優劣や深浅は必ず存在する。
つまり、ただ"家族"と言っても、色々な関係性を内包しすぎているのだ。そのつながりが、太かろうが細かろうが、濃かろうが薄かろうが、良かろうが悪かろうが、望もうが望むまいが、そこに"家族"と名札をつければ、"家族"だと宣言すれば、それはもう家族となってしまう。
だから、家族では、まだ足りない。
けれど、親密な関係もまた、"家族"に内包されている。長い時間をかけて積み上げてきた、共有されたなにか。一族としての連環。その結びつき。だから、"家族"が、そういう関連性を指し示したとしても、全くの的はずれ、ということでもない。結局、マーガレットとエリノアの関係を家族だと言われれば、畜生、納得しないわけにはいかないんだ。それを家族としか言いようがないのなら、どれだけ物足りなくても、どれだけ理解しがたくても、僕にはそれを否定する事なんて出来やしないんだ。
いや、別に『エリノアはマーガレットのお嫁さんだから家族』(という脳内補完)でも良いけどさ。
※1
ネックラインがV字に大きく開いたホルターネックのドレス。胸元の切れ込みに対応するようにヘソの周りも菱形に切り取られており、さらに足のスリットが大胆に入れられている。そして赤い靴だ。そのあまりにセクシーな姿にどうツッコミを入れて良いのか迷ってしまうが、つまりは、Sexual & Violenceなのだろう。
※2
リベリオン、白ラン姿で敵を倒しながら廊下を行くシーンへのオマージュ(?)。リベリオンDVD、チャプター29参照。ただし、ロングマガジンではない。
※3
この時のマーガレットの笑い声は、本当に突き抜けて嬉しそうに聞こえる。それでいて耳に残るような、粘度の高い声だ。
※4
このシーンといい、第23話からマーガレットの感情が大きく揺れていて、様々な演技が聞ける。桑島法子嬢は、凄い。
第25話「聖血-saint-」
2004/09/22 記
第25話。終わりの雰囲気。物語が終わっていく雰囲気。でも、気持ちの上では既に終わっている。終わった後の話なんだ。物語的なピークは過ぎ去った後だ。行き着く先が見え、降り立つ地平が見え、僕は、ただぼんやりと、その先を眺めるしかない。これは終わってしまった物語なんだと。彼女たちの物語は、彼女たちの関係は、もう結末に行き着いてしまったんだと。何の変化も出来ない、どこにも行き着けない、完成されてしまった、その思い。……ただ二人、マーガレットとマドラックスを除いて。
エリノアの亡骸を前に、マーガレットは悲嘆にくれる。
「どうして?」
「どうしてエリノアが死ななきゃならないの? どうして死んじゃうの……」
「ずっと一緒にいるって言ってたのに」
マドラックスはそんなマーガレットを静かに見下ろしている。
マーガレットはエリノアの手にそっと自分の両手を重ねると、寂しげに、本当に寂しげに、誰ともなく語り続けた。
「いないよ?」
「ヴァネッサも」
「エリノアも」
風がマーガレットの髪を揺らし、ヘリアンサスの黄色い花びらを舞い上げる。
「私、一人だよ」
そこに聞こえてきた嗤い声、フライデー・マンデー。振り返るマドラックス。「ようこそ、マドラックス」「セカンダリの一ページは、持ってきて頂けたかね?」
マドラックスはエリノアの穏やかな表情を眺め、そして銃を構える。半仮面の男、フライデー・マンデーに向かって。
「あなたのせいで、悲しみが生まれる」
「大切なものが奪われていく」
「……面白い」
「人殺しの君がそのような台詞を吐くとは」
「君は矛盾している」
「それは、この世界が歪んでいるからだ」
「見えないベールに包まれている」
「知ってるわ」
「本質が見えない」
「いいじゃない、それで」
「偽りの中で生きるつもりか?」
「その中にも真実はある」
「マーガレット・バートンの真実」
「それがマドラックス」
そして、銃声。はじき飛ばされるマドラックスの銃(※1)。驚くマドラックスがマーガレットの方を振り返ると、怒りに満ちた表情でマーガレットが銃を構えていた。殺さないで。お父様を殺さないで。また、お父様を殺すの? そんなの……許さない。また一発、マドラックスに向かって撃つマーガレット。死んじゃえ。マーガレットは立ち上がると、マドラックスに銃弾を撃ち込む。一発、二発、三発、四発。倒れ込むマドラックスから舞い出る、セカンダリの一ページ。五発。セカンダリの一ページを受け取るフライデー。これで全てがそろった。六発、七発。倒れてしまったマドラックスになお銃弾を撃ち込むマーガレット。フライデーは優しく声をかける。さあ、行こう。途端にいつもの柔和な表情に戻るマーガレット。うん。甘えた声で答える。
ヘリアンサスが咲き誇る、一面黄色に彩られた花畑。エリノアと並ぶように倒れているマドラックスを後に、フライデーとマーガレットは立ち去っていく。マーガレット、ふと思いついたように立ち止まると、エリノアを振り返る。「エリノア? 今日は、パスタにしてね?」「うん、パスタ」立ち去っていくマーガレット。
その様子を離れた岩場から伺っていたリメルダ。倒れたままのマドラックスに思わず駆け寄ろうとするが、ナハルに止められてしまう。踏み込むな。あそこはもう、聖なる場所。資質ある者にしか、立ち入ることは許されない。私たちは、見届けるしかないのだ。ナハルの言葉に、マドラックスとの約束を思い出すリメルダ。私を見届けて。けれどもう、彼女は倒れて動きもしない。これが、こんな事があなたの望みだというの? マドラックス。ナハルは続ける。これが終わりではない。ここからが始まり。だから見届けるのだ。ナハルが見上げた夕焼け空には、紅い月と、蒼い月が輝いていた。
日も落ちたガザッソニカ市街、その二つの月を見上げているチャーリー(※2)。ジャングルの中でもまた、兵士達が二つの月を見上げている。ヘリアンサスの花に囲まれて静かに眠っているエリノア。そしてマドラックス。リメルダの視線だけは空ではなく地面に向いている。その空の下、クアンジッタは自分の血を、凝った意匠のナイフにたらす。見届けさせて頂きます。時代が変わる時を。一滴の血に叩かれたナイフが音を立て、クアンジッタの姿が聖都に現れる。レティシアはその姿を振り返る。見届けてくれるの? 私の刹那を。はい。答えるクアンジッタ。
-真実は痛み
-痛みは悲しみ
-悲しみは螺旋
-螺旋は人のさだめ
マーガレット・バートンのさだめ。マドラックスのさだめ。そして、私のさだめ。レティシアは呟く。その扉が、開かれる。
セカンダリ、最後の一ページを本に挟むと、満足げに嗤うフライデー。浮き上がる三冊の本。本が放つ光が渦を巻くと、あの扉が、再びマーガレットの前に降りてきた。マーガレットと、フライデーの前に。おぉ! 真実の扉! 喜びにうち震えるフライデー、扉に手をかけるマーガレット、そして横たわるマドラックスの手が、微かに揺れる。
マーガレットが扉を開けると、その向こうから光があふれ出した。その向こう側に見えたもの。聖都。廃墟と化した瓦礫の街。12年前の、ガザッソニカ。
その姿に歓喜の表情を浮かべるフライデー。12年前に戻る。戻っていく。時が、遡る。扉の向こう側、空に浮かぶ紅い月。瓦礫の上に立つ12年前のフライデー。本来ならあの時に時代の変革は行われていた。私の望みを阻みし者。銃を構えるバートン大佐。マドラックス。扉の向こうにいるフライデーがその名を告げる。放たれる銃弾。瓦礫の上にばらまかれる三冊の絵本。12年前の出来事。
あの時に受けた銃弾で、私は扉を開ける瞳を失った。運命というものは確かにある。螺旋のように繋がっている。そうだろう? マドラックス。君の娘が、私の望みを叶えてくれるのだから。フライデーの視線はマーガレットに注がれる。さあ、見せておくれ。マーガレット。一転して優しげな口調で語りかけるフライデー。人間の本質に迫るほどの君の過去を。君の罪を。その旋律を。
灰色の雲の中を飛んでいる中型の旅客機。床に落ちた人形をブーペが拾い上げると、前の座席から幼いマーガレットが顔を出してきた。微笑んでいるマーガレットに人形を差し出すブーペ。人形を受け取るマーガレット。ありがとう。
その姿を見ている今のマーガレット。
-あれは……私?
人形を受け取ったマーガレットは母親に声をかけられる。さあ、席戻りましょう? 振り返ったマーガレットは母親に聞く。お母様、お父様とはいつ会えるの? もうすぐよ、じきに逢えるわ。優しく答える母親。
-そして、お母様?
席に着いたマーガレットは手にした人形に話しかける。もうすぐお父様に会えるのよ。嬉しいよね、"レティシア"?
そして旅客機は雷を浴び、笑い声を上げる巨大な人影に吸い込まれていく。強烈な光の中、聞こえてくる、その旋律。墜落した飛行機、その傍らで母親の亡骸を揺すり続けるマーガレット。お母様、お母様! お母様! お母様! ブーペは人形-レティシア-を拾い上げると、マーガレットに差し出す。行こう?
-お母様はここで死んだ。何も言わずに。そして、私は…
戦場を逃げまどう二人。そして、行き着いた夜の廃墟。空に光る紅い月。その空の下、対峙している二人の男。
フライデー・マンデー。
マドラックス・バートン。
「貴様になら解るはずだ、バートン大佐。いや、マドラックス!」
「これが……これこそが、人間だと」
「フライデー・マンデー。おまえは狂気に捕らわれている。人々は、おまえの理想など求めていない」
「その考え自体が、偽りの世界で作られたものだ」
微かに動揺するバートン大佐。けれど、
「俺は、娘を守る」
「貴様の本質が、それを望むかな?」
バートン大佐はためらわず引き金を引く。放たれる銃弾。フライデーの手を離れ、瓦礫の上に落ちる三冊の絵本。右目を押さえよろめくフライデー。「マドラックス!」憎々しげに言うフライデー。その名に反応する幼いマーガレット、その後ろで、矢張りその名に反応する今のマーガレット。その名をそっと呟く。マドラックス。
バートン大佐に向かって走っていく幼いマーガレット。ブーペの制止もむなしく、どんどん近づいていく。お父様、お父様! マーガレットに向けられる銃口。飛び出すブーペ。放たれた銃弾。開かれたセカンダリを染める真っ赤な血。突き飛ばされたマーガレットが起きあがりながら振り返る。ブーペの胸には血痕。倒れるブーペ。その向こう側で光る紅い月。
駆け寄って、泣きそうな声で名前を呼ぶマーガレット。ブーペ、ブーペ! しっかりして! マーガレットを見て微笑むブーペ。僕は、君が……。ブーペの眼が閉じられる。涙するマーガレット。そのマーガレットを呼ぶ声に、彼女は振り返る。マーガレット。マーガレット! 駆け寄っていくマーガレット。お父様、逢いたかった。お父様! マーガレットを抱き上げるバートン大佐。
フライデーの手が、セカンダリを閉じる。傷つきながらも三冊の本を集めるフライデー。その口から発せられる言葉。
「エルダ・タルータ」
ハッとするバートン大佐。そんな父親の態度を不思議がるマーガレット。
「サークス・サーク」
大きくみひらかれるバートン大佐の目。
「アーク・アルクス」
マーガレットを抱き上げた手に、力が込められる。お父様……? バートン大佐の目は、紅く染められている。震えているその体。その様を見て呟くフライデー。そう、それが本質だ。
投げ出されるマーガレットの体。バートン大佐は、マーガレットから数歩離れると、腰の銃を抜き、マーガレットに向ける。父親の変化に、けれど理解しきれないマーガレット。どうしたの? けれど、戦場を逃げてきたマーガレットには解ってしまう。その意味が。一歩、前に出て追いつめるバートン大佐。後ずさるマーガレット。その手が銃に触れる。バートン大佐の歩みは止まらない。マーガレットは父親に話しかける。やめて。どうしてこんなことするの?(※3) 尚も近寄ってくるバートン大佐。近づかないで! 半泣きのマーガレット。
けれど銃を手にとり、立ち上がる。それでもマーガレットの葛藤は続く。〈死にたくない。死にたくない!〉《お父さんを撃たないと私は死ぬ。でも……》〈お父様を撃つなんて、できない!〉《でも……!》
震える手で銃を構えるマーガレット。迫るバートン大佐。引き金に指をかけ、眼には涙を浮かべて、父親に向かって銃を構えるマーガレット。死への恐怖に震えながら。父親を撃たなければならない恐怖に震えながら。風が吹き、舞い散る絵本。迫る父親の影。紅い月が投げかける光が作り出す父親の影。その影がマーガレットを覆い、彼女は引き金に力を込める。
刹那、光に包まれるマーガレットの体。淡い紫の光が二つの、紅い光と、蒼い光に別れ、銃を構えた紅いマドラックスと、人形を落としてしまう蒼いマーガレットへと変化する(※4)。そして、肉体を得る"レティシア"。頭から落ちていく彼女のこぼした涙が、地面に虹色の波紋を広げる。その様をみて息をもらす今のマーガレット。倒れるバートン大佐。その後ろに見える銃を構えたマドラックス。銃口の先に見える、バートン大佐の倒れた先に見える、マーガレット。
見つめ合う二人の幼い少女。舞い散る絵本の欠片。物憂げな眼でそれを見るクアンジッタ。開かれた扉の、すぐそばに倒れているレティシア。そのレティシアを見て後ずさるマーガレット。レティシアはその、扉を開けたマーガレットに告げる。
私はレティシア。あなたの大切な人形。マーガレット・バートン。これが、真実よ。
-真実……。
私は人形。刹那の衝動。あなた達の分かれ目。そして、決して消えることのない真実。
ショックを受けているマーガレットに、フライデーは話しかける。父親を殺したくないという理性と、生き延びたいという衝動が、この場所の力を受けて、物理的に別れたということか。
-……別れた?
マーガレットの態度に嗤うフライデー。なかなか愉快だ。君は実の父を殺しておきながら、その記憶を封じ込め、何不自由ない生活を送り続けてきた。自分を、普通だと思いこんでいた。固まったように動かないマーガレット。
フライデーは続ける。普通か。そんなものはこの世界のどこにも有りはしない。富や名声を求め、他人を揶揄してちっぽけな自尊心を守る。そんな中途半端な状態を普通と信じ、12年もの間、偽りの時間を過ごしてきた。その結果がどんな事態を招いたか、君は見てきたはずだ。ん?
マーガレットの脳裏に浮かぶ影。倒れているヴァネッサ。倒れているエリノア。マーガレットもまた、膝をつき倒れ込んでしまう。
そんなマーガレットの頬をそっと撫で、声をかけるフライデー。真実から逃げてはいけない。その声はマーガレットをいたわるように、優しげに響く。そして、自らの行いを否定してもいけない。なぜなら、君は特別な存在ではないからだ。誰もが君と同じ、自分の存在という矛盾に気づいていながら、その本質を見つけられないでいるだけなのだ。
さぁ、見せてやろうじゃないか。マーガレット・バートン。全ての生きとし生けるものに本質を。本質の中で生きる。それこそが私の求める普通の世界だ。
ハッと顔を上げるマーガレット。レティシアの制止もむなしく、宙に浮かんだ三冊の絵本が強い光を発する。その光に照らし出され、フライデーは狂喜する。聞こえる。旋律が聞こえる! マーガレット・バートンが、人間の本質を求めている。これを……これを求めていた!
エルダ・タルータ。
ジャングルの中、一人の兵士が狂ったように銃を乱射し始める。敵味方お構いなしに。巻き起こる爆発、燃え上がるジャングル。尚も兵士は銃を乱射しつつける。
サークス・サーク。
町中。警報が鳴り響く中、至る所が燃え上がり、破壊されていく。人々は互いを襲い、混乱はなお広がっていく。
アーク・アルクス。
フラフラと倒れ込むチャーリー(※5)。腹から血を流し、背中からなお撃たれる。そこら中で銃を乱射している警官達。狂気に包まれたガザッソニカ中にフライデーの狂笑が響き渡る。時が動き出す、12年前から止まっていた私の時間が、ついに動き出した! なお嗤い続けるフライデー。
その横で、マーガレットは思い浮かべる。お父様。ヴァネッサ。エリノア。こぼれ落ちる涙。ごめんなさい……ごめんなさい。私が、真実から逃げてたから……。私……私……。
そこに響き渡る一発の銃声。フライデーの半仮面が飛び、そして落ちる。振り返るマーガレット。フライデーは思い出したように呟く。そうだった。その名前を冠しているのなら、私の理想を邪魔するはずだ。12年間もそうだったように……! 振り返るフライデー。その先に立っているのは、マドラックス。ボロボロのドレスを身にまとい、けれど強い意志が込められた眼を、銃口と共に構えながら。
マーガレットは、その視線の先に語りかける。-マドラックス。もう一人の私。
力強く答えるマドラックス。-そう、私はマーガレット・バートンの罪。悲しみの果てに生まれ出た存在。
マーガレット。-あなたは、
その先を告げるレティシア。-パンドラの宝石。
-あなたは、
-優し人殺し。
-そう、それがマドラックス。
私は……真実に触れたときの痛み。
完成直前の、けれど完成されない思い。完成というのは、つまり終わりだ。『人生最良の時が終わった』、その瞬間だ。だから僕は追い求める。限りなく完成に近い、けれど終わらないものを。いくつかの選択肢、可能性を目の前にしての、それらを選び取るまでの思考、選び取る緊張感。一見まともに見えるのに、けれど何かが致命的に間違っている存在、これと決めたゴールに向かってがむしゃらに突き進む疾走感、そこに至るために積み上げていく作業、そこに感じる充実感。そして、永久に楽しい今日は続いていく。だから明日はこない。
つか、バートン大佐が原因じゃねぇか! 駆け寄ってくる娘に銃口を向け、あまつさえその引き金を引いたバートン大佐の。いや、戦場、且つ、戦闘中に誰かが駆け寄ってきたら思わず撃っちまうかもしれないけどな。なんてか、僕はそんなバートン大佐の扱いに、何となくNever7の奥彦を思い出してしまった。辻褄合わせのために、全ての原因を押しつけられてしまった男。そういう意味では同じ存在だ。報われない。
残すところ、あと一話。あの白いドレスを着ているマーガレットの姿等々、予告からいくつかの妄想がわき上がるンだが……マーガレットとマドラックス、二人が一人に戻った後の話として。絵本の影響で完全におかしくなってしまったフライデーはマーガレットの事を本当の娘だと信じこんでおり、そんなフライデーをマーガレットは拒絶することもなくお世話しており、そのさなか、ふと自分の中に消え去ってしまったマドラックスを感じて、幸せそうに微笑む、とかだとツボにキそうだけれど、でも、既にそう言う話じゃないしな。つか、倒れているマドラックスの姿が見えることから、融合もするけど、マドラックスも別個に存在している、という風になりそうだ。
それにしても、第20話あたりから、各話、見返すほどに面白くなっている。丁寧に見ていくと見つかるものも多いからだ。それだけのものが詰め込まれている。けれど。初見では気づかないことも多い。単に僕が抜けているだけなのかもしれないが、繰り返し見ていると、何気ないシーンでも、ちゃんと意味が込められていることに気がついて、結構、ハッとさせられる。そういう風に、意外とMADLAXは作り込まれている。スゲェ。
※1
最初、マドラックスは両手に銃を持っていて、このシーンで銃が一丁落ちる、という描写がある。にもかかわらず、そのシーンの直後にはもう両手から銃を失っている、というのはさすがにどうかと。
※2、※5
存在自体忘れていたが、これでもヴァネッサの同僚だ。ヴァネッサの姿を求めてガザッソニカまで来た男。しかし、今更出されてもねぇ……。と思っていたらあっさり射殺されてるし。ヒデェ扱いだが、でも、矢張りどうでも良い存在だ。
※3
これまでに聞いたことがないような演技に、すこし驚く。が、一番地声に近い感じも。
※4
これまでの演出を考えると、色的に逆な気がするんだが。サントラのジャケも
蒼=マドラックス、
紅=マーガレットになっているし。