強豪ひしめく既存の市場(レッド・オーシャン)ではなく、新たなる市場(ブルー・オーシャン)を創造し、成長と利益を得よう、という本。もちろん、その概念だけではなく、具体的にどのようにしてブルー・オーシャンを切り開くのかも解説している。
まず最初に『ブルー・オーシャン』という概念の解説が行われる。過酷な競争により血に染まった『レッド・オーシャン』ではなく、まだ誰の手も触れていない未開拓の市場。それがブルー・オーシャンだ。これまでのビジネス書は『レッド・オーシャン』での戦い方を中心に書かれており、また、十分に研究もされているが、しかし一方で新たな市場『ブルー・オーシャン』を生み出す戦略には、あまり目が向けられていなかった。本書は、そこに焦点が当てられている。
では、『レッド・オーシャン』と『ブルー・オーシャン』の違いとは、何なのだろうか?
まずはレッド・オーシャン。これは簡単だ。今直面している現実を思い浮かべれば良い。大小の企業が存在し、限られた市場を食い合っている。市場そのものが成長している場合は、あまり大きな営業努力がなくても一緒に企業も成長していけるが、市場が飽和、あるいは縮小傾向に入った場合、過酷な生存競争が始まる。
対してブルー・オーシャンは、未だ参入企業が無い市場のことを指す。かといって、全く未知の、全てが新しいビジネス、と言うわけでもない。既存の企業が提供する市場への価値に対して、『さして重要でない要素を取り除いて』『新たな価値を付加する』ことによって生み出される、新たな需要の事をブルー・オーシャンと言うのだ。つまり、ブルー・オーシャンとは市場に対して新たな需要を喚起することを指している。画期的な製品による全く違う購買層で構成された新たな市場、を指しているわけではないのだ。そしてまた、価格とコストの両方を下げることも『ブルー・オーシャン』市場の特色としている。それらの解説を、実在する企業を例に挙げながら解説している。
では、そのような新たな需要をどのようにして刺激するのか。
その方法として本書は、まず『戦略キャンパス』というツールを提案している。戦略キャンパスを使うことにより、既存の市場を分析するところから始めている。企業が市場に提供している価値には、どのような要素が含まれているか。そして、その比率はどのようなものか。さらに戦略キャンパスで浮かび上がった価値のバランスに対して四つのアクション(取り除く、減らす、増やす、付け加える)をどのように振るうか、そのための指針は、どのような方向を目指すか、等を解説している。
そこから更に、作成した戦略キャンパスを元に、市場に対する考え方の転換、転換した企業戦略の具体化、対象となる顧客層に対するアプローチの仕方、そして、その上で作成されたプランそのものの有効性を確認する、というフェーズを経て、ブルー・オーシャン戦略を作成する手順を解説する。ただ分析したり計画したりするだけではなく、それをどのように実行するか、どの顧客層に対応するのか、その市場は魅力あるものか、に対しての分析と確認のためのツールとフレームワークを提案している。
次に、それを企業活動としてどのように実行するか、を解説している。計画がどれだけ魅力的でも、それを実行する従業員がその魅力を理解していなければ、実行自体がおぼつかないのだ。それに、計画を実行すると言うことは、これまでの(レッド・オーシャン的な)仕事ではなく、新しい(ブルー・オーシャン的な)仕事へと、従業員の意識と作業を変えさせる事になる。新しい事への挑戦に対する不安は、決して軽視すべきではない。それをいかにフォローするか。それもまた、ブルー・オーシャンへこぎ出すために重要な要素なのだ。
そして最後に、作り出したブルー・オーシャンに対する模倣をどのように防いでいくか、また、やがて来るであろうレッド・オーシャンへの市場の転換を前に、どのタイミングで新たなブルー・オーシャンを創造するか、と言う点を簡単に解説している。他企業が参入してくる要素とタイミング。レッド・オーシャン戦略とブルー・オーシャン戦略のバランスの重要性。
本書は、ともすればあきらめがちな、『新規市場を創造する』という作業を、具体的に解説している。優れた人間の鋭い感性だけがそれを生み出すのではなく、挑戦する気があるのであれば、そこに至る道は決して手探りではない、という一つの指針として。具体性を持ったプロジェクトとして。そしてまた、本書を読みながら、僕は強く『
イノベーションのジレンマ』を思い浮かべていた。なぜ優良企業が失敗するのか。その答えの一つとして『レッド・オーシャンで戦い続けている』と言えるのではないか。そう思わせるだけの内容が本書には描かれている。
もし、『
ブルー・オーシャン戦略』読む機会があるのなら、是非とも『
イノベーションのジレンマ』も一緒に読むことをお勧めする。この2冊は同じような領域を扱い、お互いを補完するような内容になっているからだ。両方を読み比べることによって、双方を、より深く理解できるのではないだろうか。