My Merry May Believe

月刊コミック ラッシュ 2005年11月号から2006年10月号まで連載/水島空彦/原案:KID

 第1話「absolute blue」
 第2話「gray passage」
 第3話「yellow constellation」
 第4話「Trim brown」
 第5話「green trall」
 第6話「white delivery」
 第7話「black-widow」
 第8話「replace red」
 第9話「ivory spinner」
 第10話「orenge span」
 第11話「try-bule」
 第12話「parallel alliance」

2005/10/03 ~ 2006/11/06 記
第1話「absolute blue」
2005/10/03 記

作者様ご本人も『印刷っっが!!!(2005/09/25の分)』と思わず叫ばずにいられない状態なのは兎も角(確かに酷いけどさ)、元々が心に重くのしかかるQ'tron謹製な分、物足りなさを強く感じる。パンチ力に欠けるのだ。『ほのかシナリオ』との対比による物足りなさか。或いは、由真ちゃんという存在自体の重さがそう感じさせるのか。レプリスが不在なのも気になる要素だ。

しかし、シチュエーションだけ取り出してみれば今後に期待させるだけの状況は作り出している。岸森の謎。真っ昼間からビールに気を引かれる岸森。公民館。みのりの思い。それが成就することは欠片も期待をすらしてはいないが、その思いが故に訪れるであろう喪失感を想像すると、今後が楽しみでもある。もしかしたら、更にその先、望んだが故に失ってしまったことをより深く刻みつけられる結末が待っているのかも知れない。だとするのなら僕は期待に震えて待つとしよう。その先、望んだものと得たものを比較した結論を出さざるを得ないみのりの事を。彼女が抱くであろう、ドス黒い蛇のような情念の事を。そして飲んだくれな鏡さんの出現を。

つか、相変わらず月の変わり目に(料金未払いなのか)個人サイトにアクセスしてもNot Foundになるのは勘弁してください……思わずあれこれ想像してしまうので。

第2話「gray passage」
2005/10/30 記

チャットで第1話について大澤さんと話していて、とりあえず『ナチュラルに浩一を浩人の身代わりにしているみのんに胸キュンデス!((C)大澤雄一)』では同意見。しかし、そこから更に発展して『メガネを装備したってことはヨゴレってことですかね?((C)大澤雄一)』は、舌を巻くような鋭い意見でした。やっぱ、さらっと流すように見ちゃダメだって事なのか知らん。

それは兎も角。

岸森浩一がレプリスだとして(妄想だが設定からしてそのように誘導されている)、ではどうしてレプリスの彼が晴天町にやってきたのか? と考えると、岸森浩人が死んでいることに結びつけるのが一番手っ取り早い。浩人が死んで、浩一が生まれた。つまり、浩人の記憶をベースに浩一(というレプリス)を製造した、と考えるのがすぐにたどり着ける解答だ。しかし、何らかの不都合により記憶の定着が完全ではなく、浩人の人生を追体験させるために(記憶を完全なものにする=浩人を復活させるために)晴天町に教育実習生としてやってきた、というのはどうだろうか?

そして、もちろんその全ての目的は『レゥを生かす為』に、だ。なぜなら、この世界の全てがレゥに捧げられる為に存在しているのだから……ってな妄想を抱きつつ待っていた第2話だったんだが……なんてか、この展開、妄想のまんま過ぎてむしろ困っちゃうんですケド……? このまま恭平さんと穂乃香が行った先にチューブだらけの浩人なりがいたらどうしよう、ってな感じなんですが。でも、むしろ穂乃香が呼ばれたッてことは玉村先生謹製のナノマシンが必要になった=レゥの危機って事なのか知らん? もちろん、原因は浩人がいなくなったから、だろう。とすると、穂乃香がマスターを失っても機能を停止しない、という説明は前振り……なんだろうな、きっと。

つか、(今話も)あくまで『先生』にこだわる(浩一を浩一として認めていない)みのりさんが実に良い感じデスよ! 余裕もなければ嫉妬心も敵意もむき出しで実に良い案配デス! ただ、惜しむらくは、あんましギラギラしてないのがちょっと。水島空彦氏のタッチがそう思わせるのかも知れないけれども。でも、警戒なんかまるでしてない素振りで、しかし浩一に欠片でも好意を持った女がいたら、片っ端から「この淫乱ッ! 私の先生に色目使ってンじゃ無いわよ!! 殺されたいの? ねぇ、私に殺されたいの!?」等とやってくれると個人的には大喜びなんですが……さすがにそりゃ無理か。

で、鏡さんと由真ちゃんは何時出てくるのよ?

第3話「yellow constellation」
2005/11/27 記

タイトルの脱字とかオビの誤字とか今回もやっぱり印刷がすごいことになっているのとかは兎も角。「兎も角」じゃダメなような気もするが、兎も角。

恭平さんに連れて行かれた先で現状を聞かされる穂乃香。岸森浩人の命が危ないそうだ。しかし、その『特殊な症例』であるためかろうじて生き残っており、かつ、その治療のために岸森"浩一"が晴天町にやってきた。浩一の体験は浩人に送られ、それが彼の治療になっているのだという。

穂乃香は、しかし厳しく言う。「回復した後、いま晴天町にいる岸森さんは?」

渡良瀬は「わからない」と答える。「だが、無駄に死んでほしくはない」とも。その表情は視覚補助システムに隠されてうかがい知ることはできない。

渡良瀬は言葉を続ける。浩一が死ねば浩人も死ぬ。浩一の健康を維持して欲しい。穂乃香は静かに怒りながら、けれど申し出を受け入れる。かつて岸森浩人と過ごした日々を思い出しながら。

その頃、浩一はいつもの公民館にいた。みのりとの同棲のような生活。みのりの誘いで二人は朝から釣りに出かけ、そこでみのりは一つの告白をする。なつかしむように。おしつぶされるように。ヒザを抱えてつぶやくように。

「もう、先生のことを忘れても……いいよね?」

そう、"先生"に告白するみのり。浩一は柔らかくそれを受け入れるが、みのりの「ありがと」の意味が解らず、困惑する。"先生"とは一体誰なのか。みのりはなぜ自分に"先生"を見いだしているのか。

そんな浩一に穂乃香は微笑みかけ、診療所に誘う。かつて二人が初めてであった場所に。

第3話にして初のサプライズ。眠りについた浩人を起こすために浩一が作られた、という設定が明かされた。とはいえ、そこ以外はツッコミどころが多くて何とも言い難い内容ではあるが。

まずは一堂に会した渡良瀬、恭平、穂乃香、レゥという、レプリスだけのシーン。これだけマスターの存在自体が不明確なレプリスをそろえておきながら、「レプリスはマスターが居ないと崩壊してしまう」は無いだろう。じゃあ君らはなんなのよ? と突っ込みたくてしょうがない。全員が全員、特殊なレプリスとはいえ、ここまでそろっていると質の悪い冗談のようにしか見えてこない。

そして穂乃香の怒り。確かに恭平さんは神経を逆なでするような存在ではあるが、どうしてそこまで怒っているのだろうか? 浩一への同情? いやいや、それだけでは説明が付かない。自己犠牲すらいとわないほどに『癒しの存在』である穂乃香がここまで敵意と拒絶をむき出しにする意味がわからない。あるいは、僕が忘れているだけでめいびーさんでもそんな状態だっただろうか?

どちらにしろ、穂乃香に対する違和感はぬぐえない。この辺は原作プレイヤーの弊害だわな。僕だけかも知れないけど。

そして、あれだけ"先生"に固執していたみのりが突然の告白。なぜ心境の変化がおきたのか解らず、どうにも面食らってしまう。思い当たる節と言えば、せいぜい、前回の穂乃香との会話ぐらいで、けれど、そのときみのりは「先生よ」と言い切ったはずなんだが……。

そんな第3話をみて、なんとなく連載自体が短いのかな~と感じたが、では、どのような終わり方をするのだろうか?

しばらく続いていた平和で優しい時間は、突然の浩人の容態変化によって終わりを告げる。浩人に引っ張られるように浩一も倒れ、そして浩人は程なくして死亡してしまう。レゥは何とか生き残るも人格自体はリースと交代。リースもリースで、魂を持ったリースではなく『完璧な模造品による虚構』人格。

一方、晴天町では倒れた浩一を助けるために穂乃香が犠牲となり、そうして何とか助かった浩一はみのりと静かに暮らし始める。だが、自分を通して"先生"を見ているみのりの視線に耐えきれず、些細なきっかけから始まった諍いを経て、浩一は失踪してしまう。

浩一をも失い、うちひしがれるみのり。夜の波間を見つめ、砂浜で酔いつぶれる日々。

その噂を聞きつけ、心配してやってきた由真ちゃんの胸でひとしきり泣いた後、みのりは次第に落ち着きを取り戻し、数ヶ月経ったある日、由真ちゃんと二人で浩人の墓参りへ行く。やっと浩人の死を受け入れられたみのり。

しかし、その墓参りの先で正気を失った浩一と遭遇する。片腕を失い、正気をも失った浩一にみのりはメッタ刺しにされるが、ここまで浩一に思われていたのだとみのり、胸を熱くしながら息絶える。贖罪の言葉を残して。みのりの死を待ち受けるように浩一もまた崩壊する。満足げな表情で。折り重なるように倒れた浩一の手にはみのりを刺した刃物ではなく、みのりの手が握られていた。

そこに知らせを受けてやってきた渡良瀬一行。その凄惨な現場に言葉も無いが、しかしその様を見た心のないリースが涙を流し、それを見て恭平もまた、たばこをふかしつつ天を仰ぎ見る……ってな妄想はどうだろうか。

ちなみに鏡さんは家で一升瓶を抱きかかえ、酔いつぶれて寝こけているって辺りで一つ。

第4話「Trim brown」
2006/01/22 記

渡良瀬に浩一の事を頼まれた穂乃香は彼を診察する。至って健康。機能的には問題がない様だ。診察がてら、穂乃香は彼に質問を投げかける。誰かに必要とされたいか。自らの生を誰かにためとしたいか。その意味も解らないまま、けれど浩一は考え始める。誰かに必要とされること。必要とされて生きていくこと。その意味。その最中、教育実習の授業内容で悩むみのりに刺激され、浩一は生徒達を外へと連れ出す。野外授業で、生徒からずっとここにいて欲しいとせがまれる浩一。初めて意識する、必要とされている感覚。『誰かのために生きている』感覚。

その影響か、治療中の浩人が、微かではあるが回復に向かい始める。このまま行けば意識を回復するかも知れない。喜ぶレゥ。そして渡良瀬達。しかし、その安堵は自らの行為を思い起こさせる。岸森浩人へのこだわり。彼のためだけに作られた特別なレプリス――岸森浩一――。そこまでする理由を『恭介』だと渡良瀬は言い、そして彼のことを思い出す。彼もまた、レプリスに捕らわれ、そして死んでいった存在なのだ。

人とレプリスは違う。人は人であり、レプリスはレプリス。結局は人工の生命体。しかし、では人とレプリスを分かつ物はなんなのか。それでもなお解り合えるのはなぜなのか。それどころか人はレプリスに恋すらし、そして愛すら覚えるのは、はたして喜ぶべき事だったのだろうか。渡良瀬はそれを「陳腐だ」と表現し、恭平は「人そのものが陳腐だ」と答える。

そしてみのりは、自らの思いを確認すべく、行動を始める。私が恋しているのは、岸森浩人なのか。それとも岸森浩一なのか。私は、人に恋しているのか、それともレプリスに恋しているのか。その、答えを求めて。

水島氏、RUSHの印刷に慣れたのか「こりゃヤベェ」と思うようなコマが無くなってきたのは良し(印刷品質は兎も角)。逆に、絵的にアレ? と感じる部分が何ヶ所かあって、調子悪かったンかな~と思ったり。その箇所が、そろいもそろってヒロインのみのりだった、ってのはツッコミどころか? 後、渡良瀬達の会話は面白かったんだけれど、最後の渡良瀬の独り言が間延びしていてちょっと。細かいついでだと、生徒の女の子が敬語を使うところとか、みのりが結婚を意識しているところとかは良い感じ。特にみのりの方は女の子なんだな~と感心したくらい。

しかし、そのみのり自身が「私が恋しているのは浩人先生か、浩一か?」とやりだした(今回の話最大の見せ場)はさすがにちょっと……。それは前話でやるべきネタじゃなかったのか? つか、これを前回やって、今回は「ありがと」と言うべきじゃなかったのか? てか、それ以前に第2話まであれだけ"先生"にこだわっておきながら、もしかして自覚がなかったのか、みのりに?

なんつか、浩一をレプリスと知った上でさらにそれでも"先生"にこだわり、満たされないと解っていながら、それでも浩一を求めるみのり、という、最初の方で想像した構図が自分の一番求めている物に近かったのではないだろうか。

浩人を求めながらも浩一という『模造品』で手を打とうとしている自分と、そのために犠牲になるであろう浩一に罪の意識を感じても、それでも求めるであろう自分の浅ましさに強い自己嫌悪を覚えるみのり。やがてそのストレスから精神をむしばまれた彼女は、自分が手に入れたのは浩人ではなく浩一であったことに怒りを覚え始める。そして、些細な違和感をきっかけにして爆発したみのりは浩一を激しく責めたて、やがて自分が不幸である原因は浩一にある、と責任転嫁を計るようになる。結果、浩一は"崩壊"し、みのりも崩壊する。「なんでこんな事になっちゃったんだろうね?」と。

そう言う結末が見え始めて、その上で『奇跡』とでも言うべき現象が起き、みんなが(あるいは、みのりが)救われる、というのが、あの頃に望んだものだったように思えるのだが……。矢張り、望んだものと得たものを比較するというのは、感情を揺さぶる行為だ。そして、得た物が望んだ物以上に僕を揺さぶらない限り、決して満足することはできないのだろう。期待すると言うことはそう言うことだ。望みを定義してしまえば、後は幸福になるか、不幸になるか。その二択しかない。

そういや、浩一君。普通に診察を受けてたけど、レプリスなんだから正確な自己診断できるのでは……?

第5話「green trall」
2006/02/20 記

キスをせがむみのりに浩一はとまどう。その意味をつかみあぐねて。それでも言葉じゃダメというみのりの涙に押されて、みのりとのキスを決意する浩一。しかし、事後でも悩みが晴れない浩一は、そのことを穂乃香に相談しに行く。相談されることを喜ぶ穂乃香。悩む浩一に、ただ優しく接し、癒しを与える。あなたは必要とされている。世界はあなたを受け入れてくれる。だから大丈夫。自分に正直でも。自分の気持ちのままに人生を歩んでも。

そして言外に『私も』とささやく穂乃香。私もあなたを必要としている。それは浩一に向けられたものか。はたまた、浩一を通して浩人に向けられたものか。

相談を終え、診療所からの帰り道。再び防波堤でたたずむみのりに出会う浩一。初めてのキスだった。そう告白するみのりに浩一は反射的に謝ってしまう。それをきっかけに浩一を問いつめるみのり。いずれはこの町を出て行くの? 私を捨てるの? ずっと一緒には……居てくれないの?

浩一はみのりを受け入れ、ずっといっしょにいることを約束する。浩一に抱きつくみのり。しかし、そこで浩一は倒れ、夢を見始める。岸森浩人の夢を。夢の中で浩一は浩人だった。防波堤にたたずむみのりはまだ中学生で、玉村先生がまだ生きていて、浩人と穂乃香がデートしていた頃の夢。

夢の中でも再び倒れた浩一は玉村診療所で目を覚ます。倒れた時に見た夢を語り出す浩一。その口から『浩人』の名が出た瞬間、穂乃香とみのりの表情は凍りつく。果たして浩一は、浩人からの影響を受け始めたのだろうか……?

浩一のみのりへの呼びかけが「みのりさん」だったり「みのり」だったりと不安定なのが引っかかる。それだけ心が揺れていると言うことだろうか。それとも、浩人と浩一の間で揺れている、ということだろうか―― と言うのが最初の印象。事態の進展と一つの大きな展開があった割には、あんまし楽しめず。どう受け取って良いのか悩むような内容が多めで、どうにもすっきりしない。

例えば、みのりと浩一のキス。コマ中央に書かれた『受け入れて――』は、浩一に受け入れて欲しいのか、浩一を好きだと思いたい気持ちをみのり自身が受け入れたいのか、浩人の代わりでもかまわないという気持ちをみのり自身が受け入れたいのか、それとも岸森浩人の代わりとしてしか見ていないみのりの気持ちを、それら全てをふまえて受け入れて欲しいのか、判断がつけにくい。

例えば、穂乃香はどうして浩一に『複数の女性から愛されたら、その全てを受け入れられますか?』等と聞いたのか。『優しいだけの男がとても必要な時もある――』は、穂乃香自身の願望である、と解釈できるが、それが『複数の~』につながってこず、違和感を感じてしまう。それとも、あれは恐ろしく迂遠な、浩一への愛の告白、と解釈すべきなのだろうか? もし、あなたに私が愛を告白したら、あなたはどうしますか? 受け入れてくれますか? なのだと。うん。これは悪くない。そう思いこむとしよう。

例えば、防波堤で浩一から『また風を見ているの?』と声を掛けられた直後のコマ。そのみのりの表情。直後に続く『ここにいると過去が見えるの』というセリフ、そして浩一が浩人の夢を見る事から、浩人のいた頃の事を思い出していたのだろうと思うが、では、なぜわざわざ声を掛けた浩一を見る一コマを入れる必要があったのだろうか? その次のページでみのりは浩一に受け入れられているが、しかし、あの一コマの瞬間、みのりは、まだ浩一と浩人とを選びあぐねていたのではないだろうか。あるいは、決別した浩人への思いに対する喪失感をかみしめていたか。さらその先、そのことを後悔していた、と思えなくもないと思わせるだけの空虚な空気を、僕はそこに感じて(妄想して)しまう。

そして例えば、『浩人さんって呼ばれてて……』という浩一の言葉に強く反応する穂乃香とみのり。穂乃香の反応は解らなくもない。浩一と浩人との関係を知っているからだ。異常事態かも知れないという危機感を感じてもおかしくはない。けれど、みのりはどうだろうか? 彼女は浩一と浩人との関係を知らない。彼女が知っている、あるいは、解っているのは、浩一と浩人が別人であること、そして、浩一がレプリスであるかも知れない、という2点だけだ。その彼女が、どうして強く驚かなければならないのだろうか。まだ、心の中では浩一を浩人だと思いたい気持ちが渦巻いているのだろうか。

結局、みのりの気持ちに整理がついているのか、それともついていないのか。それにつきると思う。そして、第1話で大いにはしゃいでいたみのりが、第3話では、既に『先生』をあきらめ、浩一が浩人ではないことを認め、それでもなお浩一を選んでいる……と言う風に見えていたので、どうも第4話のラスト辺りからの、この一連の流れには混乱してしまう。明らかに気持ちに整理が付いてない状態にしか見えないからだ。

それとも、第3話の『もう、先生のことを忘れても……いいよね?』を、額面通り浩人への思いを断ち切る為の宣言、と受け取るのはミスリードだったのだろうか?

第6話「white delivery」
2006/03/05 記

表紙でみのりの右手で寝こけている人……誰なんだ? これまでの登場キャラ達を考えるともしかしたらレゥかもしれないが……でも、いや、まさか……そんな。つか、さらっと流しそうになったが、今月も今月で誤字発見。単行本化(するよね?)したときにはなおっていると良いのだが。

それは兎も角、今月の感想。

学校への通学路。みのりはテレながらも浩一に『手を握ろう』と言い出す。並んで歩くだけじゃものたりず、かといって、昨日のキスを思い出すと、少し、怖い。けれど、先に進むと決めたみのり、浩一の手を取ると、二人並んで歩き出す。もう、それだけで何もかもが満たされてしまうみのり。

当然ながら、その姿を見た生徒達にからかわれる二人だったが、けれど反応の薄いみのりをのぞき込んだ浩一は、その表情を見て思わず赤くなる。まさに『夢見る表情』をしていたみのり。その原因が自分なんだと気が付いた瞬間、浩一は赤面し、けれど強く、深い幸福を感じる。みのりは僕のことを好きになってくれた。そう感じる。それはとても幸福なことで、生まれて初めての感情で……今まで、こんな気持ちになった事なんて……。

そう、考えていた浩一の胸に痛みが走る。象徴的な痛み。過去への巡礼を妨げる警告のような。一瞬で収まったそれは浩一を苦しめない。強い痛みではないのだ。けれど、その感触は確実に浩一に打ち込まれる。失われた記憶へ触れられることを恐れるかのように。

みのりは再び授業と称して浩一と触れあう。校庭の真ん中で、着飾ったみのりは浩一とダンスを踊る。勉強は大事。けれど思い出も大事。みのりは自分の教育実習を成功させようと、努力を続ける。その上で浩一とも触れあう。

けれど、みのりが感じるのは違和感だ。初めてなのにちゃんとダンスをこなせる浩一。そのことを「俺も初めて知った」と口にする彼。否が応でも思い出す。彼がレプリスなのだと言うことを。レプリスだからこそ、初めての経験ですらそつなくこなしてしまうのではないかと。私は本当に浩一くんとつきあっていけるんだろうか? 浩一くんは私を好きになってくれるんだろうか? あの頃の……先生とレゥちゃんの様に。

その頃、恭平は一体のレプリスを連れて穂乃香の元を訪ねていた。そのレプリスを『助手だ』と穂乃香に押しやる恭平。レプリスがレプリスのマスターになれるわけがない。そう拒絶する穂乃香だったが、恭平はこともなげに調整済みだと告げる。問題ないと。

苛立ちながら恭平の意図を問いただす穂乃香だったが、恭平はそれをスルリとかわしてしまう。気に入らないならスクラップにしてしまえばいい。そんな恭平の物言いに怒りを隠さない穂乃香。しかし、それでも置いて行かれたレプリスを溜息混じりに受け入れる。あなたの名前は『リース』だと。

リースから逃げ出すように診療所を出た穂乃香は、そのレプリスのことを考える。自分と同じ存在。人間に尽くすために生み出された人工生命体。人に限りなく近く、しかし人ではないモノ達。魂を持たない……虚ろな存在。そんな私のことをお父さんは娘として扱ってはくれたけど。でも、私は『リース』の事を「妹」とは思えない。似た存在とも。近い存在とも。

そもそも、なぜ恭平さんは『リース』を私の元に連れてきたのだろうか? 矢張り、岸森浩一君の件、なのだろうか……? 兎も角、やってみるしかなさそうだ。

穂乃香は、浩一を連れ出そうと学校に向かう。そんな穂乃香を警戒して浩一から離れないみのり。浩一だけを連れ出そうとする穂乃香に、みのりは理由を問いただすが、穂乃香は答えをはぐらかすことなく、「説明できない」とだけ、固く言い返す。益々警戒するみのり。「デート?」「少ししつこいですよ」穂乃香の方が一枚上手だ。

結局、穂乃香に連れ出されてしまう浩一。デートだなんて。そう話しかける浩一に微笑みかける穂乃香。確かに今日はデートではありませんけど。でも、必ずみのりさんを選ばなければならない、ということもないでしょう? 浩一に迫る穂乃香――デートのお誘いならいつでもお受けしますよ?

そっと耳に打ち明けられたその言葉に強く動揺する浩一。二人の距離が近いこともそれに拍車を掛ける。

けれど穂乃香は思う。もし。もし、私に魂というものがあるとするのなら、それはどんな存在なんだろうか? 形は? 色は? どうしたらそれを知ることが出来るだろう? ……私も恋をしたら、解るのだろうか、それが?

診療所に浩一を連れてきた穂乃香は、まずリースを紹介する。レプリスを「初めて見た」という浩一。続けて浩一の体を検査する穂乃香だったが、その言葉に偽りは無かったようだ。異常どころか反応もなし。浩一ではなく浩人への影響を考えた方がいいのだろうか?

検査を終え、今度は穂乃香が浩一にデートのお誘いをかける。今度、本当にデートしませんか?

動揺する浩一に穂乃香は問い続ける。みのりさんはもう、あなたの恋人ですか? では、私にも可能性があるということですか? ふたりを、比べていただけますか?

彼女を『みのり』と呼び捨てる浩一に苦笑しつつも、私を選ぶ可能性を前向きに考えてくれるその態度に、穂乃香は微笑む。

――「では。みのりさんに宣戦布告です」

そこに、かけつけてくるなり浩一を胸に抱きしめるみのり。この人は渡せない。そんなみのりにも微笑みを返すと、穂乃香も負けじと浩一を抱きしめる。にらみ合うふたり。その間で動揺する浩一。

楽しかった。これまでで一番に。それが第一印象。ひとりの人を巡って、複数の人が競い合ったり、あらそったり、やきもきしたりするのは、矢張り楽しいシチュエーションだ。これが高じて、どうしようもなく追いつめられたり、冷静でいられなくなったり、情緒不安定になったりしたあげく、悲惨な結末に向かって全力疾走し始めたりすると益々楽しくなったりもするのだが、それはそれ。また別の楽しさだ。

明言はされていないが、みのりの態度から、とりあえずは目の前にいる浩一をとったのだと感じる。『先生』への思いを吹っ切れたのかは解らないが、目の前に居るのは浩一で、彼がレプリスであることを乗り越えようとしているのだから。ただ、それを感じるシーンが『初めてのダンスなのにうまく踊れた』なのは、理解しがたいが。そこはレプリスだからうまくいく、という部分なのだろうか?

そして責任感の強い穂乃香。なんだかんだ言っても恭平から頼まれた事をきっちりこなしている。ぶれることなく『岸森浩人の治療』を続けている。だからこそ恭平の連れてきたレプリスを浩一に会わせたのだろうし、その際の変化ですら見逃すまいと行動していたのだと思う。穂乃香の第一目的はあくまで浩人の治療だ。

その上で浩一にコナをかけているのだ。僕の目にはそれすら浩人の治療のためだと映ってしまう。あくまで浩人のために。しかし、ここでも違和感を感じる。リースを「『妹』とは思えない」穂乃香。同じレプリス同士だとしても家族とは思えない。だからこそ、そんな穂乃香が『あくまで浩人のために』浩一をデートに誘うのは解らなくもない。何がきっかけにになって浩人が目を覚ますか解らないのだ。なるべく色々な事をやってみたい。そう思うだろう。それをデートだと言ってしまえば何かと都合も良い。

けれど、それと同時に穂乃香は自分の魂の事を思っている。それは恋をすれば感じられるのだと。だから私は恋をしたい。そう、穂乃香は思っているように感じる。その相手として浩一を選んだのだと。

もしかして、浩人の治療を進める。一緒に、浩一と恋もする(魂の探求も行う)、なのかもしれないが、自らの根源であろう魂への探求を、岸森浩一を相手に行えると、彼女はそう確信しているのだろうか? 或いは、兎も角やってみよう、というレベルの話なのかも知れないが、その考えは穂乃香に対する印象とはそぐわない。それとも、相手が固まりそうな浩一だからこそアプローチをし、結果が見えてきたら身を引こう、と、そう言った算段なのだろうか? どうにも穂乃香の意図がわからない。もっと単純に「優しいだけの男が必要」なのだろうか、穂乃香には?

ここに来てシチュエーションはグッと楽しくなってきた。けれどみのりと穂乃香、それぞれが『二人の岸森』に対する態度をはっきりとさせていないまま話が進むのがもどかしい。いや、はっきりさせないまでは良いんだ。でも、その自覚がないのがダメなんじゃないだろうか? 或いは、それが後々になってボディーブローの様に効いてくるならかまわないけれど、恐らく浩人は目を覚ますのだろうな、と思うと、その点に触れていないのは少々興ざめだ。つか、第1話~第4話までそれをやってきて(第5話は微妙)、またしても『なかったこと』のように振る舞われても困ってしまうんだが……。う~ん。もっと我慢強く待つべきなんだろうか? 連載漫画という形式の弊害なんだろうか? それとも……。

第7話「black-widow」
2006/10/20 記

とりあえず最初にタイトルが秀逸だと言うことを特筆しておく。『widow in black』も良い。

浩一にくっつく穂乃香にボルテージが上がりっぱなしのみのり。さらに挑発するように穂乃香は「1番でなくてもいい」「同時につきあってもらってもかまわない」と宣言する。みのりは浩一を後ろに隠すと穂乃香を牽制する。それにこともなげに「浩一さんあなたが好きです」と答える穂乃香。興奮するみのり。だが、めまいを覚えた浩一が倒れたことにより、場の雰囲気は一変する。

倒れた浩一に冷静な対処を見せる穂乃香にみのりは疑問をぶつける。「何を知っているの?」穂乃香は自らの予想を話し始める。目を覚まさない浩人さん。特殊医療用レプリス。岸森浩人そっくりのレプリス。おそらく浩一が愛されることによって浩人は回復する。そう言う仕組みではないかと。

そこまで話して、しかし浩一がレプリスであることにあまりおどろかないみのりを不思議に思う穂乃香。みのりは言う。「彼がどんな存在でもいい」。微笑む穂乃香は、更なる予想を突きつける。浩人が目覚めれば浩一は死んでしまうかもしれない。逆を言えば、浩人を見殺しにすれば浩一は助かるかも知れない。きつく突きつける穂乃香。あなたが好きなのか岸森浩人ですか? それとも浩一?

みのりは苦悩し、目の前の穂乃香にも同じ問いを投げかける。穂乃香さんなら、選べるの? 穂乃香は答える。私が選べる問題じゃない。けれど、どちらかしか選べないのであれば。私は浩一さんを選ぶ。犠牲になるために生まれる命など、あっていいはずがない。

その言葉に少し安心したみのりは新たな疑問を口にする。浩一君はなぜ気絶するのか? ふたりに愛されて、選べないからだ。浩一さんが、ではなく、浩人さんが。と穂乃香は答え、微かに微笑む。浩人さん、少しは私のことも気にしてくれていたのですね。

その頃、浩一は夢を見ていた。夢の中の晴天町。夢の中の砂浜。夢の中で浩人にであった浩一は理由のわからない謝罪を受け、目を覚ます。その疑問は消えることなくふくれあがり、浩一を突き動かす。その浩一に事実を告げる穂乃香。7年前に岸森浩人が晴天町にやってきたこと。浩一がレプリスであること。

ショックを受け飛び出す浩一。追いかけるみのり。それを寂しそうに見送る穂乃香にリースが声を掛ける。

浩一に追いついたみのりはこけながらも手を伸ばし彼の名を呼ぶ。大きく。けれど弱く。それを放っておけない浩一はみのりを抱き寄せ、そして二人の未来への不安をはき出す。「だめだよ 僕は人間じゃないんだ」「恋なんてできないよ」。それでも一緒にいてとせがむみのりを、浩一は力強く抱きしめる。

……なんか、予想のまんま過ぎて、正直、萎えている。もしかしたら半年ぶりというのもあるのかも知れないけれど、でも、これを発刊当時に見ていたとしても、たぶん同じ感想を抱くんじゃないだろうか? 別に奇をてらえとか予想を裏切って欲しいとかじゃないけれど、彼らの関係性に強く感情移入できていない以上、受ける刺激が少ないのは、矢張り作品への興味を削いでしまう。

とはいえ、穂乃香さんが浩一君を浩人さんの生け贄へと安易に選ばなかったのは、納得しながらも気が付かされた部分だ。確かに穂乃香さんなら両方を助けたいと思うだろう。かといって、レプリスを道具としてみている僕の価値観からすれば穂乃香さんの行為は少々奇妙にも思えるが。つか、システムがその目的を全うすることを命題にしていない時点で問題を抱えているように見えるのだが。

と、考えて、ふと僕の頭に『暗闇のスキャナー』がよぎった。そうか。浩一君を助けるためにはレプリスの製造者共を殺すしかないのか……。

そんな浩一君が、自分がレプリスであることに激しくショックを受けていることに強い違和感を感じていたけれど、でも、レプリスには父も母もないことを考えると確かに自分のことを心底人間と信じていたんだな、と思い、なんだか腑に落ちた。自らの土台を揺るがされるのはきついことで、その場から逃げ出すのは解りやすい描写だ。それに、兆しもなく受け入れられても肩すかしだし。

そうして二人が抱き合うけれど、予定調和すぎてほとんど感情が揺れてこない。なぜなら、みのりの葛藤は浩人か浩一かであって、レプリスが人間か、ではないからだ。そこで「浩一君は浩一君だよ」と言われても、薄っぺらく感じてしまう。安易な慰め。楽に手が届く言葉。誰も傷つかない言葉や行動では、誰も動かせない。

僕自身の需要が病的に間違っていると解りきっていても、求めずには居られない。僕はもっと打ちのめされたいんだ。打ちのめされるための記号がそろっていなければダメなんだ。取り返しの付かない何かが失われさえすればそれで良いんだ。僕以外の誰かが救われる話なんて求めちゃいないんだ!

そんな与太は兎も角。あと5話も残っているし、まだまだ水島氏の絵が楽しめる。楽しみは少なくはない。でも、願わくば、ボンクラな僕が喜ぶようなロクでもない終わり方を迎えますように……。

第8話「replace red」
2006/10/21 記

作られた記憶。作られた自分。レプリスであるということはそう言うことだ。自分が本物ではないことを自覚するのは、きつい。岸森浩一はそのことをひとりかみしめていた。そこに現れる穂乃香。"岸森さん"と呼びかける穂乃香は、浩一を肯定し、慰め、癒す。レプリスかもしれない。偽物の記憶かもしれない。でも、ここにいるのはあなた。私に触れているのはあなた。それは本物だから、あなたは『岸森浩一』だから、そのことは確かなことなの。

「それに――」

そこへ生徒達を連れてやってきたみのり。生徒達に無邪気な態度で絡まれながら、その向こう側からみのりの微笑みをむけられながら、浩一は思う。わからないけれど、でも、このまま生きていても、いいんだよね? 穂乃香は言った。誰かに必要とされる。それだけでも生きていける。だから生きていけばいい。ここで。この町で。

その救いは、岸森浩人をも救う。目覚める浩人。感嘆の声を上げるレゥ。恭平は玉村診療所へと連絡を取るが穂乃香は不在でリースが出る。穂乃香へと岸森浩一の状態を確認するよう伝言を頼む恭平。浩人が目覚めた以上、浩一に変化が起こる。その結果がどうなるかは解らない。あるいは浩一は死ぬかもしれない。けれど「どっちも死んでほしくない」と呟くレゥの言葉を恭平は否定しない。

しかし浩一の記憶は混濁し始める。浩一の記憶に浩人の記憶が混ざり始める。それどころか状況すら判断できなくなっていく浩一。今話している相手が誰なのか。誰から呼びかけられているのか。そして倒れた浩一は再び夢を見る。浩人と出会う夢。浩人に自分のことを話して聴かせる浩一。自分がレプリスだということ。浩人を治療するために作られたらしいとのこと。そして、いま、みのりのことが好きだということ。

現実の世界でも会えるといいな。そう約束して別れた浩人と浩一。直後、浩一は肉体に強い痛みを感じる。役目を終え、浩一の体が崩壊を始めたのだ。その浩一に呼びかけるみのりと穂乃香。その声はもしかしたら浩一を助けるかもしれない。その声はもしかしたら浩一に届くかもしれない。だから呼びましょう。私たちの浩一さんを。

『私の』浩一君に呼びかける。そう強がるみのりは、しかし涙を止められない。落ち着いた穂乃香の声がみのりの背中を押す。決意を固めるみのり。「浩一君!!」 声は――。

「どうせ助かるんだろ?」と思えてしょうがない。そういったひねくれた見方しかできない。必死なみのりだけが違和感なく、叫ぶレゥも、謝る浩人も、優しいだけの恭平も、どうにも違和感ばかり感じて、いつまでもどこまでも感情移入できない。そんなところで浩一が死にそうになっていようが、それを助けたいとみんなが思おうが、その気持ちが届いてこないんだ。なんかダメなこと言ってる気もするけれど、でも、やっぱり響いてこない。

これで浩一が完全に死んでしまって、それを浩一のレコーダや浩人の記憶からサルベージする、のような話になるのであれば偽物で再生物である浩一を巡る葛藤が楽しめる気もするが……って、それじゃまるっきりみさおAエンドか。うん、まぁ、でもそれでもいいや。何も失われない物語を楽しむことは、多分、僕にはできないことだ。なにも変わらないままで居られる方がおかしい。

つか、物語を消化できなくて感情移入できなかったって状況もめいびーさんに近い物があるわな。結局はそう言うことなんだろうか? あの物語に違和感を感じたから、その続きであるびりーぶさんにも違和感を感じるのだろうか? あるいは、単に僕のレプリスに対する価値観の差が生み出す産物か。

それでも渡良瀬のルビ間違ってるのはマズイと思うよ?

第9話「ivory spinner」
2006/10/24 記

肉体が崩壊していく浩一を呼び戻そうと必死でよびかけるみのりと穂乃香。しかし、言葉が届くどころか浩一は何の反応の示さない。その状況を「マスターに必要とされなくなったから(※)」と解ってしまう穂乃香は、より強く浩一に呼びかける。あなたはマスターに必要とされなくなったのかもしれない。でも。でも、あなたを必要としている人はいる。ちゃんといる!

そんなふたりの呼びかけが通じたのか浩一は目を覚ます。これでなんとか助かる……! そんな安堵も束の間に、しかしその理由がわからない穂乃香はみのりのつぶやきに答えられない。「大丈夫なの?」「――わからない」そこに入った連絡は浩人が再び眠りに入ったというものだった。

浩人の目覚めと共に倒れた浩一。浩一の目覚めと共に再び眠りに入った浩人。二人の関係は確実だが、しかし浩一を助ける方法が思いつけないでいる穂乃香、みのりに「ふたりで浩一さんとお付き合いする」のはどうかと提案する。レプリスの存在意義はマスターだけじゃない。マスターを失った私がこうして生きていられるように、必要とされるならレプリスだって生きていける……はず。

強く反発するみのりだったが、浩一の為だと決心を固める。しかし、目覚めたとうの浩一には生きる気力がなかった。満ち足りた顔で告げる浩一。「なんだかすっきりしてる」「やることをやり終えた気分」だから「もう、いなくてもいいやって……」ほのかは泣き出すが、浩一にはまったく届かない。

「世界がテレビ画面の向こうにあるみたいだ」。そう漏らす浩一に穂乃香はキスをするが、それでも浩一の態度は変わらない。このままでは、再び浩人が目覚めたとき、浩一は死んでしまうだろう。そう考える穂乃香はその理由へもたどり着く。浩一さんは役目を終えてしまった。自分の役目を完璧にこなしてみせた。浩人さんは目を覚まし、浩一さんは消滅する。十分な満足を覚えて。それ以外のことになど全く価値を感じないのがその証拠だ。目的を達成した満足感だけが、浩一さんの感じる全て。そう、なのだろう。だから……。

それでも穂乃香、浩一を助けたいという気持ちを抑えられない。浩一がいかにその生を完全にまっとうしたからといって、だからといって死んで欲しくはない。生きるだけが正しいことじゃない。それは私のエゴかも知れない。でも、好きな人の生を望むことがエゴならば、私はそれでもかまわない。決意を固めた穂乃香は浩一の元へと向かう。

その頃、みのりは浩一に手を焼いていた。確かに浩一はいる。目の前に。こうして触れることもできる。けれど彼は私を見ていない。私に気持ちが向いていない。みのりは服を脱いで浩一の関心を得ようとするが、しかし浩一には届かない。「風邪引くぞ?」

そこにやってきた穂乃香、みのりに無駄だと告げる。もう、浩一さんの心は死んでしまったのだと。しかし、その手にはジッポーライターが握られていた。決意に満ちた炎を宿したライターが。

※マスターから必要とされなくなったレプリスの肉体は崩壊する。

服を脱いでも相手にされないみのりさんがとってもステキで、その様子を見て(チッ。先を越されたか)のような表情をしている穂乃香さんもステキ。つか、あからさまに穂乃香さんに注力している様子が見て取れて、作者様、(ゲームの方をやって)よっぽど気に入ったンだな~と思うことしきり。もう、完全にみのりと浩一の物語ではなく、穂乃香さんの物語になってますよ! これが鏡さんだったらどんなに良かったか……畜生。

そして出てきたライターはめいびーさんプレイヤーにはおなじみのアイテムなんだけれど、それで浩一の心を呼び覚ますとしたら「浩一さんの心はもう死んでいるんです」ってのはちょっと性急すぎる表現な気が。また、浩人と浩一のどちらかしか目覚められないってのは解りやすい設定なんだけれど、浩一はレプリスなんだからバックアップを取って、再び再生すれば良いのにと思わなくもなく……それでみのりが納得するかは解らないけれど。でも、レプリスをそのままに受け入れるってのはそう言うことだよな? そこに感じる違和感や葛藤が僕にとってのドラマだと言うこともあるけれど。

そしてなにより不思議なのは、いつのまには穂乃香さんがはっきりと浩一君を「好きだ」と言っている点。せめてきっかけぐらいは明示して欲しかったンだけど……? 確かに穂乃香さんは最初から魂を求めていたけれど、その認識は浩一君を好きだという気持ちから生まれているけれど、でも、「いつから穂乃香さんは浩一君を好きだったんだっけ?」という疑問は消えないんだよな。ま、でも、どうでもいいか。今となってはあんまり違和感を感じないし。それに穂乃香さんって元々そんな性格だしね。

あとは厳しい表情をしているリースが良し。穂乃香さんやみのりの表情も今までと違うバリエーションが合って良い。印刷は相変わらずでアレだけど、それはもうそんな雑誌だとしか。

つか、本当に穂乃香さんの扱いが特別になってきてるな。みのり、何の役にも立ってないし……メインヒロインなのに。

第10話「orenge span」
2006/10/26 記

ライターを使った催眠術で「心が死んでしまった前の」浩一を呼び覚まそうとする穂乃香。しかし、うまく催眠状態まで浩一を導けない。手を変え品を変え手を尽くす穂乃香。最後に穂乃香は手を伸ばすと浩一を胸に抱く。穂乃香の心音に耳を付ける浩一。穂乃香は抱いた浩一にささやきかける。「あなたは私の声しか聞こえなくなる……」 安堵を得て催眠状態に入る浩一。

穂乃香の質問に静かに答える浩一は、しかしその全てを「どうでもいい」と否定する。僕にはもう必要ないことだ。僕はもう、このまま消えてしまいたいんだ。「あなたは必要とされています!」 それを必死で否定する穂乃香だったが、それは誰かと問う浩一に答えを返せない。

穂乃香は質問を変える。あなたは何のために生まれてきたのですか? あなたは単に岸森浩人を治療するために生まれてきただけじゃない。ちょっと前のことを、思い出して。これから向かう町。晴天町。携帯も通じない陸の孤島。防波堤に面したビールの自動販売機。

そこからもう少し前。晴天町に来る前のあなた。あなたは誰? 誰でもない。その前は、あなたは誰でもない。そう、あなたはこれから生まれるの。生まれて、そして……恋をするの。そのために、あなたは生まれるのよ。さあいらっしゃい。この世界に。生まれてきなさい。岸森浩一として。

そうして目覚めた浩一は、町に来る前の記憶を失い、しかし死んだ心を取り戻していた。浩一に「私はあなたの恋人なのに」とささやく穂乃香。そこにツッコミを入れるみのり。「浩一君の恋人はわ・た・し!!」 記憶のない浩一には全くワケが解らない。できれば一緒に寝てあげてください。穂乃香はそう告げると、みのりと浩一を残して診療所に一人、戻る。

訳のわからないままみのりと同じ布団で眠ることになった浩一。「……ドキドキする?」 気になって聞いてしまうみのりだが、解らないと答えられ、しょげる。自分だけドキドキしてる。いつも一方通行。みのりは浩一の上にまたがると、彼の心音に耳を澄ます。ドキドキしてるかな? でも、なんで一緒に寝た方がいいんだろ?

診療所に戻った穂乃香は資料をまとめつつリースに聞く。夢を見ることはある? いいえ。そうよね。私たちレプリスが夢を見ることなんて、あるわけがない。でも、もし望んだような夢を見ることができて、もし、そのまま死んでしまえるとしたら、もしかしたらそれはとても幸せなことなのかもしれないわね。リースにそう漏らす穂乃香。

レプリスの浩一はしかし夢を見る。みのりの夢。みのりにキスしたい。その気持ちは外に漏れ、聞いたみのりは目をつぶり、待つ。……けれどやってこない彼の唇に目を開けると、浩一はすっかり寝入っていた。どうやら寝言だったようだ。軽い安堵と軽い喪失感。キスへの思いを抱えたまま、みのりも眠りに戻っていく。

そして朝。みのりの顔に涙の後を見つけた浩一は、自分に気持ちを向けてくれる存在を感じ始める。僕のために泣いてくれたんだろうか? そんな浩一の元を恭平が訪ねてくる。レゥに会わせてやる。たった一言と共に。

「さあ生まれなさい」は良いセリフだ。「心の死」にキチンと対応している。しかし、そこに至る流れがどうにも微妙。死んでしまう前の心を呼び覚ますってのは、つまり穂乃香さんが「時間を操る看護婦」になった、ということなんだけど、矢張り、安易だなという感想は覆らない。これで「死の前」を呼び出すのではなく、穂乃香さんが浩一君そのものを「生んで」いるのなら、個人的には完璧だったのに。あ? それとも、その役はみのり……?

しかして、みのりに課せられた役はYシャツで浩一の上にまたがる、という、これまたまいめりさん、めいびーさんプレイヤーならおなじみのシーンだったわけだが、ギャグ顔になっている分、たしかにかわいくて微笑ましくて、ほんわかした雰囲気が漂ってはいるんだけれど、でも、やっぱそれは天真爛漫な、お日様みたいな女の子にしかできない芸当だと思うワケでして……。みのりさんじゃあ、ちょっとよごれてるというか、大人すぎるというか。

で、今回の収穫は「レプリスは夢を見ない」だろうか。確かに全ての記憶を機械的に管理できるレプリスに夢を見る必要はないだろう。逆に言えば、レプリスは忘れることができない存在であるとも言えるが、別に覚えていようが忘れていようが、その記録を緊急度や重要度等で分類していけば、全てを覚えていても不備はない。

でも、この先、どんな展開なんだろう? 浩人と浩一が会うのは当然として、二人の繋がりをどう断ち切っていくんだろう? マスターの書き換え? そんな安直で身も蓋もないオチは嫌いじゃないし、実にレプリスらしくて良いンだけれど、そうはならないだろうし、なによりみのりさんが浮かばれないし。そういや、すっかり浩一君への恋に生きる女になっちゃったな、みのりさん。『叶わなかった恋の隙間を埋めるための代用品』みたいな、昼メロのような展開がステキだったのに。

第11話「try-bule」
2006/10/30 記

恭平に連れられ、浩一はレゥへと会いに行く。ヘリで連れられた先、浩人の病室で、レゥは浩一を待っていた。「母さ……ん?」初対面の息子が母親に呼びかける。振り向くレゥは浩一に微笑みかける。「おかあさんでいいの」「こういちくんはわたしのむすこなの」。けれど浩一は否定する。けれど、僕は息子として生まれたわけじゃない。浩人の治療用レプリス。作られた存在。

そのことを受け入れている浩一は淡々と語る。しかしレゥは「ちがうんだよ」とつぶやく。こういちくんはレゥの息子なの。レゥの家族なの。うまく説明できずに泣き出すレゥを慰めながら浩一はそれが真実であることを悟る。僕は愛されているんだ。僕は、生きていて良いんだ。ならば。

浩一は晴天町に戻る。教育実習を続けるため。父さんがそうだったように、そこで教師になるために。

そうして戻ってきた浩一にみのり、キスをせがむ。浩一君はわたしのだもん。最初に見たときからずっと。二人はキスを交わす。初めてのちゃんとしたキス。そこに現れた穂乃香、浩一を連れて商店街へと繰り出す。静かに歩く二人。そこで穂乃香は浩一にせまり、キスをせがむ。私とみのりさん、どちらかを選べないのなら、せめてハンデをなくしてください。

穂乃香にキスした浩一は空を見上げ、これからのことを思う。これから生きていくこの町のことを。

すっかりみのりが押されてしまい、穂乃香がのけぞるくらいに目立っている。……ってな位しか感想が思いつかない内容に、ここで終わっていれば良かったかもナーなどと思いついたり。どう考えても、この後に粘着質な泥仕合が始まるとも思えないし。つか、やっぱり穂乃香さんの扱い、当初から変わってないか? なにより、穂乃香さんが浩一君を好きになるための物語がなさ過ぎないか?

こんな二人から迫られれば確かにどちらかを選べないだろうけど、浩一君、アンタがもっと腹黒ければ面白かったのにと薄汚れた欲望を発露せずにはいられないデスよ。浩一君以外がピュアに腹黒でも可。試練を乗り越えて二人が融合していくさまにドラマがあるのだから。

第12話「parallel alliance」
2006/11/06 記

岸森浩人は目覚める。何の不足もなく、無事に。もう大丈夫だ。それを確認し、医療用レプリスの効果に感心する渡良瀬。そのレプリスである彼――岸森浩一――を心配する浩人。これから彼はどうなるのか? できればあの町で暮らして欲しい。そう確認し合う浩人と恭平。それは浩一も望んでいることで、そして恐らく、そうなるだろうとも。そこに駆けてきたレゥは、浩人を強く抱きしめる。

晴天町の浩一は、防波堤から海を流れる。

ここであった女の子。みのり。この町で僕に初めて話しかけてくれた女の子。

穂乃香さん。物静かなのに頑固で、けれど素敵に笑う彼女。

二人が僕を好きだという。僕はどちらも好きだと思う。けれど、僕はどちらが"本当に好き"なのかを決めなければならない。僕はどちらかしか選べない。彼女たちもどちらかだけが選ばれることを望んでいる。けれど……決められないよ。そんなこと。

こうして見える景色はきれいでなつかしい。それはもしかしたら浩人さんの記憶かもしれないけど、それでも僕自身がそれを感じることが重要なんだと、今は思う。たとえばそれはみのりや穂乃香さんのことも一緒で、それは僕がどう思い、どう決めるかが重要なんだ。僕が精一杯なにを望んでいるのかが重要なんだ。

そこにやってきた恭平。岸森浩人は助かった。おまえのおかげだ。ひょうひょうと口にする恭平。そして浩一に三つの質問を投げかける。「ふたりに会うか?」「教師になるのか?」そして「この世に出てきてよかったと思うか?」。未来への質問に、笑って答える浩一。ええ。世界は一度遠ざかったけれど、今はもう孤独じゃないって感じがします。

診療所でお弁当を作る穂乃香。鼻歌交じりでゴキゲンの様子。そうして出来上がったお弁当を手に学校へ。職員室に入ると、しかしそこには浩一へ自分のお弁当を食べさせているみのりの姿が。果敢に攻め込む穂乃香はみのりのお弁当をのぞき込み、思わず苦笑する。「……炭、ですか?」。焦りながらごまかそうとするみのりと、攻め手をゆるめない穂乃香。そんなふたりをみて笑う浩一は、哀れ、みのりの鉄拳を喰らう。

三人は『大志の大樹』へ寄りかかり、食後を涼む。なんだか楽しそうに言い合っている二人を眺めながら、浩一は、いつか自然に決断できるその日までじっくり待とうと決断する。急いだり無理したりせずに、いつかくる確信が心を満たしてしまうまで、この楽しい時間を過ごしていようと。

前回……いや、前々回ぐらいで緊張感が切れていたので、「あぁ、終わったなァ」以上の感想が思い浮かばない。矢張り前回で終わっていれば、と言う気持ちも強い。そしてなにより、メガネを外したみのりさんはヨゴレじゃなくなったンだな(※)、と感慨深く、怖い存在になりつつある穂乃香さんは本当に水島氏に愛されてるンだな、と感じ、最初から最後までどうしても影が薄かった浩一君は最後まで潔くなかったな、と困ったことに。ファーストヒロインがみのりなのだから、みのりを選んで終了、でも良かったのに。つか、むしろ後日談の方が印象深かったかも?

で、どうしても違和感がぬぐえなかったのが、大学に戻ると言い出した浩一君の態度。そもそも、大学に籍があるのだろうか? ってところからしてツッコミどころなんだが、単純に知識を得るためならレプリスなんだからインストール作業を行えば良いだけであり、経験値が必要であれば、それこそ晴天町で教職を続けていけば良いように思える。そういや、レプリスにも教員免許って交付されるのか知らん?

「生まれてきて良かった」はその通りなんだけど、しかし彼が人間になりたいのであれば葛藤があるだろうし、レプリスでありたいならその生き様には疑問が残る。彼はレプリスとして生まれ、その上、レプリスの手によって再び生まれ変わった存在だ。彼の心は浩人からの影響が強いとはいえ、しかしレプリスなのだ。それが人と変わらないのであれば、どうしてそれは人ではなかったのだろうか?

っと、再びめいびーさんと同じ違和感にぶつかって終わること自体、びりーぶさんはめいびーさんの続編にふさわしい出来なのかもしれない。

※まいめりさんのメガネキャラ「もとみ」のイメージから。そもそもメガネ娘が少ないKIDゲーにしてあのインパクト。KIDゲーのメガネ娘はヨゴレ役! と言われても仕方がない。

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