マイノリティ・リポート
短編集なので、短編ごとに。
・マイノリティ・リポート
次々に展開していく状況、複雑なようで難しくはない事実。相変わらずの監視社会に、ディックお得意の時間をつかったトリック、思わず感心する。さらに皮肉めいた終わり方に、やっぱりディックは面白いと再認識。
・ジェイムズ・P・クロウ
皮肉しか詰まっていない。世界がひっくり返ったのもそうだが、その後の世界についてもそうだ。そして、ジェイムズ・P・クロウ自身が言った、「我々は根本的に別のものだ」という言葉にも、それは詰まっている。
・世界をわが手に
本能ではなく、そこには只、エネルギーがあり、何かの拍子にそれがあふれ出てくるのだ、という一説にいたく共感してしまった。そのエネルギーの出方が一定であればそれは傾向と呼ばれ、その傾向を決めるのが価値観、というわけだ。
・水蜘蛛計画
タイムパラドックスもの。答えを過去から取り出そうとした為に、その過去を変えてしまい、その問いかけ自身が意味を失ってしまう、という実に皮肉が効いた内容。でも、当事者なんてそんなモンだ。
・安定社会
どことなく開放的な雰囲気が漂っているのだが、けれども世界はいつもの通り、徹底した管理社会だ。きっと主人公が空を飛んでいたからだろう。テクノロジーが人の可能性を広げ、その逆、人を抑圧する描写はほとんどない。ただ、オチはやっぱりはぐらかされた感じだが。
・火星潜入
古風で閉鎖的な火星社会。惑星間宇宙船が運用されている時代に石のカミソリでひげを剃ったことがない、ときた。こういった冒険譚を『追憶売ります』の主人公は体験したのだろう。
・追憶売ります
何もかもが妄想なんかではなく、本当のことだった、という苦笑するしかないネタ。妄想を裏付けるための偽証拠品の数々が、でも、彼の部屋にはその本物がある、という流れに、本当に皮肉がきいている。