ペイチェック
12の短編で構成されているので、短編ごとに感想。
・ペイチェック
タイム・スクープ、タイム・ミラー等のガジェットは面白いが、連立方程式の様な話という以上の感想は思いつけない。
・ナニー
身に詰まされる話だ。こと、PC業界にそこそこ貢いでいる身としては。そして、言葉無き機械達の、荒々しい思考描写が面白い。それがまた、商品に組み込まれた機能なのだ、という点、そしてその事実を受け入れ、新たなナニーを購入する主人公に、皮肉が効いている。
・ジョンの世界
読み終わったときに、僕は平行時間世界よりも、別のことを連想した。それはとても曖昧な記憶で、本当にはっきりしないのだけれど、とある理論があって、その理論は、すごく目が、それこそ世界の全てを見渡せるほど目が良いと、自分が120数人見える、というものだ。そして、その世界で目が良いとどのように世界が見えるか、をシミュレートするJava Appletがあったと思うんだが……いかんせん、その詳細は全然思い出せない。
・たそがれの朝食
例えそれが真実だとしても、人々がそれを信じないのなら、それは事実として認められない。デマルコが言うところの、『信じる権利が無かった』という状態だ。かといって、誰が酷い真実など知りたがるだろうか? それが我が身に降りかかる不幸であるのなら、なおさらだ。けれども、決して、信じなかったから、知らなかったから、と無視を決め込んでも、それはあるのだ。
・小さな町
ユービックのように、現実と虚構が入り交じった話。とはいっても、ユービックほど複雑ではないし、解りやすい話だ。けれども、何も解決しない。誰にとっても酷い話だ。
・父さんもどき
事件は解決しても、失ったものは戻ってこない。似ていてもおなじものじゃない。ある仕事を処理する機能としての人間は入れ替え可能なんだが、ある存在である事に対しては入れ替えがきかないのだ。ただし、代用品で妥協する事も出来る。
・傍観者
世界はくだらないと見切りを付けてしまった主人公にある種の憧憬を抱いた。しかし、社会学とはそういったモノだ。集団への同化意識、異物への排除欲。けれども、やっぱり僕は主人公に憧れるのだ。世界に見切りを付けてしまった主人公に。
・自動工場
機械の勝利、とでも言うべきだろうか? もはやあそこまで行き着けば、世界を支配しているのは機械でしかない。例えそれが人を生かすためのものだとしても、だ。
・パーキー・パットの日々
まぐれもの達の懐古趣味世界。夢も希望もなにもない。けれど、その表面は現代とも変わりない。
・待機員
仕事への情熱というものは、それが挑戦であればあるほど、そして、それをこなせばこなすほど、燃え上がってくる。簡単すぎてもダメだし、逆に難しすぎてもダメだ。出来るか、出来ないか、その境界線あたりがちょうど良い。たとえ、それが後ろ暗い情熱だとしても、仕事への情熱というものは、そういうものなのだ。
・時間飛行士へのささやかな贈物
何一つ、誰一人、自分自身ですら救われない道を、けれども望んで進む主人公のドス黒い情念は、僕の心に染みいってくる。いつか彼は考え直すだろうか? それとも、永遠に死に続けるのだろうか。
・まだ人間じゃない
人間とは何なのか。何を持って人間とするのか。人が人たる所以とは、いったい何なのか? そう問いかけながらも、現実は残酷であることも主張して止まない。それは本当に酷いことだけれど、でも、程度の差でしか計れない。そして、計ったところで解るのは、せいぜい「彼らと僕らは違う」と言った程度の事だ。絶対的な価値、なんてものは存在しないから。そして、そのことが不幸であり、幸福でもある。