初夜献上
開始直後にメインヒロインを主人公自ら轢死(?)させるという衝撃の始まり。……いいのか? 本当にそれで良いのか?
◆世界観
店と呼べる物がジュースの自動販売機しかないド田舎。少し歩けばすぐに外に出てしまうド田舎。自然の多い所らしいが、ゲームはただひたすら家の中で進行していく。そのため、作中の「田舎ですから」「田舎ですみません」という台詞が妙に嘘くさく感じる。
◆導入
始まりは一通の手紙。聞き覚えのない差出人に、内容は会った事もない祖父の急病。
複雑な心境の中、ともかく俺は行ってみる事にしたが……。
◆ゲームシステム
いつものヴィジュアルアーツ謹製システム。しかし、『新エンジン』と言うだけあって、アニメーション等々エフェクト関連の充実度が上がってます。また、3行アドベンチャーと言いますが、本作、メッセージウインドウは2行です。その分、文字が大きくて読みやすいのですが、文章を読みたい派にはちと物足りないかもしれません。
後、読み返し機能についてはホイールマウス対応等やや充実してきています。これに音声再生も加わっているとより良かったのですが。
◆音楽
特記事項ナシ。女性のみフルボイス。黒電話の効果音が泣かせます。
◆シナリオ
会った事もない祖父が、臨終の間際だと手紙一通で呼びつけられた上に、会ってももらえずに泊まり先の家でゴロゴロしている毎日。
そんな日常に慣れ始め、ここの生活も悪くないと思い始めた矢先、とうとう祖父と会う機会がやってくる。
そして知る自分の出生の秘密。この集落の因縁。初夜権。主人公の取る選択とは…
といった感じです。大がかりな仕掛けがあるわけでも、あっと驚くどんでん返しがあるわけでも、かといってどっしりとした王道路線という感じもなく、物語、としてはパンチ力にかけていると思います。
どちらかというと、サラッとプレイして萌える、というモノだと思います。
上記のようにシナリオ自体の魅力が薄いのですが、かといってキャラクタもそんなに濃いわけでもありません。が、個人的にはメインヒロインの比咩がとても気に入りましたし、そこに注力している様に見受けられます。つまり、よく言えば一点豪華主義の思い切りの良い作品、悪く言えば手間暇かけていない作品、という結論です。個人的には『新エンジン』システムのパイロットプロジェクト的な作品だったのではないかと思っています。
▼初夜権
シナリオ中、唯一の仕掛け。その集落に生まれる女は全て初夜を迎えた夜に土地に根付く『憎しみ』にとらわれ、その相手を殺してしまう為、集落の当主が結婚相手の代わりに初夜を奪い、且、体力を奪うという習慣。体力を奪う=刃物で刺す、であるために現場は血の水たまり、といった様相を呈する。
◆キャラクタ設定
・佐藤葉花[さとうようか]
-かわいくて、恐ろしくて、ほっとけない女。
ちょっとした事ですぐに泣いてしまう泣き虫な娘。事実、何かある度に泣いている。
そして、極度に目が悪い様で、時々メガネをかけている。
そんな葉花さんに対して主人公は「ずっとメガネをかけていれば良いのでは?」と提案するが、それは一蹴される。その理由が、
「嫌な物を見なくてすみますから」
話は進んで、主人公はそんな彼女を慰めつつ手を出すだが、実は彼女にはちゃんとした婚約者がいる。ただ、その関係はあまりうまくいっていないようで、元々情緒不安定気味の彼女はもうボロボロになって毎日泣いている。
毎日泣いて、毎日慰められて、その行き着く先は?
やがて祖父が死に、『初夜権』を得、且、混乱している主人公の元に送り込まれ、初夜権を迫る葉花さんに、主人公は拒絶をしめす。泣いている葉花さんに対して。「もう、やめましょう?」と。
でも、それは違う。全く見当違いだ。
主人公にとってそれは優しさかもしれないが、葉花さんにとっては拷問にも等しい行為でしかない。
なぜなら、彼女は多分…いや間違いなく他者依存症だ。自分では何一つ決められない。誰かにおぶさって、誰かの思い通りに、誰かの手の中でしか生きていけない女。そして、そのためにはありとあらゆる行動を取る。
優しくされれば必ず甘え、頼れる相手なら自らが保護対象である事を精一杯アピールする。
はっきり言って恐ろしい女だ。少なくとも僕には恐ろしい。
だから、結末が彼女と別れることであったことは、僕にとってホッとする結末であった。
・吉野比咩[よしのひめ]
-世界を恨むかわいいヤツ。
ゲームの頭、出会い頭に主人公に轢かれる。
次に出てきたときには右腕にギプス、顔にガーゼを当てて、主人公に「この人殺し」「死ね」と吐き捨てる。その後もしばらくはそんな調子だ。会うたびに「違う」「死ね」「うるさい」「だまれ」憎まれ口ばかりである。
しかし、それでも辛抱強く相手をしていると、ふと、かわいらしい一面を見せ始める。
食器を洗うシーン。手伝うという主人公を断り切れずにどの洗剤を使うかと聞かれて素直に答える。
食事のシーン。常に部屋で一人で食事をしているのだが、それは利き腕が使えない為に無様な食事風景を見せたくない、という背景があった。当然悪いのは主人公だが、やっぱり主人公の行為を断り切れずに食べさせてもらっている比咩。
真っ黒なカレーのシーン。主人公に無理矢理食べさせられたのだが、予想に反してその味の良さにもっととせがむのだが、結局主人公と交互にそのカレーを平らげてしまう。
比咩の髪を洗うシーン。なんだかんだ言いながら結局主人公に押し切られ頭を洗われてしまうのだが、その様がほほえましいというか何というか。
やがて祖父が死に、『初夜権』を得、且、混乱している主人公の元に送り込まれる比咩。
葉花さんの初夜権を既に終わらせていた、血まみれの主人公を見て最初は怯えているが、事態を飲み込み始めた主人公とその後、延々イチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャイチャ…
布団の中でじゃれながら「あ…今日も…エッチな事……するの?」
昼過ぎに起き出して「今度は…どんな風に…するの……?」
疲れた体で「あ、明日は…たくさん…するから…たくさん……頑張るから」
「そ、その……気持ちいい……の…?」
あ~~~~~もう、かわいくってしょうがねェんじゃ~~~~ッ!!!!
なんというか、久々にツボにはまりマシタ。
・小幡千鳥[おばたちどり]
-スポ根系。
一番、日常が楽しく、一番、内容が軽く、もっとも日常に近いシナリオ。彼女の人なつっこい性格、彼女との他愛ない会話、彼女と『一緒にいる事』の楽しさ。一緒に遊んで、一緒に草むらで寝ころんで、傷つけて、許されて。ひたすら前向きな彼女の思考が、多分、主人公を癒し、力づけてくれるのでしょう。
というか、この子の言動をみていると、どう考えても小学生、よく言って中学生の前の方なんじゃないかと思うンですが。
・河田菜々美[かわたななみ]
-人妻うすらボケ。
少々電波系も入っている天然ボケ主婦。料理の腕は『え?菜々美さんに料理させたの…?…勇気あるね…』ただし、味の方は異様に良いらしい。
このように料理の腕もほほえましいが、その言動もほほえましい。
「主婦いびりです」「はい、菜々美さんです」「ゆーわく、しているんですよ」
とはいってもサブキャラ扱いなのでこれといって活躍の場が無いのがちょっと惜しいです。
・河田里緒[かわたりお]
-小悪魔。
河田さンちの一人娘。推定4歳。何を考えているのか解らない。が、リアクションが割と面白く、菜々美さんと親子そろってゲームの重要なギャグメーカー。
◆総評
一週間もあれば十分クリアできる量で、且、システム的にもかなり快適に作られています。
内容も、薄いとは思いますが丁寧に作られており、シナリオ的な食い違いやシステム上の不具合もなく完成度は高いモノであると思います。
また、5,800円という価格を考えると、十分その価値があるのではないでしょうか。
個人的には今後に期待したいブランドです。
ただ、もう少し人間のイヤな部分や、後ろ向きな部分の描写があれば、そして増えていけば言う事無いんですが。
▼大熊猫
http://giantpanda.product.co.jp/