新 必殺からくり人 東海道五十三次殺し旅

テレビ東京放送版(2005/02/25~2005/03/15 放送)
 第1話「日本橋」
 第2話「戸塚」
 第3話「三島」
 第4話「原宿」
 第5話「府中」
 第6話「日坂」
 第7話「荒井」
 第8話「藤川」
 第9話「鳴海」
 第10話「桑名」
 第11話「庄野」
 第12話「大津」
 第13話「京都」

2005/08/23~2005/08/25 記
第1話「日本橋」
2005/08/23 記

 江戸で見せ物小屋を商っている一座、そこの座長を務める泣き節お艶。しかし、その裏には殺し屋稼業という姿を隠し持っていた。人の皮を被った鬼に金で恨みを晴らす裏稼業を。噺し家塩八、火ふきのブラ平、そして独楽使いの小駒もまた同じく。

 そんな一座にある日、十手持ちに追われた一人の男が逃げ込んできた。兎も角、その男をかくまう一座。しかし、次の日に奉行所に呼び出された一座は、「風紀を乱す」との一言で江戸払いをされてしまう。世に言う天保の改革だ。追われていた男の事を聞かれると思っていた一座はひとまず安心するが、帰ってきた4人を待っていたのは燃えさかる見せ物小屋だった。ここを怪しいとにらんだ同心が逃げた男をいぶりだすために火をつけたのだ。江戸払いどころか、帰る家さえ失ってしまった一座。

 そこに浮世絵師の安藤広重がやってくる。自分の書いた浮世絵、東海道五十三次にはただ風景を書いただけではない、と。これを書くために旅した先で歯噛みをするほどの悪人に出会って来たが、自分は所詮しがない絵描き。けれど、お艶さんなら、どうにか出来るだろう? と、お艶の前に130両を積んでみせる。一人10両。13人で130両。

 その仕事を受けたお艶はさっそく大名屋敷に入り込む。この中で行われている賭場、そこで背負った借金のかたに娘がとられ、しかもその娘達は大名が借金をしている大商人達の接待のためだけになぶり殺されていたのだ。お艶らはそこで一仕事を行うと、依頼を果たすために江戸を離れていった。新たな仲間、蘭兵衛を加えつつ。


 ってな感じで、かなり駆け足な展開に、面白くはあるんだけれど、なんだか置いてけぼりの気分に。それにからくり人達が怨みを晴らす仕事ではなく、依頼を受けて殺し旅をする、というのもなんだか不思議な感覚だ。また、『からくり人』とはタイトルに入っているが、話し的な繋がりは一切無く、キャストがほぼ一緒、というただそれだけなのもちょい微妙。ただ、殺しのシーンは派手になっており、ちょっと引っかかるだけで不満はない。お艶さん(山田五十鈴)は相変わらずのバチさばき、火ふきのブラ平(芦屋雁之助)はその名の通り脂を飲んで火を噴くし、、噺し家塩八(今昔亭志ん朝)は催眠術で相手を殺し、そして独楽使いの小駒(ジュディ・オング)は独楽で額に穴を開けるという、最もえげつない&面白い殺しをやってのける。花火を喰わせて爆殺する、なんて派手さは無くなったが、その隙間は小駒が十分に埋めている様に思える。

 また、浮世絵師の安藤広重役の緒方拳さんがナレーションをする、というなかなかに渋い配役にからくり人を見てきた人なら楽しめること請け合いだ。

 でも、前のからくり人全般に漂っていた、暗い影のような雰囲気が無くなってしまっているのが少々残念ではある。タイトルコールとか島抜けとか「負け犬の唄」とか、そう言うモンが無いからなンかねぇ……。
第2話「戸塚」
2005/08/23 記

 酷い男と一緒になった女が救いを求めて行き着く場所。そんな場所の一つとして東慶寺という尼寺があった。いわゆる駆け込み寺だ。ここで3年間我慢すれば夫と離縁できるという。そんな寺に今日もまた一人、不幸な女、おあきが駆け込んでいく。しかし、後一歩と言うところで追っ手に捕まってしまう。しかしてあわやと言うところで、お助け紋三郎と呼ばれている男に助けられる。そのまま、言葉巧みに蓬莱屋という店に連れて行かれるおあき。外面は優しく親切にみえるが、その蓬莱屋、じつは駆け込んでくる女達を食い物にしている悪党だったのだ。他に頼る術を知らないおあきはすっかり騙されてしまい、家を出た理由を蓬莱屋に話してしまう。そのネタでおあきの家にユスリをかける蓬莱屋。

 しかし、そのユスリは失敗し、蓬莱屋はおあきを女郎に売り飛ばそうとする。抵抗するおあきを強姦する紋三郎。紋三郎と蓬莱屋は結託していたのだ。そこにからくり人達が押し入り、おあきを助け出すと、蓬莱屋と紋三郎を生かしたまま連れ帰ってしまう。それからしばらくして噺し屋塩八が帰ってくると、蓬莱屋と紋三郎を解放するお艶。しかしその逃げた先には。これまで二人が散々食い物にしてきた女達が待ち受けていたのだった。縛られていた二人はなすすべもなく女達になぶり殺しにされてしまう。

 そしてその頃、酷い目に遭いすぎてこの世に絶望したおあきは、逃げ出すときに手伝ってくれた番頭と一緒に入水自殺を計ったのだった……。



 第1話とは打って変わって全編に臭ってきそうなほどの女の怨み、辛みがこれでもか、というほどに漂い、第1話の物足りなさは単に尺が足りなかっただけなんだな、と思わせるだけの凄まじい内容になっている。今回から殺しの仲間に入った蘭兵衛のひょうひょうとしたキャラクタも印象深いんだが、それ以上に騙され、虐げられ、利用され続けてきた女達の怨みの深さ、恐ろしさと言ったら!(「殺せーッッ!!!」とか叫んでくれマス) なんつか、もう、益々パワーアップしてやがりますわ、こいつら。スゲェ!
第3話「三島」
2005/08/23 記

 神社に奉納された灯籠に刻まれた名前、信吉とのぶ。どうやら次の殺しはこれに絡んだ話のようなのだが、唯一事情を知っていそうなおのぶに話を聞こうにもとりつく島もない。それどころか話を聞きに行った塩八は逆に追い出されてしまう。その知らせを受けたお艶は次に蘭兵衛を送り込む。後はこちらでやるから、揺さぶるだけ揺さぶってきて欲しいと。そんなお艶の態度に「恐ろしい人だ」と感情を隠さない蘭兵衛。やがておのぶと信吉が江戸に出て所帯を持とうとしていたこと、けれどその矢先に病死してしまったことを聞き出すお艶。

 しかし信吉の死に目に会えなかったという言葉から不審に思ったお艶は信吉の墓を掘り起こし、実は信吉が斬り殺されていたことを突き止める。その犯人はもちろん、役人と商人だ。その話を聞いてしまったおのぶは一人、役人に襲いかかるが、逆に切り倒されてしまう。蘭兵衛、ブラ平、小駒が怨みを晴らす中、瀕死のおのぶはお艶に怨み節を聞かせてくれるようせがむ。今から会える信吉にお土産を渡したい、と……。


 役人と商人、権力と財力が結託して好き放題に悪の限りを尽くす、というオーソドックスな作り。第2話の出来が良すぎたのか、どうもかすんでしまうように感じるのはしょうがないと言えばしょうがない事かもしれない。TVドラマの第3話ともなれば、恐らく二番手、三番手のディレクターが手がけたのだろう。或いは単純に脚本の問題かも知れないが。どうも役人のキャラクタがぼやけているンだよなぁ……。いや、細かいところを見れば、蘭兵衛さんが活躍したり、死に際に怨み節をおのぶがせがんだりと、見るべきポイントも無くはないんだが、矢張り、弱いというか琴線に触れないというか真に迫っていないというか。進行がのんびりで解りにくいってのも原因の一つかも知れない。チーフ、セカンド、サードの法則に従うなら、次も多分そんなに期待してはいけない気もするが、そう考えると旧(?)からくり人って良くできてたんだねぇ……。
第4話「原宿」
2005/08/24 記

 一座が山間で暖をとっている最中、目の前で一人の男が斬り殺された。ただ一言、「鶴」と言い残して。
 やがて次の宿場、原宿にたどり着いた一座は一人の女に出会うことになる。その女こそ鶴の秘密を知る女だったのだ。

 御領地であるこの地では、毎年、鶴の肉を将軍家に献上していた。しかし、その鶴がどういう訳か渡ってこなくなってしまった。それでも鶴の肉を(どこからか調達して)献上し続ける勘定役に対し、真相を領主に報告すべきだと進言した男がいたが逆に濡れ衣を着せられてしまい、切腹して果ててしまう。その男の息子の嫁がその女だったのだ。義父の切腹後、夫は来る日も来る日も父の切腹の真相を、やせ細るほどに追い求めていたが、それにたどり着くことは出来ず、次第に追いつめられて妻の体を昼夜を問わず求めるほどにまでなってしまっていた。

 そんな毎日に嫌気が差した女は、前々から言い寄ってきていた勘定役の元に走り、けれど事の真相を聞いてしまう。何もかもがこの男が仕組んだことだと。その事を夫に話すと、夫は妻の不義理に荒れ狂い、けれど領主に進言すると出て行ってしまった。そして殺されてしまったのだ。その怨みをお艶に晴らして欲しいと頼む女。お艶はその頼みの通り怨みを晴らすが、女はそれを見届けると燃えさかる小屋に飛び込み焼身自殺を図ってしまう。夫への贖罪を果たすように。


 予想に違わずというか何というか。矢張り、いきなり心中なんぞやられてしまうと後が辛いというか何というか。地獄なことは地獄なんだけれど、どうもぬるく感じてしまう。もっとこう……眉をしかめて顔を背けたくなるような、見ているだけで頭が痛くなるような、どうしようもなく暗い気持ちになってしまうような、そんな大地獄を待ち望んでいるのに、どうも物足りなくてしょうがない。或いは、僕の感性の方の問題なのかも知れないが、かといって盛り上がるネタ、演出ではないんだよなぁ。つか、むしろ時代劇で『鶴』というキーワードにどちらかと言えば女犯坊の方を思い出してしまって、図らずも(自分の中で)比較してしまっているのが敗因なんじゃないだろうか? 殺しからラストシーンに至るまでの雰囲気は凄く良いンだけどねぇ……。
第5話「府中」
2005/08/24 記

 盗賊が店を襲っていた。女も容赦なく殺す皆殺しの押し入りだ。そんな中、最後に生き残った女の子の部屋で三味線を見つけた頭目はおもむろにそれを弾き始める。その間に金を運び出す手下達。やがて金を運び出してしまった手下達がやってきたとき、頭目は最後の生き残りである女の子を指さした。始末しろ。そう、目で語りかけながら。

 そんな府中にやってきたお艶一座。そこでお艶はかつての弟子であった春之助に出会う。才能ある若者であった春之助であったが、7年前から行方知れずになっていたのだ。再開と、その変わらぬ三味線の腕に嬉しそうなお艶。しかし、春之助は盗賊の頭目であった。一家皆殺し、非道の限りを尽くす盗賊の。

 お艶はそのことに葛藤しながらも、仕事を終える。ただ一言、辛い仕事だったと言い残して。


 ただの残虐非道な盗賊が、お艶を絡ませることによって僅かに複雑さを獲得している。しかし、それ以上でもそれ以下でもないところが惜しいというか何というか。かといって、退屈ではないという辺りも、惜しいという気持ちを増大させている。わかりやすさや様式を重んじてのこと、なんだろうか? 長年の、しかも師弟などという、割と濃いめの関係を続けてきた相手を殺さなければならない葛藤も胸に迫るものがあるが、そんなに強く描かれていたわけでも、派手に描かれていたわけでも無い辺り、矢張り、物足りない。もっと二人の関係性に思い入れが出来るような構成になっていればなぁ……と思うのは、なにかに毒されてますかね? つか、見方が間違っているような気もしたりしますが。
第6話「日坂」
2005/08/24 記

 日坂に「夜泣き石」という大きな石がある。何でも昔、身重の女が山賊に追われた際、この石にしがみついて命乞いをしたらしい。しかし女は殺されてしまい、けれども赤ん坊だけが生き残った。そう言う話だ。

 そしてそれと全く同じような話が半年前にも起こった。身重の女が夜泣き石で山賊に殺されてしまったのだ。その断末魔の中、産み落とされた赤ん坊は女の妹、旅籠屋で働くおふじの手によって育てられていた。偶然、その赤ん坊を拾うことになったからくり人達は、やがてその赤ん坊の父親が生きていることに気がつく。その男は、なんと一芝居打っておふじの姉を山賊達に斬り殺させていたのだ。義憤に駆られる蘭兵衛だが、しかしその男は小駒の生き別れの兄だった。

 再開を喜ぶ小駒にお艶は仕事の相手が小駒の兄であることを告げ、「あんたの心はあんたが決めるんです」と言う。悲痛な面持ちでそれを物陰から聞くからくり人達。そして小駒はからくり人であることを選び、今回の殺しが始まった。小駒の兄を殺す仕事が。


 お艶さんに続いて今度は小駒。「あの子が裏切るなら、みんな一緒に死ねばいいじゃないか!」とはお艶さんの台詞だが、お艶さんが如何に小駒を大切に思っているか、はっきりと解る、今回屈指の名シーンだ。つか、そんな台詞を山田五十鈴さんの口から聞かされるとは……恐れ入りました。

 しかし、今後もこうやって一人一人掘り下げていくつもりなのか知らん? だとするとブラ平さんの回が楽しみだったり。
第7話「荒井」
2005/08/24 記

 浜名湖を望む荒井の関は、男は名前と行き先を告げれば通れるがが、女は通行手形が必要となる、女に厳しい関所だ。そこを通って尾張までかけおち仕様としている男と女。二人は最初、男装をして関所を通ろうとお艶一座の小屋に忍び込み着物を盗もうとするが見つかってしまい、お艶に説教されてしまう。しかしそれだけで許された二人、今度はどうしたものかと町を歩いていると、一人の男に声を掛けられた。どうやら関所破りを商っている一団がいるらしい。そんな二人の行く先をつけて見張れと言われた塩八は、しかし途中で見失ってしまう。関所破りの奴ら共々隠れて締まったのだ。

 そのことをお艶に報告するも、塩八は逆に脅されてしまう。今頃、あの二人、水の底かも知れないよ、と。そう言われて気になってしまった塩八は一人、船を操って二人を捜しに湖に乗り出す。しかし、そこにちょうど通りかかった役人に鉄砲で撃たれてしまう。その塩八を撃った役人は、湖側の小屋に入ると先ほどのかけおちした女の方が部屋に捕らわれていた。役人共々、こうやって裏街道を行くしかない人々を食い物にしていたのだ。

 撃たれた塩八は何とか一座の元に帰り着くが、既に瀕死の重傷、もはや助かるまいと蘭兵衛はお艶に首を振る。そんな塩八を心配して殺しの仕事を一時中止にしようと小駒は言い出すが、お艶は哀しげな声でそれを諭す。「おまえたち……この一座がどういう一座かって、忘れちゃいけないよ」。そうして舞台の幕を開ける一座。荒井宿ではなぜか役人達が足繁く通ってくれるのだ。その間、役所は空っぽ。そのために舞台を開けるお艶。

 しかし、やってきた役人達は塩八が出てこない事に不満を言い始める。塩八が出ないなら帰る。そう言い出す始末だ。何とかブラ平がなだめるも、とりつく島もない。そこに話を聞いていた塩八が愛想良くやってくる。今にも死にそうな顔をどうらんで隠して。ブラ平、蘭兵衛にしっかり頼むと良い、高座に一人上る塩八。いつものように軽快に話し出す。そんな塩八を思ってかけおちの二人を助けつつも怒鳴りつける蘭兵衛。そんな殺しの仕事も終わった頃、塩八の命も高座の上で燃え尽きてしまう。けれど、その顔は満足げに笑っていた。


 塩八、突然の別れ。しかも、殺しの現場で返り討ちに遭うのではなくあくまでサポート役の、けれど重要な役割を果たして。自分の好きな、自分の特技で仲間を助けることが出来た塩八の満足っぷりはどれほどのものだっただろうか? そして、熱いものを秘めてはいても日頃は冷静な蘭兵衛が怒鳴るほどの心境。劇中前半、妙にカワイイ小駒と対比するように悲痛な雰囲気の後半は胸に迫る。お調子者だけれどムードメーカだったのにな。この先、一座の旅は暗くなりそうだわな。
第8話「藤川」
2005/08/25 記

 一人荷台車で荷物を運ぶ蘭兵衛。しかしその車軸が折れてしまいどうしたものかと思案していたところ、馬引きの歌が聞こえてきた。早速その馬引きに荷物を頼むとお艶らと合流するために藤川に向かう蘭兵衛。その途中、何かを待ち続ける犬に出会う。雨の日もびしょぬれになりながら待っているという。やがて町に着いた蘭兵衛だったが、そこで献上馬にまつわるいざこざの事を耳にする。そして、それこそが今回の仕事の相手であった。

 献上馬とは、三河の国中から良い馬を集め、その中からさらに優れた馬を献上馬として差し出す仕組みだ。それに選ばれれば莫大な金が手にはいるという。しかし、その事自体に躍起になっているのはせいぜい役人と庄屋ぐらいで、馬主の元にその金が入ってくる等と言うことはほとんどない。つまり、金儲けの道具として馬を取引していたのだ。

 そんな中、蘭兵衛の荷物を運んでくれた馬に献上馬としての白羽の矢が立てられる。馬主はそのことを拒否するが、殺された上に残った孫娘から馬を取り上げるダシにすら使われてしまう。そのいきさつを見ていた蘭兵衛らからくり人達は一計を案じ、殺しの仕事を開始する。その馬と孫娘が一緒に居られるように。


 こういっちゃ何だが、フツー。安心して見ていられる、と言い換えることも出来るが、どちらかと言えば印象の薄い話だ。いや、人が何人も無惨に殺されているけどさ。しかし、回を重ねるごとに蘭兵衛さんのヒーローッぷりが上がる一方、益々格好良く見えるのはある意味凄い。演技の妙というか、役者が凄いというか、義憤に駆られている様がこちらにもチリチリと舞い散ってくるかのように感じることが出来るのだ。すごいよ近藤正臣氏。
第9話「鳴海」
2005/08/25 記

 鳴海宿の絞り染め問屋を血眼になって探し回っている女がいた。女は最初、夫を殺した下手人を捜してると言っていたがそれは真っ赤な嘘。本当は夫を殺したのはその女であり、夫を殺した理由である浮気相手を追ってこの鳴海までやってきたのだ。しかも、3年もの歳月をかけて探し回るほどに。


 と、まとめてみれば至極簡単な構図ではあるのだけれど、女の執念深さ、嫉妬の情念、一緒に居てくれさえすれば幸せになれるという盲信といい、女のイヤな部分を全面に押し出した、ある種痛快ですらある構成になっている。これで女の方が矢鱈に善人だったらなお良かったンだが……さすがに殺される側だしな。それでも、一人の男を思うが故に夫どころか周りにいる人間全てを不幸にしてしまうような、それでいて善良に見える女、ってのは(物語の題材としては)魅力的な存在だ。相手を思う気持ちがどこまで純粋になれるか。ただ、相手を思う存在そのものになりきるためには何が必要なのか。ノイズを排除し、その思いをひたすらに純化させていく様は、多分、ボクのココロの奥底にまで響くだろう。そこで出された結論が、たとえ殺人だろうと、たとえ無理心中だろうと……って、話がそれた。つか、それくらいやって欲しかったンだけどねぇ……。
第10話「桑名」
2005/08/25 記

 桑名で造船を取り仕切っている角屋善兵衛。しかしそのやり方はあまりに悪どく、船大工達はまるで罪人のように監視され、来る日も来る日もこき使われ、また、帆を織る女達は「機織りの仕事だ」と騙されて最初は女郎屋にいかされる始末。しかもそれで散々食い物にしたあげく、病気などで女郎が出来なくなった瞬間、今度は帆を織る仕事でこき使い、まるで奴隷のように使われていた。そんな中、船大工の小吉は帆織りのおしのと恋仲になり、二人して逃げだそうと画策する。そこに通りかかった一座は、おしのをかくまい、小吉が迎えに来るのを待つが、時遅く、おしのは労咳を煩って死んでしまう。怒りのあまりノミを片手に角屋に押し入ろうとする小吉だったが角屋のちんぴらにあえなく殺されてしまう。からくり人達は小吉達の敵をとるように角屋に向かう……。


 殺しの場面で障子の紙があっと言う間に燃え上がり向こう側の殺し場面が見える、という演出が印象的。それ以外だと二人を同時に串刺しにする蘭兵衛さんとか、それくらいな感じ。それ以外はまたしても普通。或いは、慣れてきたのか、飽きてきたのか。
第11話「庄野」
2005/08/25 記

 大名行列を泊める"本陣"、その株を巡る騒動に導かれた一座は、脇本陣の村田屋が怪しいと睨む。一年前に本陣の主人が行方知れずになったのも、村田屋が本陣の株を狙ってのことではないかと。金に物を言わせ、そして凝った芝居を打った村田屋は次第次第に本陣の当主、おるいを追いつめていく。やがて村田屋に体を奪われ、そしてその上恋仲の人にも裏切られたおるいは世をはかなんで身投げをしてしまう。直後、おるいを助けた蘭兵衛はブラ平と共に村田屋近くの墓地で村田屋一派を待ち受ける。彼らのための墓穴を掘りながら。


 本陣や大名行列云々の講釈は面白いんだが、刺激は少なめ。殺しの仕事をしながらも墓穴を掘り続けるブラ平がなんとも良い味になっている。つか、その直後にお艶さんが刀を飛んで避けたのには思わずのけぞったが。勧善懲悪はお約束とはいえ、これを必殺でやる必要が果たして有るんだろうか……?
第12話「大津」
2005/08/25 記

 大津の宿にたどり着いたからくり人達がちょっと骨休めをしている間に殺しの手がかりになる絵が盗まれてしまった。仕事のアタリを付けられずに難儀する一座だったが、たまたま茶店に飾られていた同じ大津の絵を発見し、そこから殺しの手がかりを得ようと行動を開始する。

 ところがその盗まれた絵は代官屋敷に持ち込まれていた。代官は運び商の宗右衛門と結託し、目星を付けた女から通行手形を盗み出し、あげくに騙して女郎屋に売り飛ばす悪行をはたらいていたのだ。そしてその絵に不審をもった代官は一計を案じ一座に対し罠を張る。その場に出向いたお艶は代官から鋭く内情を探られるがそれをスルリとかわすと、逆に代官と宗右衛門が怪しいという確信を得る。そこにブラ平の持ち帰った情報を合わせ裏がとれたからくり人達は、早速殺しの仕事に取りかかる。人を食い物にする悪人共を斬るために。


 珍しく血の表現がある。足を貫かれた宗右衛門、首を貫かれた服部、双方に赤い血が。いわゆる「血のでないチャンバラ」でもあるからくり人ではあるが、たまにどぎつい血を使った表現があり、面食らうときがある。第4話の切腹のシーンなど、かなり驚いた。そりゃもちろん、人間、切られたり撃たれたり殴られたりしたら血が出るもんだけれどもさ。しかし、どうして「血のでないチャンバラ」へと時代劇は進化を果たしたのだろうか? 技術的な問題だったのかも知れないし、お茶の間にそんなどぎつい映像を流しちゃいかんという配慮かも知れないし、或いは、単に予算の都合かも知れないし。ま、ある種のファンタジーでもあるし、今更、違和感も何もありゃしないけど。
第13話「京都」
2005/08/25 記

 検校の官位を得るために江戸から京都まで旅してきた娘連れの座頭がいた。名を左市という。検校の官位を得るには千両もの大金が必要で、それを貯めてやってきたのだ。しかも、ただ貯めるのではなく、四十二人の座頭を代表して、だ。その四十二人から少しずつお金を集め、左市が代表して検校の官位を得るという。検校の官位があれば金貸しが出来るようになるのだ。それなら座頭でも楽な暮らしが出来るようになる。そのために四十二人を辛抱強く説得し、15年もの歳月を掛けて千両もの金を貯めたのだ。

 しかし、その千両もの大金に目を付けた京都所司代の役人達は、やってくる座頭達を橋の上で待ち受け、金をだまし取っては殺していたのだ。早速殺しの仕事にかかる一座。しかし、その途中で左市は殺されてしまう。今際の際、娘に検校を持って帰るよう頼む左市。それを受け、娘は自らの目をつぶして検校の目録を受け取る。志半ばにして果ててしまった父親の身代わりとして。


 最終回っちゃ最終回なんだが、あんまり盛り上がらず。まとめには書いていないが、これ以外にも蘭平衛さんが追っ手から逃れるために顔を焼いたり、この殺し旅を依頼した安藤広重が実は公儀の隠密だったり、とネタは満載なんだが、いかんせん第1話同様、性急すぎた。



 結局、総合すると第2話が一番面白かった、と言うことになる。時点で塩八死亡の第7話、妄想膨らむ第9話、と言ったところか。それ以外はいまいち心に残らない。どうも地味なのだ。提携通りをそのままやっているというか、教科書的というか、先が読めないことによって興味を引き続ける訳じゃないのだから、もっと感情移入させるべきだと思うんだが……最大公約数的にこうなった、ッてことなのか知らん? 或いは、そう言う一般的な感情移入対象に僕が感情移入できない、ただそれだけなのかも知れないが。思いつくのは、殺しに行くときに闇夜の中を走って行く、というあのシーンが無かったから、位で、確かにあのタメ演出は欲しかったけれど、それだけじゃ無いよな、やっぱ。
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